第15話 真の力③

 メグミとジュリアは、北へ1500㎞離れたネオサンフランシスコにエアバイクで向かっていた。

 普通に飛ばして4、5時間で到着する距離だ。

 タウロとパウエルとカンゼオンは車で向かうと言っていた。1日がかりだが、この時代の自動車は、ほぼオートなので車内で寝ていても目的地に着けてくれる。

 大きめのワゴン車だったから、中には銃器が沢山積んであるのだろう。昨日もタウロとパウエルは日がな一日銃器の話で盛り上がっていた。


 昼近くになって、もうじきネオサンフランシスコが見えてくると言うところで、眼下に白鳥の群れが飛んでいるのが見えた。

 金星ではまだ野生動物があまり繁殖していないが、鳥類だけは地球から多く移入されている。そうする事によって、鳥が食べた植物の種が遠い所で消化されずに排出され、植物が効率よく金星全体に繁殖してくれるからだ。

 最近では海でもイワシなどの小魚が繁殖しているのが確認され、今後はそれらを捕食するイカやタコの軟体動物やサメやマグロなどの大型魚類、イルカやクジラなど鯨類の移入も考えられている。

 海藻や珊瑚の繁殖も急拡大していて、ひとえに環境改善団体の尽力のおかげである。

 地上ではまだ猛獣などの動物の移入は禁止されているが、ゆくゆくは地球と同じ環境を目指しているので移入される日も近いだろう。


 そんな白鳥の列から眼前に視点を移すと、恐らく直径2000㎞はあろうかと言う円形の湾が現れた。大きすぎて一部しか見えていないが、一見してそれが巨大なクレーターだと推測がつく。

 このクレーターはテラフォーミング時に、金星内部のコア部分を液体金属に戻すために落とされた隕石の後で、金星全体でこのようなクレーターが12か所存在する。

 直径5㎞の隕石2つに巨大なプラズマエンジンを取り付け、太陽系を一周させて金星を両側から挟むように同時に落下させる。人為的に加速度が増しているので通常の隕石よりもエネルギーが高い。そのエネルギーは金星コアに達して、固まっていた金属コアから流動性のある液体金属コアへと復活すると言う寸法だ。

 何故そうするかと言うと、磁場を発生させるこ事が目的なためだ。

 地球は流動性のあるコアのおかげで巨大な磁場が発生し、宇宙から降り注ぐ放射線や太陽風を防いでくれている。

 しかし金星はコアが固まっているため磁場が極端に弱かったのだ。おまけに太陽から近いときていて、そのような環境では放射線量が高いため人間は生きていけないのである。


 クレーターの3分の2が湾になっていて、その縁に沿って1000m級の外輪山が囲い、ネオサンフランシスコはその山の外側に出来た街なのだ。

 隕石の衝突で外側には色々な鉱脈が現れ、その中に金の鉱脈が見つかり、人々が金鉱を目当てに集まるようになっていた。

 人々が集まって来たのが2249年の事で、丁度1849年のゴールドラッシュに似ている事から、ネオサンフランシスコに集まって来た人たちの事をセカンドフォーティーナイナーズと呼ぶ事もある。街の名前もゴールドラッシュに掛けているのだ。


