memories:シロツメクサ
河原で数時間かけて作ったシロツメクサの花冠はお世辞にも綺麗だとはいえないものだった。
なんでこうなったんだろう……。
私は数時間前のことを思い出していた―――。
今日は久しぶりに部屋の大掃除をしよう。そう意気込んで掃除に取り掛かったものの、すぐに私の興味は押し入れから見つかったアルバムに移ってしまった。幼い頃の私が両親や晴哉たちと笑顔で映っている。
ぱらぱらとページを捲っていると1枚の写真に目が留まった。綺麗な花冠を被って満面の笑みを浮かべた私が映っている。
「うわぁ、懐かしい……」
そういえば子どもの頃よく花冠を作って遊んでたっけ。
そう昔に想いを馳せていると無性にまた花冠が作りたくなってきた。そう思いついた途端、どうしても居ても立っても居られなくなって、部屋の掃除もそこそこに私は近くの原っぱに向かった。
―――それが数時間前の話。
「いくら子どもの頃に作ったきりっていってもこれはないでしょ……」
目の前にあるのは写真に写っていた花冠とは程遠い出来栄えのもの。
シロツメクサはボロボロに萎れ、見えるのは茎の部分の緑ばかり。輪っかになったのもたまたま上手く止められたといった具合。写真のシロツメクサの花冠は真白な花がぎゅうぎゅうに並んで、アクセントのようにポイントで青や黄色、ピンクといった彩りどりの小さな花が入っている。
「もう、なんで上手くいかないの」
拗ね気味に携帯を取り出し、作り方を検索する。なんだか負けた気がして悔しい。凄く悔しいけど、作れないのはもっと悔しい。そうしてイライラと携帯を操作していると、
「何してんの?」
と不意に声をかけられた。弾かれるように顔をあげれば、怪訝そうな晴哉の顔があった。
「掃除してたら子どもの頃のアルバム見つけてさ。そこに花冠付けた私が写ってて、見てたらなんか懐かしくなってさ。で、花冠作りたくなってここに来たはいいけど全然作れないの。昔は作れてたはずなのに。今作れないなんて絶対おかしい!」
そういって手元に視線を戻せば呆れたような溜息が耳に届いた。
「お前は昔から不器用で、花冠なんて複雑なもん作れた例がないだろ」
そういって隣に座る気配がする。
視線だけそちらへ向けてみる。
晴哉が近場に咲いているシロツメクサを幾つか摘んで手際よくそれを編んでいく。あっという間に作り上げられたのはシロツメクサのブレスレット。
「ほら」
そうやって投げてよこされたブレスレットはあの写真の冠のように綺麗にシロツメクサの白が並んでいる。
「あの頃も不器用なお前の代わりにいつも俺が作ってやってただろ」
「嘘っ。私だって作れてたって」
「はいはい」
興味なさげに私の言葉を流しながら、晴哉はまた何かを作り始める。摘んだシロツメクサの茎を輪にして、その輪に余った茎を器用にぐるぐる巻きつけていく。
晴哉の手の中で、さっきまで道端に咲いていたシロツメクサが違うモノに変わっていく。それは、まるで魔法みたいだと思う。
暫くその様子を見ていると、パッと顔を上げた晴哉と目が合った。
「手、出せ」
唐突に告げられ、反射的に右手を差し出す。
「初心者はこれくらいから始めた方がいいんじゃねぇ?」
そういいながら薬指にシロツメクサの指輪がはめられる。
「まぁ、お前には無理だろうけどな」
服に着いた草を払いながら立ち上がると、晴哉は私を置いてとっとと歩き出す。
――――しれっとこんなことしやがって。
右手にはめられたシロツメクサの指輪を見つめながら、ふと、こんなこと誰にでもしているのだろうかという考えが頭を過った。
「……晴哉のくせに生意気だわ」
そう思うと、何故か少しモヤッとした気持ちが生まれる。
口を衝く悪態とは裏腹に、なんだか熱くなる頬を冷ますように私は駆け足で晴哉の後を追った。
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