第27話 元宇宙海賊の男③

 セブンスがザックと呼んだ男を制する。だんだん場が緊張感に包まれてきた。

 凱慈はこの時、判断を迷っていた。無理やり追い返すか、このまま説得するかを。その上、マルリースとユナが家の中にいる。いくら2人が強化人間と言えども、これだけの海賊相手ではどうしようもないだろう。


「俺は幕帘教授のやった事に感服している……なにせ俺がやろうとしていた事を先にやってくれたんだからな」


 セブンスが言っているのは幕帘教授らによるマーレー研究所爆破事件の事だ。4年経って留まった大半の強化人間の人権は守られる方向に向いているが、一部の逃げ出した強化人間は闇社会に紛れて悪事を働く者も出て来ている。

 セブンス自身は爆破事件の2年前、アメリカ軍に送り込まれてから脱走している。


「じぁあその幕帘教授を誘えばいいじゃないか」


「科学者なんぞ誘ったって戦力にならねぇだろ……それよりどうするんだ、仲間になるのかならねぇのか……」


 セブンスの表情にイライラ感が現れてきた。


「んん……俺はやめておく、もう既にそんな気力は残っていねぇしな……」


 凱慈の答えに、セブンスは少し考えてから口を開いた。


「……そうか、ならしょうがねぇ……おい野郎ども、帰るぞ……」


 セブンスの言葉に凱慈は安堵する。これで帰ってくれれば一件落着だ。

 そして、セブンスが踵を返して帰ろうとした時だった。家の中でガタッと言う音が鳴った。

 窓から様子を窺っていたマルリースとユナだが、ユナの足が立て掛けてあった木刀に触れて倒れてしまったのだ。


「ん?……なんだ今の音は……」


 セブンスが音に気付いて家の方を振り向く。


「頭領、あの窓の所に誰かいますぜ」


 窓の近くにいた仲間の1人が音の鳴った窓を覗くと、運悪くユナと目が合った。男は暗視機能が付いた特殊な眼鏡をしていたのだ。


「子供だ、女の子がいやがる」


「やめろ!……」


 凱慈は咄嗟に動いていた。素早い動きで眼鏡男の眉間に銃を突き付けた。

 握られた銃はリボルバー銃で、その場にいた者ならコルトアナコンダだとすぐに解った。弾は44マグナムなので撃たれれば頭は吹き飛ぶだろう。


「ま、待てよ……何もしてねぇじゃねぇか……」


 男は言いつつも、自分の銃に手を伸ばそうとする。


 ダァンッ!


 凱慈は思わず反射的に男の太腿に銃口を下げて発砲してしまった。


「ぐあっ!……」


 男は悶えながらその場に倒れる。

 一気にその場が緊張に包まれると、セブンスの行動は速かった。腰の銃を抜くと同時に発砲。


 ダァンッ!


「うっぐうっ!……」


 セブンスの銃はスタームルガースーパーレッドホークと言う銃で、弾はやはり44マグナム弾だ。弾は凱慈の右鎖骨の下あたりを打ち抜かれ、後ろの肉を根こそぎ持って行かれた。

 凱慈は壁際に倒れ、肩からドクドクと血が噴き出した。普段なら弾道を避けて転がるなりしていたところだが、このままの弾道では家の中の2人に被害が及ぶとチラついて、その場を動かなかったのだ。完全に凱慈自身のミスである。


「うわぁぁぁぁぁぁっ!」


 その瞬間、窓を突き破ってユナが飛び出して来た。憤怒の形相で全身から紫色の光が溢れている。今までユナが発光現象を体現した事はなかったが、凱慈が撃たれた怒りで力が発揮され、しかも我を忘れている様子だ。

 マルリースはこの時、全く動く事が出来なかった。頭が真っ白になって、ただ見ているだけの状態だった。


「くっ……ユナ、よせ……」


 凱慈はユナを止めようとするが、体が動かず声も満足に出せない。


「があああぁぁぁっ!!!」


 窓を突き破って飛び出したユナは、叫びながらジャンプしてセブンスに殴りかかった。

 意表を突かれたセブンスは避ける間もなく頬にパンチを食らうが、かろうじて受け流し片手で受け身を取って回転しながら立ち上がる。


「強化人間か?……」


 口から流れた血を手の甲で拭き取った。


 バンバンバンッ!!!

 ババババババッ!!!!!!

 ダンダンダンッ!!!


