memories:マッチネア
炎みたいな花、なんて言われているけど私にはこのマッチネアが金魚の口のように見えてどうにも口元が緩んでしまう。
先輩がいなくてもこうやって花の世話をして部活動に励んている自分が、4月の、あの頃の自分のことを思うとなんだか不思議でならない。
そうやって花壇の前に座り込み、いつものように花の手入れをしているとそれは唐突に起こった。
「晴哉先輩のことどう思ってるんですか」
不意に降ってきた声に視線を向ければ、後輩の女の子がそこに立っていた。腕に見慣れた腕章をつけ、肩まで伸びた髪が、陽の光を浴びきらめいている。
彼女の真っすぐな眼差しが、なんだか眩しくて。
──可愛いな、などと考えている間に、彼女は私の隣に座り込んできたかと思うと
「晴哉先輩のことどう思ってるんですか」
もう1度そう問いかけてきた。
「えっと、設楽さん、だよね。風紀委員の。突然で上手く状況が飲み込めないんだけど晴哉はただの幼馴染だよ」
そう返すと、彼女はハッとしたように小さく息を漏らし
「あぁ、そうですよね。すみません」
と頭を下げた。
そうして1つ深呼吸すると「私、晴哉先輩のことが好きなんです」と私の目を真っすぐ見つめ、そう告げた。
「……なんで私にいうの? 晴哉に直接いえばいいじゃない」
代わりに伝えてくれとか、協力してくれとか、幼馴染だから距離が近いから宣戦布告ってことだろうか。ならお門違いも良いところだと思う。
私は家が近所で親同士が仲良かったから付き合いのあるただの幼馴染なんだから。
口を開こうとして彼女に目をやると、彼女は少しだけ遠くの方を見つめていた。つられるように、その視線の先を辿る。
「なら、私いってもいいんですね」
その先には、楽しそうに騒いでいる数人の男子生徒がいた。
風が、私の横を勢いよく吹き抜けていく。視界の隅でマッチネアの赤がダメだと私を呼び留めるように大きく揺れている。
「晴哉先輩に好きって」
あぁ。
その中に───晴哉がいた。彼女の晴哉を見つめる目は優しくて、穏やかで、眩しそうで、酷く───泣きそうだった。
どうしてこの子はこんな目をしているんだろう。
私が答えられないでいると彼女が言葉を変えてこう告げる。
「私、晴哉先輩に好きって伝えますね」
痛い程真っすぐに私を見つめて。
……好きにしたらいいじゃない。誰が誰に告白しようとも、たとえそれが晴哉に好きと誰かが伝えるということでも私には関係ない。
〝好きにすればいいと思うよ〟
そう告げようと思っていたのに、
「やだ」
───……え。
私の口から出た言葉は自分でも信じられないもので。私はこんなにも独占欲が強かっただろうか、なんて的外れなことを思いながら、だけど心のどこかですとんと何かが落ちて、しっくり来たような気もする。
そんな自分のことに訳がわからず戸惑っている私を横目に、彼女は満足そうに微笑んでいた。
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