第46話 アブリル・カーン①

「てめぇっ!……よくもあたいの部下をっ!」


 アブリルは高く飛び上がるとグリシアに向かって飛び蹴りを仕掛けた。しかしグリシアの鋏腕で防御されその場に着地せざるを得なくなる。グリシアが鋏を大きく開けると銃身が出て来て、なんとレーザーが発射された。


「おっとっとぉ、油断ならねぇな」


 飛び退いた地面には焼けただれた跡が残り、その威力で大出力のレーザー光線だと理解できた。

 そこにまたブラッドクロスの部下が押し寄せて来てアブリルは囲まれてしまう。


 一方マルリースは、道着姿で大柄の筋肉隆々の男と対峙していた。国籍も人種も不明だが、ぼさぼさの黒髪から覗く目は異様に研ぎ澄まされていた。身のこなしから武道の使い手だと見て取れる。既に銃弾を何発か浴びせていたが、腕に付けた金属製の籠手で全て弾かれていた。


「何者だ貴様……強化人間か?」


 マルリースが問うと、男は立ち止まって肩をグルっと回した。


「俺は虎丸、ドーピングキディだ……若王丸流合気拳法のマスターでもある」


 低い声に交じって凄まじい威圧感がマルリースを襲う。


「にゃくおうまる流の拳法だと?……」


 マルリースでも聞いた事がない流派だった。

 マルリースも気合を入れると淡い青光が全身を覆う。パワーバースト状態になった証拠だ。刀を抜いて正眼で身構える。

 虎丸はその光に一瞬目を瞠るが、不意に気を高めるとタックルのような格好で突進した。


「巌山衝っ!」


 凄まじい勢いで突進してくる虎丸を刀で受け止めようとするが、目に見えない壁のような物で押されて刀が届かない。それどころか激烈な圧力に飛ばされそうになる。


「くっ!……貴様、気を使うのか!……」


 パワーバースト状態のマルリースをスピードとパワーで上回り、そのうえ気功を使うとなると少し厄介だ。


「ふん、今の技を受け止めたのはお前が初めてだ」


「喋っている暇などあるのか?」


 マルリースは刀で連続して切り付けるが、全て籠手で受け流されている。どうやら防御にも気功を使っているようだ。最後に上段切りを両籠手をクロスして受け止め、強烈な左足刀蹴りをマルリースのみぞおちに減り込ませる。続けて大きく後ろに引いた右拳をボディーブローのように打ち出した。


「虎咆っ!」


 気の乗った右ボディーブローはまともにマルリースの胸を打ち、衝撃で突き飛ばされて後ろの工場の壁に激突する。辛うじて受け身は取っていたが、かなりのダメージを負ってしまった。


「ぐふっ!……」


 立ち上がったマルリースの口から少量の血が零れる。


「お前こそ、その光は何だ?」


 虎丸が近付きつつ質問した。


「……私は特殊な強化人間らしくてな、これはパワーバーストと言うんだ」


「強化人間……遺伝子操作で強化された者か……面白い……」


 虎丸はまたマルリースに向かって走り出す。

 それを見てマルリースは刀を鞘に終い、鯉口を切ったまま低い姿勢で虎丸が接近するのを待った。

 虎丸はまたタックル技の巌山衝をやって来た。間合いに入った瞬間マルリースは大きく1歩踏み込みこむ。マルリースからにじみ出る青光がより一層輝きを増し、目にも止まらない速さで刀が抜かれ、その瞬間切っ先が音速を超え、バァンッ!とソニックブーム音が鳴り虎丸の腕を直撃する。


「うぉぁぁっ!……」


 虎丸の巌山衝は攻防一体の技で刀を完全に防いでいた筈だが、気功の壁をものともせず、籠手で防いだ腕もろとも粉砕して、20mほど叩き飛ばされてしまった。その場で虎丸は気絶している。

 マルリースは刀を鞘に収め、銃を取ってリボルバーのシリンダーを傾けると空になった薬莢を捨て、スピードローダーで弾を充填する。

 中央に目を転じると、アブリルが20人ほどの敵に囲まれていた。そこにグリシアが後ろから襲いかかろうとしている。4本足で蜘蛛のように移動し、前足を高く上げると尖った先端を突き刺そうとする瞬間だった。


 ダァンダァンダァンッ!!!

 ギンッギンッギンッ!!!


