第37話 メグミ対グァンロン①

 どうやら右肩が動かないようだ。

 しかし痛いのは一瞬の事で、すぐに立ち上がってタックルをかます。

 リーランは手摺りを持つために短剣を離していたのだ。

 馬乗りになったジュリアはリーランの胸倉を押さえて顔にヘッドバットを4回落とした。

 リーランは朦朧としながらも何とか足をジュリアの体に潜り込ませて蹴飛ばし、間合いを開けさせる。

 ゆっくりと立ち上がる2人だが、リーランは口の端から血が垂れていた。やはり頭部は生身のようだ。


「流石に頭は機械化できないでしょ」


 ジュリアの額にも血が滲んでいる。不敵な笑みを浮かべているがダメージはかなりあり、右腕はだらんとなったままだ。


「それはどうかしら……」


 リーランが答えると同時に右目の眼帯がスライドしたと思うと、赤く光ってジュリアの眉を焼いた。


「アチッ!……レーザー!?……」


「チッ……外したか……」


 ジュリアは赤く光った瞬間、咄嗟に数㎝動いていたのだ。パワーバースト状態になっていなかったら反応が遅れて目を焼かれていた事だろう。

 そこに騒ぎを聞きつけてやって来た海賊団のクルーたちが数人現れた。


「姉さん!……大丈夫ですか!」


「大丈夫とは言えないね……私はグァンロン様が気になる、後は頼んだよ」


 リーランはそう言い残すと男たちと入れ替わり、その場から離れて階段を上がって行った。その先はメグミが行った筈だが、ジュリアの目の前には男5人が銃を構えて容赦なく撃ち込んで来ているので後を追えない。


 ババババババババババババッ!!!!!!!!!!

 ダダダダダダダダダダダッ!!!!!!!!!!


 仕方なくリーランが最初に出て来た会議室の中に飛び込んで弾雨を躱す。そのついでに落ちていたサブマシンガンを拾い、左手で引金を引いた。


 バババババッ!!!!!


 弾は5発で打ち切りとなり、弾倉を交換しなければならなくなった。


「チッ……弾切れか」


 左手しか使えない分、交換がたどたどしくなってしまう。その間に男たちがこっちに向かって来ていた。開いたままの扉の向こうに影が見えた。男たちがやって来るギリギリのところで弾倉をセットすると、勢いよく飛び出して空中にいる姿勢の間にマシンガンをぶっ放す。切羽詰まった状況の中ジュリアの神経が異常に高ぶり体から出る黄色い光が一層増した。


 バババババッ!!!!!


 飛び出した瞬間からスローモーションの映像に切り替わったかのように相手の動きが捉えられ、マシンガンの弾が出るリズムと同じリズムで男たちの頭を狙って行く。5発の銃弾は見事5人の男の頭に吸い込まれ、血が噴き出す瞬間までくっきり視認できた。その映像を見届けながら受け身を取って転がり立ち上がる。


「なるほど、これが真のパワーバーストか……ほんとに世界が遅く感じるわね」


 マシンガンを持った手で額の汗を拭うとその場にへたれ込んでしまった。



 *****



 一方、階段を上がったメグミは割と広いエントランスに出ていた。船首側に艦橋へ入るガラス張りの扉と、船尾の方に木材で誂えた豪華な扉がある。おそらく艦長室なのだろう。


「誰もいないのか?」


 船首の一番上に位置しているため左右には窓があるが、左は岩しか見えず右は黄土色のテントしか見えていない。

 メグミは艦長室らしき扉に近付く。


 ガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!!!!


 突然、何発もの銃弾が扉を突き破って撃ち込まれた。

 メグミはまだ扉の前に立っていなかったので当たってはいない。銃弾は艦橋扉の横の壁に減り込んで煙を上げている。

 艦内の壁はタフポリマーと言う軽くて高強度高弾力素材で出来ているので貫通する事はない。


(この音、ガトリングガンか……44より厄介だな)


 マルリースが言っていたようにグァンロンはガトリングガンを撃ってきた。1発でも当たれば体に大穴が開くだろう。

 扉の横に張り付いて、大きく割れた所からチラッと中の様子を窺う。一瞬だがソファーと立派な机が目に入ったが、グァンロンの姿は見えなかった。


「隠れてないで出て来いよ、グァンロン……それとも、あたしが怖いのか?」


「隠れてるつもりなんかねぇよ……」


 ガシャン!……ガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!!


