第20話 ネオサンフランシスコの闇②

 メグミは左でナイフを持って剣を受けているが、ザグマの力は予想以上に強く、強化人間のメグミと互角くらいのパワーがあった。

 メグミが踏ん張って押し戻そうとすると、スッと力を抜かれて上体が崩れてしまう。ザグマはその瞬間にメグミの腹を蹴り上げると、メグミはスロットマシンが並んでいる所まで飛ばされて激突する。


 ドガッ!「ぐはっ……」


 激突して床に転がると息が出来ないほどの痛みが走る。骨は折れてないようだったが、床には額を伝って血が滴っている。気付くとナイフも銃も手に持っていなかった。


「うくっ、クソがっ!……」


 立ち上がったところにザグマがジャンプして剣を振り下ろす。メグミが右にかわすとスロットマシンがジャギッと真っ二つになった。

 しかしザグマは床に刺さった剣を抜くのに手間取っていて、メグミはその間に息を整えるべく後退って距離をあけ、そして大きく息を吸う。100m走の時を思い出して、全身の筋肉が光り輝くイメージに持って行く。すると血管が浮き出し、見た目でも通常より筋肉量が多くなったように感じる。

 ザグマはやっと剣が抜けると、肘の部分が反対側に倒れて機関銃が現れ、メグミに銃口を向ける。しかし、薄暗い中に佇んでいるメグミの姿を見て動きを止める。


「てめぇ!……何だその光は!」


 メグミ体からは赤い光がボヤっと溢れていたのだ。


「オオオォッ!……」


 メグミは一声吠えるとファイティングポーズをとってザグマに突進した。ザグマは咄嗟に機関銃を発射する。


 ババババババババババッ!!!!!!!!!!


 ザグマが放った銃弾がメグミに当たる寸前、メグミは凄まじい勢いでジャンプし、2階の天井で跳ね返るとザグマの顔面にキックをぶち込んだ。


 ドカッ!


 予想もつかない高速な攻撃にザグマの目も追い付かなかった。ザグマはキックの衝撃で大型ゲーム台に叩きつけられ、またバウンドして戻ったところにメグミのボディーブローが炸裂。左アッパーで顎を打ち抜き浮いたところを、狙いすまして力を貯め込んだ右掌底突きが胸の中心を強打した。


 ズドンッ!……ガシャァァァン!!!


 ザグマの体は15mほど離れた玄関の全面ガラスを突き破って表の道端に転がり落ちた。全面ガラスは衝撃で全て割れてしまい、道を歩いていた人たちが驚いて伏せている。

 そこに通報を受けていたネオサンフランシスコのパトカーが3台停まった。

 降りて来た警官は惨状を見て顔を顰めている。


「何だこりゃ?……爆発でもあったのか?」


 そこにジュリアとカンゼオンが近付いて来た。ジュリアはカンゼオンに肩を貸してもらいながら歩いている。ザグマの針で麻酔薬が回っていたが、ジュリアにはあまり効かなかったようだ。普通の人間ならば12時間は眠っているところだが、強化人間のジュリアはすぐに意識が戻っていた。ミーナ型強化人間の特色かもしれない。