〈見えて来たわ……あれがネオサンフランシスコみたいね〉


 エアバイクのスピーカーから無線でジュリアの声が流れた。


〈そんなに大きな街じゃないんだな〉


〈そうね……ほとんどの住民が金鉱夫だから、人口は4万人ほどだそうよ〉


〈それでも4万人もいるんだ〉


 2人は高度1500mから徐々に降りて行って、ホテルの屋上に着陸した。

 エアバイクが普及するようになって、都市部以外の各ホテルでは屋上にエアバイクの駐車場を設けるようになり、そこから直接ホテルに宿泊できるようになっているのだ。

 金京シティーではエアバイクの飛行が著しく規制されているが、人口10万未満の街ではエアバイクで街の上空を飛ぶ事を許されているのだ。

 エアバイクを降りるとボーイが寄って来て、エアバイクを専用駐車場に移動して行く。

 2人はロビーに入いる。エアバイク客用に最上階にもフロントが用意されている。


「ジュリ姉……何日泊まるんだ?」


「んん、そうねぇ……とりあえず3日間にしときましょうか」


 ジュリアはそう言うとフロントスタッフに話しかけて、部屋を3日間借りる契約をする。

 その時にジュリアは、特海捜の手帳を見せて海賊の情報を聞き出そうと試みる。


「この辺りで海賊の噂とか聞かない?」


「ああ、龍帝海賊団ですね……噂は聞きますが、ホテルにいる者で見たと言う者はおりませんね」


 フロントスタッフは周りを気にして小声で話した。


「はぁ?……やっぱり噂になっているのか?」


 メグミが横から話に割って入る。


「噂も何も、我が物顔で跋扈していますよ」


「ここの警察はどうしているんだよ」


「ネオサンフランシスコの警察は当てになりませんよ……」


 フロントスタッフは渋い表情で頭を左右に振る。


「龍帝海賊団が来てから2、3日すると、警察はすぐにおとなしくなりましたよ」


「どう言う事だ?」


「おそらく賄賂が渡っているのね」


 ジュリアはメグミと目を合わせる。


「また厄介な事になってやがるな……それでここの情報が取りにくかったのか?」


「もしかするとここの市長もグルかもね……でないと報道の規制は出来ないもの」


「だとしたら、ちょっと根が深そうだな」



 *****



 2人は昼食をとるためにホテルの外に出る事にした。

 ホテルで食べてもよかったのだが、市内の様子を逸早く知るために情報の集まりそうな所に入ろうと言うのだ。

 ホテルのコンシェルジュ曰く、鉱山に近付くにつれて治安はどんどん悪くなって行くと言う。

 鉱山の入り口付近には、鉱夫たちの溜まり場になっている店が沢山並んでいるらしい。

 移動にはレンタルの電動バイクを借りる事にしたが、なぜかアメリカンなクルーザータイプの電動バイクしか置いていない。

 店主に聞くと、街並みに合わせて電動バイクもクルーザータイプしか置いていないと言う事だった。

 仕方なくそれを借りて走らせるが、やはり形だけで電動モーター特有のキュィーンと言う音しかしなかった。


「よく見たらここの街並みは、西部劇みたいな街並みだな」


 メグミがバイクを運転し、後ろに乗っているジュリアに話しかけた。メグミはどこで手に入れたのかサングラスまでかけている。


「そうね、自分たちの事を2nd49'sって言うくらいだから、街並みも19世紀に合わせているんでしょ」


 道路脇には西部劇などで見る、建物の周りに廊下が巡らされたラップアラウンド様式の木造建築がずっと続いている。

 中には服装もウエスタンスタイルで、テンガロンハットを被っている者もいた。


「ここって、大東亜共栄圏だったよね?……まるでアメリカにいるみたいだ」


「ここから少し西に行ったらアメリカ合衆国圏だから、そこから労働者が流入して、こんな街並みになってんじゃない?……今じゃ国による特色もほとんどないからね」


「それにしたってこの街並みはやりすぎだよ」


 しばらく電動バイクを走らせると、西部劇で見るサルーンと呼ばれるバーが並んでいるエリアに入った。

 あまり大きなサルーンは目立つので、小さめの所を選んでバイクを止める。

 周りを見ると、いかにもアウトロー然とした男たちが数人で談笑している。


「気付いた?……奴ら銃を持ってるよ」


「そうみたいね……気を入れて行かないとダメよ」


 玄関の小さなスイングドアを押して中に入ると、薄暗い中に客は3人しかいなかった。

 20席くらいしかない小さなサルーンだが、カウンターが開いていたのでそこに座る。すると店主が注文を聞きに来た。


「見ない顔だな、旅の者かい?」


 無駄に太った店主はニコニコな表情で話しかけて来る。


「まあ、そんなとこだけど……昼飯時ひるめしどきなのにすいてるんだな……」


 メグミが周りを見回して言った。


「ああ、そりゃグァンロンのせいだろう」


「グァンロン?」


 メグミはグァンロンと聞いても、知らないふりをして聞き返す。


「ああ、海賊らしいが、先週辺りからこの街に現れて金の横流しをしているらしい」

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