第32話 ザック対マルリース②

 無重力なのでランドセル型のバーニアを装着し、プシップシッと吹かして通路の所まで降りた。

 ランドセルからケーブルで繋がれたライト付きレーザーガンを手にして、真っ暗な通路の奥を照らす。

 無重力では火薬式の銃を使うのはタブーだ。衝撃が強すぎて体が回転してしまうため、宇宙空間での白兵戦はほとんどがレーザーガンを使用している。しかし、レーザーガンは大きな電力を要求されるため、ハンドガンでもランドセルのバッテリーに接続しなくてはならない。

 マルリースはライトで凛華に合図すると、床を蹴って通路に流れていく。


「凛華、聞こえている?」


〈はっきり聞こえます〉


「私今、凄くうずうずしているわ!……やっとユナの手掛かりが解るんですもの!」


 マルリースの声はいつになく甲高い声で、非常に高揚している。


〈はぁ、そうですか……私はユナと言う人に会った事がないですから共感できませんが〉


 凛華は冷めた口調で答える。その間もモニターを指でタッチして色々操作している。


「そうね、あなたは凱慈の敵討ちしか興味がないものね……ザックを生け捕りに出来ればセブンスも黙っていないと思うけど、上手く行くかしらね」


〈頑張ってください、艦長が死ねば私が艦長の分も仇を討ってあげますから〉


「相変わらずぶっきら棒ね……大丈夫、何度もヘマはしないわよ」


 先程の奇襲攻撃を言っているのだ。当たり所が悪ければ確実に死んでいるところだったのだから。

 マルリースの進む通路は真っ直ぐ伸びて、100mほど行くとエレベーターホールに突き当たった。もちろん動いてはいないので開く事もない。本来はここまでに何枚もの開閉板で閉ざされているはずだが、全て開いたままだ。

 ホールの空間には様々なゴミが浮遊し、手で払い除けて進まなくてはならない。

 エレベーターの扉の横にはもう1つ小さな扉があり、ノブを見ると真新しい手形が付いている。おそらくザックがここに入ったのだろう。

 慎重にノブを回して、一気に開いて壁に隠れる。


「いないのか……」


 ライト付きレーザーガンをサッと翳して中を照らす。

 階段が下に続いているだけで人の気配はなかった。

 螺旋階段になっていて、先は恐ろしく長い階段になっている。コロニーの直径が1㎞だから単純に500mの階段だと解る。階段からはコロニー内部が丸見えで、戦艦の砲撃で多数の大穴が開いており、過去の大戦の跡が生々しい。大穴からは太陽光が差して、反対側に反射して内部が薄明るく見えていた。コロニーが回転していれば穴の開いている所は1Gの重力が掛かった居住地帯だった筈だ。そんな光景が上下左右に広がっている。


「こんな所に逃げられたら、どこに行ったか解らなくなるわね」


 マルリースが諦めて引き返そうと思った時、ヘルメット内側に人感知システムの情報が映し出される。宇宙空間では無音状態で気配を感じる事が難しいため、良いヘルメットにはこう言った機能が付いているのだ。

 ヘルメットの窓に映し出された画像では、自分の足元30mほどの所に人らしきものが見て取れる。

 手摺から下を覗くとザックと思しき人影が降下中だった。


「いた……」


 マルリースはバーニアを吹かしてザックを追いかける。

 ザックもマルリースに気付いたのか、加速しながら振り向いてレーザーガンを撃ってきた。しかし無重力空間を加速しながらでの射撃では当てるのは難しく、レーザーはあらぬ所を通過するだけだ。


「そうか、爆発で空いた穴から救出してもらおうとしているのね……その前に捕らえる」


 マルリースは一旦階段に取り付くと、手摺りの所に蹲った状態になり、ザック目掛けて思いっ切り手摺りを蹴った。

 物凄い勢いでザックに迫る。

 ヘルメット内はマルリース自身の強化能力で青白く光っている。

 ザックもレーザーを撃ってくるが当たらず、最終的にマルリースの飛び蹴りがザックのランドセルにぶち当たる。ランドセルは壊れ、衝撃でザックは鞭打ちのような状態になり、白目を剥いて気絶した。

