第22話 マルリースの過去①

 ズドーンッ!


 艦内に爆発音と同時に激しい揺れが襲う。


「艦長、左舷後方に砲弾が着弾……エンジンが1つ止まりました」


 落ち着いた口調で言ったのは、ゴスロリファッションに身を包んだ極楽院凛華だった。

 ここはファムファタルウルフ海賊団の海賊船グラディウス号の艦橋である。

 凛華は副長と航海士を兼任し、モニターで船の破損箇所を確認している。

 艦長席に座るマルリースは、手摺に掴まり揺れが収まるまで待つ。艦橋は0.8Gの人口重力が働いているので、宙に浮く事はないが、シートベルトをしていなかったので放り出されるところだった。


「どこから撃って来たか解らないのか?」


 マルリースは艦長席を降りると青いコートを整えて、観測士に近付いて声をかけた。


「デブリが多すぎてどこにいるか解りません……あ、第2弾来ました!」


 そう言ったのはニコル・ライトと言う女性観測士だ。

 艦橋前面の大型モニターには宙域全体に大きなデブリが散乱しているのが映されていた。


「とにかく近くのデブリに隠れろ!」


「了解!」


 マルリースが男性操舵士のエドガー・プライスに向かって叫ぶと、返事と共に船が傾いて加速のGがかかる。

 金星を出て月へ向かう途中、宇宙戦争の頃のコロニー残骸地帯を通る事で宙航警の取り締まりを回避する段取りだったが、そこで海賊と思われる船に攻撃を受けたのだ。

 スペースコロニーの残骸は300基以上存在する。

 207年前(2050年)に建造された初期のスペースコロニーで、直径1㎞の輪っかの形をしていて遠心力で重力を作り、1基で約5000人の居住が可能で、全盛期は120万人以上が居住していた。

 ミューズコロニー群と名前が付けられ、ここを足掛かりにテラフォーム計画が進められて行った。

 2092年の第4次世界大戦では、初めて宇宙での戦闘が繰り広げられ、ミューズコロニー群はその犠牲になってしまったのだ。

 グラディウス号は、コロニーの壁の切れ端に船体が隠れたところで停止する。切れ端と言っても巨大な物で、1㎞四方はあろうかと言う物だ。


「敵の位置は解ったか?」


「艦影は見えませんが方向だけなら解ります……10時の方向、下に10度です」


「識別信号は出てるか?」


「今、解析中ですが、たぶんブラックフォグ海賊団かと思われます」


「ブラックフォグだと!」


 通信士の男性アレックス北谷の答えに、マルリースの表情が険しくなる。同時に艦橋にいるクルー全員に重い空気が降りる。


「ヘプタゴン傘下じゃねぇか……俺たちを狙って来たのか?」


 操舵士のエドガーが言った。

 ブラックフォグ海賊団はヘプタゴン海賊団の傘下にある海賊で、頭領はザック・バイアードと言う謎の男だった。宇宙での略奪行為を主としていて、あまり地上には降りてこない海賊団だったが、ヘプタゴン海賊団の傘下に入った事で、暗殺や拉致を専門に仕事をしているらしい。


「クソッ……厄介な奴に出会ったな……」


 マルリースは眉間に皺を寄せて嘆く。


「戦闘機を出しますか?」


 凛華の申し出にマルリースは一瞬考える。


「そうだな、戦闘機を全機出して、私もPARG(パーグ)で出る、整備班に伝えてくれ」


「ええ!……PARGですか?……試作機段階なのに大丈夫ですか?……」


 マルリースの発言に、いつもは冷静な凛華が驚いて身を乗り出している。


「心配ない、向こうもまさかPARGを持っているとは思っていないだろう」


 パーグとはパワーアシストロボットジャイアント(PARG)の事で、高さ15mの大型の人型戦闘兵器である。

 今までは3mほどのパワーアシストロボット(PAR)が主流だったが、2年ほど前から大型のPARの開発がされるようになった。それがPARGである。

 それまでは200年近く、つまり第3次世界大戦以降、ロボットの脅威に恐れた世界は、完全人間型ロボットと大型アシストロボットの開発を禁止していたのだ。それが2242年に解禁となり開発が行われるようになった。