 メグミと同じように扉の横に張り付いていたグァンロンは、割れた扉を体で突き破ってメグミの前に現れガトリングガンをぶっ放した。身長は214㎝あり体重は240㎏と迫力のある体格をしているが、これでも強化人間だ。しかも頭は辮髪で三つ編みにした髪を背中に垂らしていた。

 メグミは瞬時に跳躍していて、銃弾は何もない所を通過する。天井で跳ね返ったメグミはグァンロンの頭頂にナイフを突き刺そうとすが、グァンロンは前に転がってそれを避け、メグミの着地際に足払いを仕掛けて転倒させた。そしてメグミのマシンガンを蹴り飛ばすと、覆い被さるように至近距離でガトリングガンを撃とうとする。


 ガシッ!……カチッカチッカチッ……。


「何っ!」


 グァンロンが引金を引いても弾は出ない。メグミが回転するシリンダーの間にナイフを捩じ込んだのだ。グァンロンはガトリングガンを右手に固定するように持っているので、メグミはそのままグァンロンの腕を捩じると、腰を蹴り上げ巴投げのように床に叩きつけた。


「うりゃ!……」


 体重差は4倍以上あるが、パワーバーストしているメグミには全く抵抗はなかった。


 ドスンッ!「ぐはぁ!……」


 グァンロンは一瞬息が詰まる。

 メグミはまだ掴んでいた右手に足を絡めて腕挫十字固を決める。


「ぐぁっ!……何て力だ!……」


 グァンロンは痛みに耐えながらも立ち上がって、腕ごとメグミを高く持ち上げた。


「オォラァッ!……ナメやがって!」


 怒りで咆えると、まだ腕にしがみついているメグミを壁に打ち付けようとする。メグミはすぐに腕を離し回転して着地した。


 バンバンバンバンッ!!!!


 着地と同時にベレッタを取り出すとグァンロンの背中に撃ち込んだ。


「がぁぁぁっ!……」


 グァンロンは体を逸らして至極痛がっているが、倒れる事はなく立ったまま怒りの表情を浮かべている。


「あ、あれ?……」


 メグミのこめかみに汗が一筋垂れる。グァンロンは皮下脂肪が厚く、9㎜弾くらいでは致命的な部分に届く前で止まってしまったのだ。


「痛てぇじゃねぇかこの野郎……」


 壁に打ち付けてひん曲がってしまったガトリングガンを放り捨てると瞬時に間合いを詰めて、右足をメグミの股下に踏み込み右正拳を叩き込む。グァンロンも流石に強化人間だけあってメグミは避ける間もなかったが、辛うじて両腕を合わせて拳を受ける。衝撃で銃が弾け飛び、周りの空気が圧力で押し流れる。なおも膂力を流しきれずメグミの軸足が浮いた。そこにグァンロンのラッシュ、左フック、右アッパー、左ストレート、そして右足で蹴り上げると最後に回転浴びせ蹴りがヒットする。


「がはぁっ!……」


 最後の浴びせ蹴りで飛ばされたメグミは壁に激突した。

 何とか立ってファイティングポーズをとるが、流石に顔がひどい状態になっている。体も痣だらけになっているだろう。


「へへっ……中華系の名前は伊達じゃないんだな」


「クソッ、まだ立ってきやがるか……ぐるるぁぁぁっ!」


「まだまだぁ、オラァァァ!」


 お互いが突進し間合いが詰まるとグァンロンはクンフーの動き、メグミは空手の動きで応酬が始まった。

 メグミの体からは既に赤い光が強烈に漏れている。集中力が増すにしたがって動きは段々速くなり、遂にはグァンロンの体にヒットし始めた。


「すげぇぜ、この光かた、ユナにそっくりじゃねぇか……」


 グァンロンは押されながらもメグミの発光現象を見て感動すら覚えていた。以前に一度だけユナ・ウェストから紫色の光が漏れているのを目撃していたが、その時は見間違いかと思っていた。改めてこいつらは特別な強化人間だと思い知らされる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます