第18話 龍帝海賊団③

「あそこなんかいいんじゃない?」


 メグミが指差した所はホテルに併設された高級カジノではなく、低層者向けのカジノだった。

 そうは言っても外見は3階建てで、表は全面ガラス張りで豪華な造りになっており、ゴールドラッシュと言う店名と銃を持ったカウガールの絵が描かれた特大看板が目を引く。

 特に守衛のような者も立っていないので、鉱山に通っていそうな男たちも多く出入りしているのが目立つ。


「なるほど、良さそうね……ここなら海賊のクルーが混じってても不思議じゃないわね」


「そうでしょ、あたしだってちょっとは考えて行動してんだから」


 2人はそう言うと一緒にカジノゴールトラッシュに入って行く。

 その様子をじっと見ていた者が、斜向かいのカフェにいた。

 汚い布を顔の上半分に巻いて、口元に大きな傷がある男だ。そう、ザグマである。

 ザグマはテラス席でニュースフォトグラフィーを広げて、メグミたちをチラチラ見ているのだ。

 ニュースフォトグラフィーはこの時代の新聞のような物で、ペラペラの画用紙ほどの大きさのプラスチック素材だが、超薄型の映像媒体を2枚重ねた物である。広げると世界のニュースと地元のニュースや広告を3時間おきに更新掲載されるようになっている。それを各テーブルに1枚ずつ置いてあるのだ。

 メグミたちがカジノに入るのを確かめると、ザグマも立ち上がって後を追った。


「ぎひひ……奴らがゴールドラッシュに入ったぞ」


 ザグマは腕の端末に喋りかけて、各所にいるクルーに連絡する。ジュリアとメグミがカジノに入ったら襲撃する手筈になっているのだ。

 実はこのカジノは龍帝海賊団の手中にあるカジノだった。支配人はザグマに忠誠を誓っている。

 中に入った2人は騒音に近い音に驚きながらも、様々な賭博マシンに目が奪われる。

 かなり広い1階フロアには、ほぼテレビゲームに近い賭博マシンも多く見られ、その中に射撃ゲームも並べられていた。

 この時代になるとカジノとゲームセンターの区別は曖昧になっているのだ。


「これ面白そうね……1回やってみようかしら」


 意外にもジュリアが最初に射撃ゲームに興味を持って台の前で止まった。


「ああ、これ中学の時にやった事ある、まだ置いてる所があったのか……2人でプレイしようよ」


「どうやるか教えてくれないと解らないわ」


「敵が出てきたら撃つだけだよ、中には味方もいるからそいつは撃たないようにするんだ」


 メグミはそう説明すると携帯端末を決済台に近付けて課金する。

 1プレイ3000円と高めだが、基準の得点を突破すると賞金額が増えて行くシステムになっている。

 180度の大型スクリーンが目の前にあって、ゴーグルなどを使わずとも立体で映像が映し出されている。

 ゲームが始まると画面内にSFチックな宇宙船内が映し出され、いきなりゾンビが襲いかかって来た。それを自動小銃タイプのレーザーガンで撃って行くが、良く出来た物で銃撃の反動がリアルに再現されている。


「おお、この感触!……懐かしい!」


 メグミは反動に感動しつつ襲いかかるゾンビを撃ちまくる。小学生の頃の内容とは違い、流石に進化した作りになっていた。

 ジュリアは立体映像なので急に近付いて来たゾンビの攻撃を思わず避けてしまう。


「ちょっと待ってよ……体が動いてしまうじゃない……」


「それでいいんだよ、こっちの姿をそのまま投影してるから攻撃も自分で避けられるんだよ」


 そんな事を言いつつも、確実にゾンビを仕留めて味方には1発も当てていない。

 1面目のボスである大型のエイリアンゾンビが出て来ても一瞬にして片が付いた。


「今までこんなゲームはやった事なかったけど、良く出来てるわね」


「でしょ、あたしも昔はハマってたんだよね」


 2面目が始まると画面は日本の戦国時代の戦場になった。

 落ち武者ゾンビが火縄銃を撃ったり、刀で襲いかかって来たりする。

 だんだん慣れて来たのか、ここも難なくこなして3面目に突入。今度は何処かのビルの中でゾンビと戦い、ここで基準の得点をクリアし、ここからの得点は自分たちの賞金に反映する。