 日本はPARの開発で培って来た技術で、PRAGでも開発競争のトップを走っている。

 実はマルリースは秘密裏に、日本のPARG製造企業から試作機を貰ってモニタリングを報告しているのだ。違法だと思うかもしれないが、マルリースは間にペーパー会社を噛ませる事で擦り抜けている。マルリースは無償で最新のPARGを使う代わりに機体性能の詳細を報告しているのだ。


「丁度いい機会じゃないか、PARGの試験にもってこいだ……じゃあ、後は頼んだぞ」


 マルリースはそう言うと、長くて青い髪を靡かせて艦橋を出て行く。

 格納庫には5機の宇宙戦闘機と1機のPARGがある。

 戦闘機がFS-31白神2機、FS-32知床2機、凛華専用FSH-02大仙改1機、PARG001アース試作機が1機、スタンバイされてあった。

 

「もう出せるか?」


 作業をしている整備士にマルリースが声をかけた。

 マルリースは既に自分専用の青い戦闘用宇宙服に着替えていて、豊満な乳房の谷間が覗いている前面のチャックを上げながら、PARGのコクピットに飛び上がった。格納庫は人口重力が効いていないので今は無重力状態である。

 PARGの外観はほぼ人型をしていて、メタリックブルーで塗装されたボディは西洋の鎧にも似ている。背中には天使の羽のようにプラズマジェットエンジンのバーニアが幾つも取り付けられ、そのバーニアは腰や足にも確認できた。顔は試作機だけあって、望遠レンズがむき出しのままになっている。鎧のような装甲は特殊な炭素繊維と特殊ケミカルを固めたSCC素材と高硬度タフホリマーで出来ていて、軽くて硬くて非常に柔軟に出来ている。


「はい、出せます……武器はレーザーガンと100㎜超電磁バルカンでいいですか?」


「ああ、それと硬質サーベルもな」


「了解っす!」


 コクピットに入ったマルリースは長い青髪を団子に纏めてヘルメットを被り、首周りのチャックを閉めると密閉ボタンを押す。プシッと音が鳴って宇宙服が体にぴったりくっ付いた。

 PARGのハッチを閉めると、コクピット内の壁全体が明るくなり、格納庫内の映像が映し出されて、まるで宙に浮いているような感覚になる。


「グザン、スバッシュ、沙理奈、セダ、準備はいいか!」


 マルリースは既に戦闘機に乗り込んでいた戦闘員に声をかける。左上の一角に小さくウィンドウが開き、戦闘員4人の顔が現れた。

 白神1号機はテロウ・グザンと言う黒人男性、白神2号機はスバッシュ・キャスパーと言う白人男性、知床1号機は加藤沙理奈と言う日本人女性、知床2号機はセダ・ジブランと言う中東系の女性が乗り込んでいた。


〈いいぜ〉

〈いいっすよ〉

〈はい!〉

〈問題ない〉


 各々同時に返事をすると、マルリースがちょっとした作戦を伝える。


「船を出たらブラックフォグが隠れていると思われる宙域に左右から回り込んでくれ……私は正面からゆっくり近付く」


〈了解!〉


 マルリースの作戦を聞いて4人は同時に返事をし、徐々に開いていた船のハッチが完全に開き切きると、前方の白神2機が宇宙に放出された。続いて知床の2機が放出され、次に001アース試作機が宇宙に躍り出た。グラディウス号をスーッと離れるとバーニアを吹かして、白い軌跡を残しながら急速に遠ざかって行った。


「くっ……凄い加速力だな」


 マルリースは今までにない加速Gを感じて少し全身に力を込める。宇宙では戦闘機も操るマルリースだが、PARGでのフル加速を体験するのは初めてだった。そして、ゆっくり近付くために減速して慣性だけで進んで行く。

 モニター小窓が開いて通信士のアレックスが話しかけて来た。


〈艦長……相手から通信が入ってます〉


「何?……繋いでくれ」


 マルリースが許可すると左側に小窓が開いて、細面の男の顔が映しだされた。


〈よぉ……久しぶりだなマルリース〉


 下卑たニヤ付き顔で言って来たのは、ザック・バイアードと言う白人系の男だった。細長い顔に無精ひげを生やし髪の毛も長く伸ばしている。顔色が悪く、まるで棺桶から出て来たような人相をしている。

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