第12話 いきなり姉妹って言われても③

 特別海賊捜査隊の発足式は滞りなく終わり、メグミとジュリアはホテルに帰っていた。と言ってもメグミは寝ていて何も聞いていなかったが。

 発足式で合流した4人の隊員も、他のホテルに泊まっているらしいが、あのロボットであるカンゼオンも同じホテルに泊まっているらしい。

 その4人も明日から一緒に金星へ向かう事になる。


「何か食べるでしょ……ここのホテルのレストランは美味しいらしいから食べに行きましょ」


 ジュリアはタイトスカートを穿いてシャツのボタンを留めながらメグミを振り返る。

 メグミはジーパンにブーツを履き、黒のTシャツを着て銃ホルダーを付けるとその上から赤いジャケットを羽織る。


「まさか超高級レストラン?」


「超は付かないけど、そこそこな部類かしら」


「ええ、あたしお金持ってないけど……」


「そんなもの必要経費で落とせばいいのよ」


「あそうか、これからはそんな待遇になるんだ」


「そうよ、その代わり領収書は必ず本部に送らないといけないわよ……それから、捜査の最中ではチープなホテルとか食べ物を選ばないと、文句が出るらしいから気を付けてね」


「何だ、案外ケチなんだな」


「そうしないと、みんなバカみたいに高い買い物をするでしょ」


 ジュリアも銃ホルダーを付けて灰色のジャケットを羽織った。

 部屋を出て最上階の60階にあるレストランに向かう。そこは展望レストランになっていて、丁度夕日が差し込み幻想的な光景になっている。

 南側は窓の周りに池が配されて、その向こうにニューヨーク湾が見えるが、遠目に全長333メートルの巨大な自由の女神像が海上に直立している。初代は第4次大戦時に破壊され、7年後に場所を変えて新しい自由の女神を復興させたのだ。

 初代の像は足首を残してドロドロに溶けて、その場所は大戦の慰霊記念館になっている。


「あれが世界最大の立像ってやつ?……めちゃめちゃデカくない?」


「もう大戦争は絶対にしないって言うモニュメントよ」


 ジュリアに言われてメグミは感慨にふける。

 2092年に勃発した第4次大戦は、歴史上初めて宇宙戦艦での戦闘が行われた大戦である。

 カナダで結成された多国籍系の世界聖戦結社なる団体が、カナダとアメリカが持っていた宇宙戦艦32隻を奪取して宇宙へ逃走したのだ。これは先進国の平均軍事力を遥かに上回っていて、世界聖戦結社はスペースコロニーを拠点にして世界に宣戦布告をしたのだ。

 その時に見せしめとして、自由の女神をプラズマビーム砲で破壊すると言う所業をしでかした。

 そこに第3次大戦から引き摺っていた中国の内紛とイスラム圏の抗争が活気づいて世界戦争へと発展したのだ。 


「何を食べる?……」


 ジュリアがメニューを捲って見せた。


「ん~、牛肉がいいな……」


「じゃあこの、丹波牛のフィレステーキのコースにしましょうか」


「賛成っ!」


 ジュリアが店員を呼ぼうとすると、横に女性が立ち止まって話しかけて来た。


「この席よろしいかしら」


 ジュリアとメグミは4人掛けのテーブルに向かい合って座っているが、女性は開いている所に座っていいかと聞いているのだ。

 女性は白のハイヒールを履き白いタイトドレスを着てサングラスを掛け、青い髪を結い上げて白い帽子を被っている。ピンク色の高そうなポーチバッグを持っていて、いかにもセレブレティだ。


「え?……他にも席は空いてますよ」


 ジュリアがそう言うと、メグミはジャケットから銃を取り出して、他の客に見えないようにして女性に銃口を向けた。

 ジュリアは一瞬驚くが、女性の方はポーチバッグをメグミに突き付けてじっとしている。


「あら、もうバレちゃったの?」


「穴が開いたバッグに指を突っ込んでたらすぐにバレるよ、マルリースさん」


 メグミの指摘にジュリアもすぐに女性がファムファタルウルフ海賊団の女頭領マルリース・リッグスだと理解して銃を取り出そうとするが、店員が後ろを通り過ぎていたので躊躇する。

 マルリースはポーチに開いた穴に指を入れていて、明らかにその中に銃が隠されていると見て取れる。


「待ちなさいよ、私は殺し合いをしたくて来たんじゃないのよ」


「じゃあなんだ?」


「情報を持って来たのよ」


「情報?……」


 マルリースは言い終わるなり有無も言わさずジュリアの隣に座り、店員を呼んだ。


「あなた達は何を食べるの?」


「……た、丹波牛のフィレステーキコース……」


 メグミはそう言うと、やって来る店員に見えないように銃を戻す。


「2人ともそれでいいのね」


 マルリースに言われて2人は頷く。


「丹波牛のフィレステーキコースを2人前と、私は……バナナジュースをもらおうかしら」


「かしこまりました……バナナジュースは一緒にお出ししましょうか、それともすぐにお飲みになりますか?」


「あ、すぐに出してちょうだい」


「かしこまりました」


 そう言って店員は奥に引っ込んだ。


 メグミがもう一度、銃に手をかけようとすると、ジュリアが手で制止する。


「どうしてだ、ジュリ姉……」


「いいのよ……何か目的があるみたいだから、聞くだけ聞いてみましょう」


「あら?……あなたはジュリ姉って呼ばれてるの?」


 マルリースはジュリ姉と言う言葉に反応して、ジュリアの顔を覗き込む。


「い、いいでしょそんなの……メグミが勝手に呼んでる事じゃないの」


 ジュリアは何故か少し顔を赤らめている。


「私もマル姉って呼んでちょうだいよ」


 マルリースはニヤついてメグミに向き直ると、サングラスを外してテーブルに置く。緑色の瞳がメグミの目を真っ直ぐ見つめて来た。


「い、嫌だね……海賊を解体して更生するなら呼んでやる」


 メグミはそっぽを向いて不貞腐れる。


「それは残念ねぇ……せっかくこうして姉妹3人が揃ってるのに」


「だから、いきなりあんたらに姉妹だって言われて、戸惑ってるのはこっちなんだからな」


 メグミは眉間に皺を寄せてマルリースを睨み返す。


「マルリース……そんな事を言いに来たんじゃないでしょ、言う事があるなら早く言いなさいよ」


 ジュリアが堪り兼ねて先を促す。


「せっかちねぇ、まあいいわ……今日接触したのは龍帝海賊団が金星に降りたらしい事を伝えに来たのよ……ルォ・グァンロンって言う中国系で巨漢の強化人間よ、漢字で書くと羅光龍と書くみたいだけど」


「羅光龍、ルォ・グァンロン……手配書に書いてあるわね」


 ジュリアは腕時計型の端末を操作すると、空中に30㎝くらいの映像が現れる。

 手配書の欄に羅光龍と書かれていて、太って髪の毛を辮髪にした男が映っていた。身長の所にはなんと213㎝と書かれている。


「ええっ……このデブが213㎝?……いったい体重は何㎏あるんだよ」


 メグミが裏側から眺めて驚きの声を上げる。

 ジュリアが見えていなかった所をスライドすると体重が出て来た。


「えっと、体重は240㎏あるわね」


「この男が金京シティーから北に1500㎞離れた所のネオサンフランシスコと言う街にいるみたいよ……金鉱の街で、ちょっとしたゴールドラッシュが興っているみたいだけど、グァンロンはそこで採れた金塊を地球に横流ししているみたいね」


 マルリースが言い終わると、折しも店員が持って来たバナナジュースのストローに口をつける。


「金塊ね……いかにも狙いに行きそうな顔をしているわね」


 ジュリアはグァンロンの顔写真を見て眉を顰める。


「おそらく、私が金星を離れたので、そこを狙って入って来たんでしょうけどね……残忍な奴だから気を付けた方がいいわ、巨大なガトリングガンを担いで攻撃してくるみたいだから、対策をあらかじめ決めておかないとやられちゃうわよ」


「ガトリングガンなんか持ち歩いてたら、すぐに見つかってしまうだろ」


 メグミが頭の後ろで手を組んで口を挟む。


「いつも大型のエアバイクで移動しているみたいだから、それに積んであるんでしょうね」


「それで、あなたはこれからどうするつもりなの?」


 ジュリアがマルリースの語った情報を端末に付け加えて、映像を引っ込めると同時にマルリースに質問した。


「私はセブンスの手掛かりを追って火星に行くわ……あいつは恩人の仇だからね、絶対に私が引導を渡してやる必要があるのよ」

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