 場面は地中海のリゾート、恐竜時代、忍者軍団、原始人、砂漠の戦場、中世騎士軍団と来て一息つくと、いつの間にか周りにギャラリーが取り巻いていた。


「めっちゃ上手いぞ、この2人……」


「騎士軍団のゾーンをクリアするなんて……ここから先のゾーンは見た事ねぇぞ」


 ギャラリーの中からそんな声が上がる。


「だってさ、かなり注目されてるよ」


 メグミが周りを見回して言う。


「フフフッ、悪い気分じゃないわね……このまま最後までクリアしちゃいましょ……」


 ジュリアはそこまで言うと、メグミに近付いて小声で話しかけた。


「向こうの3階のバルコニーにいる布を被った男が、ずっとこっちを見てるわ……気になるわね」


「確かに、目付きが相当悪いな」


 2人とも強化人間なので、かなり遠い所にいる人間の様子も良く見る事が出来る。3階のベンチからザグマがメグミとジュリアの様子をじっと見ていた。

 ゲームは次の面から難易度が格段に上がって来た。

 ジャングルの猛獣のステージで、ヒットポイントが半分も減って少し苦労した。


「少し気を抜いたわね……ここからちょっと本気を出しましょうか」


 ジュリアはメグミにそう言うと、全身に少し力を入れて目が充血する。


「ゲームでそれやっちゃう?……」


 メグミも言いつつ力を込めて銃を構えなおす。通常よりも時間がゆっくり流れる感じになり、射撃の制度が格段に上がった。

 周りのギャラリーは更に多くなり興奮が伝わって来る。


「この中で次のステージを見た奴はいるか?」


「いや、誰も見ていないだろ」


「なんて姉ちゃんらだ、プロゲーマーでもここまで来るのはなかなかいないんじゃないか?」


 そんな声まで聞こえて来た。

 次のステージは魔法が飛び交うファンタジー世界だった。箒に乗った魔法使いたちが一斉に光の弾で射抜いてくる。身体能力が上がった2人だからこなせたものの、普通なら絶対に避けられない仕掛けでもある。最後に出て来たのは画面に入らないくらいの巨大なドラゴンで、周りからまたオオォーと歓声が上がる。

 最初に避けられないほどの大きなファイアブレスが襲って来て、ヒットポイントを半分以上削り取って行った。おそらくこの攻撃でほとんどのプレーヤーはゲームオーバーしているのだろう。しかしメグミたちのヒットポイントはまだ辛うじて残っていた。


「うわっ!……ギリギリ!……」


 メグミはすぐにウィークポイントを見つけてそこを集中的に射撃する。ジュリアも追随しあっと言う間に巨大ドラゴンを倒した。

 その瞬間に凄い歓声が上がり、拍手が沸いてとんでもない騒ぎになった。


「すげぇぜ、クリアしちまいやがった!」


「いやぁ……こんなに難しいゲームの最後を見れるなんて、感動しだ!」


「そうだそうだ、あんたら何者なんだ?」


 ギャラリーの一部が興奮して話しかけて来た。

 メグミとジュリアは顔を見合わせて困った表情をするが、やり遂げた高揚感で笑みを浮かべる。


「ちょっとね……昔軍隊にいただけよ」


「そうか、どうりで上手いはずだ……さあ、賞金をもらえよ」


 男に促されて賞金額を見てみると、最後までクリアしたボーナスが200万点と得点561万7920点がそのまま賞金として換金されるらしい。

 換金は携帯端末を翳すだけで移行できる。そして文字が書かれていて、あなた達は今後1ヵ月間このゲームはプレイできません、と書かれていた。


「何よ、今後1ヵ月プレイするなって、ケチ臭いゲームね」


「ええっ!……こんなにもらっていいの?」


 メグミは金額を見て素直に驚く。総額761万円である。2人で割っても380万もある。


「思わぬ収入ね……しょうがない、ここにいるみんなにハンバーガーとコーラを奢るわよ!」


 ジュリアがそう叫ぶと、またもや歓声が上がる。

 その間にジュリアは小声でメグミを呼ぶ。


「メグミ……あの男を追って……」


 メグミはその一言だけで全てを理解し、遠い所でこっちを見ているターバンの男に近付くべく人混みから離れた。


「ちょっと、何人いるのよあなた達」


 ジュリアが人混みに向かって言うと、仕切り役の男が人数を数えて42人だと答えた。

 ジュリアは近くにあったハンバーガーショップに近寄ると、42人分のハンバーガーとコーラを頼んで料金を端末で換金する。


「気前がいいな姉ちゃん、愛してるぜ!」


「今度銃の打ち方を教えてくれよ」


「また会う機会があったらね……バイバイ」


 ジュリアは笑顔で適当にあしらって、店の奥を目指す。



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