「があぁっ!」


 ユナが着地した所に他の者が銃弾を撃ち込むが、弾は紙一重で全部避けられたと思うや否や、近くにいた男の顔に膝蹴りが減り込み、奇妙な叫び声を上げて倒れる。続けざまに次の男はみぞおちにストレートパンチ、背後の男の顎に後ろ回し蹴り、混戦で銃を諦めた男がナイフを振り下ろすが、懐に入って腕を固めて投げ飛ばし、肩の関節を折る。

 そこにセブンスが凄い勢いで飛び込むと、ユナのみぞおちにボディーブローが吸い込まれた。

 ユナは意識を失ってその場に倒れ込む。


「……ユナ……」


 凱慈はユナを助けようとして立とうとするがままならない。


「なんて奴だ、一瞬で4人やられたぞ」


 ザックと言う男がユナを見下ろして言った。

 膝蹴りで倒れた男は首があらぬ方向に向いていて、既に絶命している。


「こいつは強化人間だ、研究所から逃げ出した1人だろ……奴が匿っていたんだな」


 セブンスが凱慈を見て言った。

 凱慈は既に瀕死の状態で、息も速くなっている。


「おい、こいつを連れて帰るぞ」


「まだ子供じゃねぇか……」


「子供と言っても強化人間の特殊能力を発現してやがる……ナイトメアで洗脳できればいい戦力になる」


「なるほど、あの薬草か……そんなのどこで手に入れたんだ?」


「金剛夜叉の千卍綺羅だ」


「センマンジキラ?……あのクソガキか……」


 ザックはニヤリと笑うとユナを持ち上げて肩に担いだ。

 千卍綺羅はヘプタゴン傘下で金剛夜叉海賊団の頭領だ。子供の姿をしたサイボーグで、常に小型のエアカーに乗って移動している謎の多い海賊だ。ナイトメアの洗脳使用にいち早く注目した海賊でもある。


「あんたもその怪我じゃ、もうダメか?……この子は貰って行くが、悪く思うなよ」


 セブンスは凱慈に向かって無慈悲に言うと海賊船の方へ歩きだし、その後を他の者が負傷者を連れて森の闇に消えて行った。凱慈は動く事が出来ず、ただ見ているしかなかった。


「……マ、マルリース……」


 凱慈は気力を振り絞ってマルリースを呼ぶ。

 マルリースは玄関から出てきて顔面蒼白になりながら、ふらふらと凱慈に近付いた。


「……凱慈……私、怖くて……何も出来なかった……ごめん……」


 マルリースは涙を流して凱慈の側に蹲った。


「お前が謝る事じゃない、俺の、判断ミスだ……奴らが、お前に気付かなかった事が、不幸中の幸いだが……」


「……ユナは、ユナはどうなるの?……」


「大丈夫だ、殺される事はない……ただ、仲間として教育されるだろうな、うぐっ!……」


 凱慈は痛みで悶える。既に凱慈の顔は血の気が失せている。失血が多く、もう助からない粋に達していた。


「早く、エアカーで病院に……」


 立ち上がろうとするマルリースの手を凱慈が握って引き留める。


「……もう遅い……それより……お前に、これをやる……」


 凱慈は腰のベルトを苦労して引きはがすと、マルリースに渡した。ベルトのホルダーには銃と刀が差したままで、ズシリと重さを感じる。


「血塗れだが、許してくれよ……そして、何とかして日本の京都に行け……そこに、極楽院凌華って、ヤクザのババアがいる……そいつに俺の海賊船が、1隻預けてあるから、それで宇宙に出ろ……」


「そんな、私できないよ……」


 凱慈の声は掠れてだんだん弱くなっていた。


「お前なら海賊の頭領に十分なれる……大丈夫だ、ユナを助けるんだ……いいか、京都の、極楽院凌華だ……解ったか?……」


 マルリースは涙を零しながら頷く。

 凱慈はマルリースの肩を掴んで力を込めた。


「じゃあな……最後に家族ごっこができて……楽しかったぜ……」


 凱慈はそう言うと、マルリースの肩を掴んだ手から力が抜けた。同時に目を瞑って眠るように息をしなくなった。


「……が、凱慈?……う、う、うあぁぁぁっ!……」


 声にならない嗚咽がこみあげて、マルリースは凱慈にのしかかる。涙はとめどなく溢れ、凱慈の血と混じって行く。

 森の向こうから轟音が響いてくると、ペンタゴン海賊団の海賊船がゆっくりと浮上して行った。



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