 マルリースの撃った弾丸がグリシアに迫るが、簡単に鋏腕で弾かれる。それでもアブリルに向けられた攻撃を逸らす事は出来た。


「んんっ!?……何だ貴様は!?」


 グリシアはマルリースに向き直ると顔を歪ませて睨んで来た。

 マルリースは微笑を浮かべて睨み返す。


「ファムファタルウルフ海賊団のマルリース・リッグスを知らないのかい?」


「はっはぁぁ、貴様がマルリースか……宇宙ではちょっとは名が売れてるようだけど、ここではそうはいかないよ、猫女と纏めて葬ってやる」


「出来るものならな」


 マルリースが動くとグリシアは鋏腕を開けてレーザーを発射する。辛うじて避けると横に走りながら顔、腹、足の付け根を瞬時に銃撃した。


 ダァンダァンダァンッ!!!

 キンッキンッガンッ!!!


 顔と腹を狙った弾丸は防がれたが、足の付け根を狙った弾は関節部に見事に当たる。関節が壊れグリシアの体勢が傾いた。


「何っ!⋯⋯」


 それでもグリシアはまだ3本の足が残っているのですぐに体勢を維持する。


「やはりな、関節は弱いと見える」


 マルリースはまた腰を弄りスピードローダーを取り出して弾を充填する。

 すると丁度グリシアを挟んで向こうにいたアブリルと目が合い、何かを感じ取ったのかお互いに頷いて合図をしあった。

 マルリースは立ち止まってグリシアに銃口を向け銃弾を連射する。


 ダァンダァンダァンダァンダァンッ!!!!!


 弾丸はグリシアの顔面に迫っていくが、全て弾かれるか避けられるかして当たりはしない。しかし、その後ろからジャンプしていたアブリルが、グリシアの首元を狙って爪を振り下ろした。


「ぐあぁぁっ!」


 グリシアの悲鳴と共に、首から血しぶきが噴き出した。首はサイボーグ化されていなかったのだ。

 それでもグリシアは倒れはしない。着地したアブリルに鋏腕を振り下ろそうとする。


 ダァンッ!


 その瞬間、マルリースの銃弾がグリシアのこめかみに減り込み、反対側から大量の肉塊を伴なって貫通した。

 一刻置いてグリシアの上体がぐらつき、その場に崩れるように倒れた。


「やったなマルリース、大したもんだ」


 アブリルはグリシアの有様を確かめると、マルリースに向かって親指を立てた。


「アブリルのアシストのお陰だ」


 周りを確認するともう既に片が付いていた。グリシアが倒れた時点で10人ほど残っていた部下たちは一目散に逃げだしていたのだ。


「済まねぇな、あたいたちの抗争に巻き込ませちまって」


「なに、こんな事は慣れているよ」


 こちらの被害はビスト団の1人が殺られただけで、ファムファタルウルフ海賊団の被害は何もなかった。ビスト団のキマイラである羊のレイとレトリバーの高島も無傷なので、相当な手練れと見える。

 そこに空から射撃を行っていた凛華がバーニアを吹かせつつ着地してきた。


「怪我はないですか艦長」


「問題ない、それよりナイトメアは無事だな」


「えぇ、今セダが持ってきます」


 セダとその部下たちが急いで持って来たナイトメアのケースを、ビスト団のエアバイクに積み込んだ。


「そう言や、さっきのマルリースが光っていた現象は何だ?」


 アブリルが思い出したように質問してきた。戦いの中でマルリースの発光現象を目撃していたのだ。


「私もよくは解っていないのだが、どうやらパワーバーストと言う現象らしい……強化人間の中でも私を含めて4人しかいない、ミーナ型遺伝子を持った者だけが体現できるみたいだ」


「ほぉ~、興味深い……よし決めた、あたいはファムファタルウルフ海賊団にしばらく居候する」


「「ええっ!!!」」


 その場にいるほとんどの者が驚愕の声を上げる。


「な、何を言うんですか藪から棒に!」


 レイの悲痛な叫びがこだまする。


「別にあたいがいなくてもビスト団はやっていけるだろ?……後はレイと高島に任せるから、あたしはマルリースとしばらく旅に出る」


 アブリルは満面の笑顔で、着いて行く気満々だ。


「そんな勝手な事……」


 凛華も抗議しようとするが、高島が横から話し出した。


「アブリルは昔からこんな奴だ、自分が気に入った事にはとことん首を突っ込む……言い出したら聞かんからな、済まんが面倒を見てやってくれ」


 高島は言ってからマルリースに頭を下げた。


「だからそんな勝手が許されますか……」


「まあいいじゃないか……」


 マルリースは憤る凛華の肩に手をやり制する。


「その代わり、ここより危険な目に遭うかもしれないぞ」


「へんっ、だから面白いんじゃないか、あんたの戦いっぷりを篤と拝んでやるよ」


「いいだろう、私も気に入ったよ」


 マルリースとアブリルはがっちり握手をする。

 その横で凛華は呆れた表情でムスッとしている。


「まったく、甘いんだから」



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スペース☆ダイハード 市永剣太 @yam1801

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