第28話 極楽院凛華①

 マルリースは最後に凱慈から言われた通り、京都に来ていた。

 あの後、凱慈の遺体はその場で埋葬し、ついでにユナが殺したヘプタゴン海賊団の男も離れた所に埋葬した。

 京都に行けと言われてもどうしていいか解らなかったマルリースは、とりあえず家の中を家探しすると、床下から大量の現金と武器が見つかった。

 それらをエアカーに積んで近くの街へ行き、凱慈と馴染みのあったチンピラ風情の中年でノーサンと言う男に会って理由を言うと、ノーサンは驚いてすぐに裏のルートを使って日本行きのパスポートを作ってくれた。

 ノーサンは元々凱慈の仲間だったらしく、凱慈の隠居を支えていたのだ。

 そのおかげで日本には簡単に行く事が出来た。

 極楽院凌華と言う人の住所までも教えてくれていた。


「この住所によるとこの辺で合っているのだけど……」


 マルリースが今いるのは京都と言っても山の中だった。京都市内の北部に広がる山間部で、通じている交通機関もないので安い二輪車をを購入して4時間もかけてやっと辿り着いた。

 二輪車でこれたのは立派な木造門の前で、門には漢字で極楽院と書かれている。

 おそらくここが凱慈が言っていた極楽院凌華がいる所なのだろう。

 門にはインターホンが付いていたので押してみた。


 ピンポーン!……。


〈はい、どちら様でしょうか?〉


 しばらくすると女性の声がスピーカーから漏れた。


「あ、マルリース・リッグスと言います……勢巨凱慈の事で伺ったんですが……」


〈少々お待ちください〉


 門の横には生け垣が連なり、隙間から中を覗くと手入れされた林がなだらかな斜面をずっと奥まで続いていた。


〈お待たせしました、門が開きますので奥までお進み下さい〉


「は、はい……」


 木の門がぎしぎしと音を立てて独りでに開いた。

 マルリースは躊躇しながらも足を踏み入れて門を潜る。

 乗って来た二輪車はそのままでもいいかと思いつつ奥を見ると、なだらかな石段が上まで続いているようで、先の方は曲がっていて見えない。

 登っている最中でも周囲に気を配ると、木の幹に小型の監視カメラや銃口が幾つも取り付けてあるのが見て取れた。


「やっぱり普通の家ではないのね」


 10分以上かけて石段を登り切ると、さっきより大きな二重門が出迎えてくれた。門の両脇には筋肉隆々の男の木像が飾ってある。確か仁王とか言う像だ。

 既に開いている扉を潜ると白砂の広場が現れ、正面に灰色の瓦屋根の大きな建物が目に入る。

 マルリースは日本に着いてからここに来るまでにこの様な建物を何度も見ていて、この建物が仏教寺院の建物だと認識していた。


「ブッディーズを祀った仏堂ね……極楽院さんは僧侶なのかしら……」


 真ん中の石畳を進んでいると、仏堂の障子が開いて和服姿のお婆さんが出て来た。

 しかし、良く見ると手にはマシンガンが握られていて、おもむろにマルリースに銃口を向けると引金を引いた。


 ババババババババババババッ!!!!!!!!!!!!


 銃弾は真っ直ぐマルリースに向かって来る。

 不意を突かれたマルリースだが、瞬時に強化人間の力を発動して弾を避けて行く。弾は絶妙に避ける先を狙っていて、マルリースは右に左に全ての弾を避けた。


「な、何をする!……」


「ほう……これは正に人間業ではないわな……安心せえ、弾は全部ゴム弾や」


 この地域に来てからの、イントネーションの違う日本語で話してきた。


「ゴム弾?」


 マルリースは立ち上がってズボンに付いた砂を掃う。


「あんたの事は凱慈からのメールでよう知っとる……凱慈がヘマしよったんも、ノーサンが伝えてくれとるさかいな……ほんならこっち上って付いてきい……靴は脱いで上がりや」


 マルリースは言われるままに仏堂に上がると、極楽院凌華と思しき老女は障子の向こうの室内に入って行く。同じように入ると、中には金色の装飾で飾られた空間があり、古そうなブッディーズの巨大な木像が祀られていた。