 ザックの体は反動で居住地の方に流れ、このままではぶつかってしまう。マルリースとしては死んでもらっては困るため、慌ててバーニアで方向転換しザックを追いかける。

 コロニーの壁面は地上と同じように家が並んでいる。マルリースはザックの体が家の屋上に当たる寸前で回り込むと、ザックを抱えて屋上に勢いよく着地し、反動でまた宙に浮かび上がる。


「ふう、生きてるだろうな?」


 ザックのヘルメットを覗き込むと眠ったような状態で、息をするたびに唇が開閉しているので、生きていると解る。

 丁度、浮遊していた電気コードを手に取って、ザックの両手を後ろ手に縛った。


「凛華、聞こえるか?……」


〈聞こえてますよ、ザックを捕らえたんですね〉


「ああ、すぐそっちに戻る」


〈了解!〉


 マルリースは気絶したザックを抱えて元の場所に戻る。

 コクピットの補助席に座らせると、急いでこの場を脱出する。

 外に出ると既にブラックフォグの海賊船が、ザックが指示したであろうコロニー外壁の穴に向かっていた。


「今の内だ、船に帰るぞ」


 マルリースと凛華はこのチャンスにスピードを上げてグラディウス号に戻って行く。


 ブラックフォグの船内は慌てていた。


「お頭の応答がありません、無線が切れています」


「敵に見つからないように消している可能性もある、とにかく指示された所に行け」


 コロニーに開いた穴に近付いた海賊船から、救助艇が出て穴の中に入るが、どこを探してもザックの姿はない。


「どうなってやがる」


「副長、ファムファタルウルフから通信です」


「何っ?」


〈やあ諸君……ザックはいくら探してもいないぞ……なぜならここにいるからな〉


 大型モニターにマルリースの姿が映っていて、マルリースが横にそれるとザックの姿が現れた。

 ザックは椅子に座らされ、手足が縛られている。

 そこの凛華が現れて。


〈そう言う訳だから、そこを動くなよ……もし動いたり攻撃なんかしたら、ザックの命はないからな〉


 言い終わった後にピースサインをして通信が切れる。


「どうします副長……」


「どうもこうもねぇ……待機だ!」


 副長と呼ばれる男はガンッと椅子の肘掛けを殴って怒りを堪える。


 ブラックフォグ海賊団の頭領ザック・バイアードは、椅子の上で縛られた腕をもぞもぞと動かしている。


「俺をどうする気だ?」


 ザックはマルリースを睨んで言う。


「あんたには聞きたい事があるんだよ」


「聞きたい事だと?」


「ユナ・ウェストがいる金剛夜叉海賊団の居場所を教えてもらおう」


 マルリースの言葉にザックは不思議そうな顔する。


「ユナだと?……なんでてめえがユナの居所を知りたいんだ?」


「ユナは私の妹だ……10年前にお前たちが、勢巨凱慈を殺害した時に攫って行っただろう」


「勢巨凱慈か、懐かしい名だな……確かに攫ったが、なぜその事を知っている……」


「あの時、私は家の中に隠れていたんだ……だが、竦んでしまって動けなかった」


 マルリースは悔しそうに握り拳を作って歯軋りをする。


「なるほど、俺たちが家探ししなかったから助かったって訳か」


 ザックはそう言うとニヒヒと下卑た笑いを響かせる。


「何がおかしい!……」


 マルリースはガバッとザックの胸倉を掴んで持ち上げる。


「……バカかてめえは、助けるんなら10年前のその時に助けておくんだったな……ユナは既にヘプタゴンの一員として馴染んでいる……金剛夜叉海賊団に加入して大いに役立っている筈だ……いつだったか、セブンスを助けるために、包囲してきた敵十数人を一瞬で殺した事もあったな」


「何を言っている、そんな事があるか!」


 マルリースはドカッとザックの体を椅子に打ち付ける。ザックは顔を歪ませて痛みに耐えるが、すぐにニヤニヤと笑い出した。


「ヒヒヒ……言っとくがな、ユナはもうセブンスの女だ、ユナはセブンスに心酔している……今頃お前が目の前に現れたところで、何も変わりはしねぇだろうよ」

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