「違うわ……海賊捜査で銃撃戦になったのよ」


「あんたは?……」


 警官に不審に思われ、ジュリアは手帳を見せる。手帳には特別海賊捜査隊と書かれていて、警官はそれを見た途端、あからさまに嫌そうな表情をした。


「と、特海捜の方でしたか……で、このサイボーグが海賊ですか?」


 警官の声には明らかに戸惑いがあり、ボロ雑巾のように転がっているザグマを指差す。ザグマは完全に気絶していてピクリとも動かない。


「まだ中に仲間が多くいるはずよ……捕まえてちょうだい」


 ジュリアの申し出に、警官は急ぐともなく淡々と指示を出す。


「おい……まだ中に海賊の仲間がいるみたいだから、適当に捕まえてくれ」


 警官はそう言って薄暗い店の中に踏み込んで行った。


「おかしいですね……あまり気が入っていない言い方ですが」


 カンゼオンが警官の態度を不審に思う。


「たぶん、警察も龍帝海賊団から賄賂を貰っているから取り締まるつもりがないのね」


 ジュリアとカンゼオンも店の中に入って行った。


「何かいるぞ!」


 そこに警官の声が響き渡る。

 店の奥は照明がほとんど割れていて、特に1階は真っ暗になっている。

 しかし、そこに赤く光る2つの点が見え、良く見るとその周りも淡い赤色に光っていて、目が慣れるにしたがってそれが人の顔の輪郭だと認識できた。


「あれ、メグミじゃないの?」


 ジュリアの問いにカンゼオンは頷いて答える。


「そうみたいですね」


 ゆっくり歩いて近付いてくるメグミの肌は、暗闇の中で淡い赤色に発光しているのだ。しかも逆立った髪の毛も心なしか赤くなっているように見える。

 それは明るい所に出て来た段階で見えなくなった。


「メグミ、大丈夫?……血塗れじゃないの」


 ここまで来る間に拾って来たナイフとベレッタM92FSを懐に終いつつ、メグミは疲れた表情を見せる。埃塗れになり頭からは血も流れていて、足元もふらついている。


「へへへっ……このくらいどって事ない……クソッたれの機械野郎はどうなった?」


「あそこに伸びてるわよ」


 道端で倒れているザグマを振り返ると丁度、救急隊員が担架に乗せているところだった。

 いつの間にか救急車が数台と、パトカーも倍以上に増えていた。


「それよりメグミ、あなた体が赤く光ってなかった?……パワーバーストを体現で来たんじゃない?」


「え?……さぁ、解んない……」


 メグミはそう言って近くにあった椅子に座り込んだ。

 そんな様子のメグミを、カンゼオンがじっと観察している。視覚の情報は全て記録され、金京署のあるパソコンに送られていた。



 *****



「どうですか?……ベフ博士、かなりいい映像が取れたようですが」


 金京シティーの金京署内にある特海捜の事務室で、イム・ジスン(林承志)1人がパソコンに向かって話している。

 パソコンのモニターにはカンゼオンから送られて来た映像が映し出されていて、カンゼオンの目線と小型ドローンカメラからの目線で分割されている。

 映っているのは幕帘メグミ刑事の戦闘シーンで、カンゼオンが小型ドローンカメラを飛ばして録画していたのだ。


〈うむ、素晴らしい……この体の発光は、まさにミーナ型強化人間の能力を存分に発揮した姿だな〉


 そう言ったのはベフ博士と呼ばれた老人だった。

 パソコンモニターの上部に小さく顔が映されていて、向こうでも同じ映像を見て分析しているようだ。

 頭頂部はツルツルで、サイドにモジャモジャの白髪が残っている髪型で、一文字型の奇妙な眼鏡型機械を装着している。

 この老人はカムル・ベフと言い、アメリカにあった旧マーレー研究所にいた研究員で、マーレー研究所が解体された後、イギリス連合圏から依頼を受けて、ひっそりと研究を続けているのだ。

 今は金星にあるイギリス連合圏のロスカと言う街で、ロスカ強化人間監視機関と言う所から、ジスンと交信しているのだ。

 研究と言っても強化人間を造る事は禁止されていて、予算もそんなに出ている訳ではない。ベフ博士はミーナ遺伝子にクローズアップして、そのメカニズムを研究しているのだ。


「こんな事が実際に起こるとは……この体の発光は何ですか?」


 ジスンはモニターに釘付けになっている。

 強化人間が普通ではないと解っていても、こんな現象を見てしまうと戦慄を覚えてしまう。


〈これはミーナ遺伝子が関わっておる……筋肉の中に特殊な細胞があってな、そこから筋力を極限まで引き出せる物質が出ているのだ……他の強化人間でもそこまでは一緒だが、ミーナ型は特に強くてな、筋力を上げる事はおろか、治癒能力も向上しておる……その影響からか細胞が発光して、光が外からでも確認できるほどの物質が出ていると思われるな〉


「じゃあ、そのミーナ型の強化人間は全員あんな発光をするのか?」


〈おそらくそうだとは思うが詳しくは解らん……わしも実際に確認したのはこれが初めてだからな……試験管での細胞実験では電気刺激と体内で生成される興奮物質で活発化する事が解っている……実際に体が発光するほどの映像が撮れたのは初めてだ〉


「なぜミーナ型はそんなに能力が高いんだ?」


〈うむ、およそ190年前に活躍した、武林ミーナと言う女性アスリートの遺伝子が使われているからだ……なぜかは解らんが筋肉細胞に突然変異があったらしくてな、その女性は100mで人類最速の記録を残している……ところがその記録は後に公式記録から消されてしまっている……その後、武林ミーナは航空機事故で亡くなるが、その遺伝子をマーレー研究所の前身機関が保存していたのだ……それが30年前に再発見されて強化人間の製造に組み込まれたと言う事だ……事故も或いは、どこかの力が働いたのかもしれんな〉

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