 凌華は木像には目もくれず、奥の障子を開けて外に出た。そこからは渡り廊下になっていて、各建物に通じる通路になっている。渡り廊下の左右には見事な日本庭園が整備されていて、思わず見惚れてしまう。

 渡り廊下をどんどん奥に進んで行くと、最後の建物に入った。そこは畳が敷かれた大広間になっていて、15人ほどの男女が左右に分かれて座っていた。


「みんな集まってるか?」


「これで全員です」


 凌華の質問に向かって左奥に座っていた白人男性が答えた。

 正面に座布団が2つ並べてあり、凌華は左に座ってマルリースは右側に座らされた。


「みんなよう集まってくれたな……もう知っとると思うけど、凱慈がヘプタゴン海賊団ちゅう連中に殺られた……まあ、あんなとこに1人で暮らしとる凱慈の自業自得やけどな」


 凌華は座るなり腕を組んで神妙な顔で言った。


「くそっ!……やっぱり俺たちが側にいた方がよかったんだ!」


 東南アジア系の体付きの良い男が叫んだ。


「グザンの言う事は尤もだ……1人でいる事をどうして許してたんですか?」


 最初に答えていた白人男が凌華に言った。


「エドガー、あんたも知ってるやろ、あの男が1回言うた事を捻じ曲げる訳ないがな……そやけど起こってしもたもんはしょうがない……今後の事を考えるために集まってもろたんや」


「それじゃあ、ヘプタゴン海賊団に報復するんですか?」


 言ったのは若い日本人女性だ。


「そんなもん出来るかいな……戦力差は目に見えたぁるがな……第一誰が頭領を務めるんや」


「凌華さんじゃないんですか?」


 エドガーと言われた男が言うと、皆がうんうんと頷いている。


「アホな事言うてからに……うちがそんな事するかいな、もっと適任なんがおるんや……あんたらも気になってると思うけど、この娘が凱慈が選んでた次期頭領や」


 凌華の発言にその場の者が「ええぇぇぇっ!」と驚きの声を上げる。


「ほれ、一応挨拶しときや」


 凌華に促されてマルリースは一瞬躊躇するも、姿勢を正して息を吸う。


「えと、マルリース・リッグスと言います……どう言う事か私もあまり解っていないのですが、どうやら凱慈が勝手に私を海賊に仕立てようとしていたみたいです……おそらく私にそれを伝える前に死んでしまったものと思われます」


「ちょっと待てよ……見ず知らずの娘に頭領になられても困るぜ……一体あんたは何者なんだ?」


 エドガーが割って入って来る。


「この娘は凱慈の最後を見届けた娘や……ほんでもって強化人間らしい……凱慈の住んどったとこの近くにマーレー研究所があったんや、そこから逃げ出したんを匿って、4年間一緒に過ごしてたらしいわ……そやな」


「はい、その通りです……その4年間、凱慈は色々な事を教えてくれました……私は研究所では軍事関係の事しか教わっていませんでしたから、とても新鮮でした……そして凄く感謝しています……もう1人、ユナ・ウェストと言う妹がいたのですが、ヘプタゴンに攫われてしまいました……ですから、出来ればユナを救いに行きたいと思っています」


 マルリースがそこまで言うと、その場の皆は黙ってしまい、眉間に皺を寄せている者やマルリースをじっと見つめている者もいる。


「強化人間って普通の人間じゃないんでしょ?……そんなのが頭領になるってどうなの?」


 そう言ったのは白人の女性だった。


「おいニコル、それは偏見だぜ」


 横に座っていた白人と日本人のハーフらしい男が言った。


「偏見?……私たちは強化人間に頼らなくても十分やっていけるわよ……バカじゃないのアレックス?」


「なに!……今じゃ強化人間の頭領がたくさん生まれているぞ!……」


 アレックスと呼ばれた男がニコルと言う女に詰め寄って行く。


「何をやっとんや!……やめんかい!……」


 凌華の一喝で静かになる。

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