第8話 強化人間VS強化人間②

 ダァンダァンダァンッ!!!


 マルリースも下から応戦し、間が空いたところで勢いよくジャンプすると、7mほどの高さの梯子に取り付き、間髪入れず天井扉から屋上に飛び上がった。


 バンバンバンバンバンッ!!!!!

 ダァンダァンダァンッ!!!

 カンカンカンッ!!!


 メグミはマルリースが出て来たところを狙い撃つつもりだったが、思っている以上に高く飛び上がったので的が絞れなかった。

 マルリースも飛び上がりながらメグミを狙ったが、何とメグミはフランパンを盾にして銃弾を受け流していた。先程のキッチンで拝借していたのだ。

 そして、着地点に向かって走り込み、同時に銃を捨てるとナイフを取り出してマルリースに切りつける。

 マルリースは空中で銃をホルダーに終うと、刀を抜いてナイフを受け止める。



 *****



「幕帘はアジトに向かったんだな?」


 言ったのは課長の前田正明だった。


「はい、エアバイクの発信源を辿ると、テラフォームマシンの所で停止しています」


 答えたのは係長の椿弓月だ。

 押収していたエアバイクは、既に警察のネットワークに登録してある。


「やはり噂に違わぬ向う見ずだな……無事ならいいが……」


 前田たちは宙航警の警備艦「明星みょうじょう」「暁星ぎょうせい」「勝星かちぼし」の3隻を動員し、ファムファタルウルフ海賊団のアジトに向かっているのだ。今、前田たちが乗り込んでいるのは1番艦の明星だ。


 金星の大東亜共栄圏にある宙航警には、160m級の警備艦が地上に3隻宇宙に6隻配備されている。

 警備艦と言っても宇宙軍の200m級巡洋艦に匹敵する攻撃力を要し、出力1000kw2連装レーザー砲4基、30㎝3連装超電磁砲2基、200㎝プラズマビーム砲1門が装備されている。

 宇宙船の形は大体が魚や鯨に似せて作られていて、マッコウ型、ナガス型、シャチ型、ジンベイ型、マンタ型、アンコウ型と他にも色々ある。軍関係に多いのがマッコウ型とジンベイ型で、前面に大出力の砲門を備える事が出来るからだ。宙航警の警備艦はジンベイ型の外観をしている。旅客船には圧倒的にナガス型多い。


「あんな奴、無事でなくてもいいですよ……赴任早々から勝手な事しやがって……」


 蓬莱ジェシカが機関銃を片手に鬼の様な顔をしている。さっきから、せっかく寝ていたのに叩き起こされたと怒っていて、その原因がメグミと知るやさらに怒りが増しているのだ。

 病院で容疑者が奪い返された事を受けて、夜中にも拘らず副所長の村上南の号令で、ファムファタルウルフ海賊団のアジトを捜索する事になった。

 寝ていた海賊課の課長前田正明以下は、突然の緊急招集で叩き起こされる事に相成った。


「見つけたらこっ酷く怒って下さいよ、課長!」


「そういきり立つな……幕帘のおかげでファムファタルウルフ海賊団を追いつめられるんだから、良かったじゃないか」


「まあ、そうですが……」


「ファムファタルウルフ海賊団がナイトメアの栽培方法を確立したせいで、今世界はとんでもない事になっていますからね」


 エマ・ハワードが窓から外の様子を見ながら言った。


「とんでもないとは、どんな事だよ」


 ジェシカが興味を示す。


「今、犯罪組織では戦闘員の洗脳が流行しているのよ……それを容易にいているのがナイトメアで、これを使っての洗脳は非常に容易に出来てしまうと言うわ……その代わり人体にかかる影響は大きくて、後に精神異常に陥る人間が多くいるのよ」


 エマの言った事は現在、全世界で問題になっている。

 ナイトメアが出回った事で組織犯罪の規模が大きくなったり、洗脳戦闘員を増やすために拉致が横行するようになるなど、取り締まる側も負担が大きくなっている。

 何よりそれ以上に深刻なのが精神異常の問題だ。

 警察によって捕らえられた洗脳者は、ほとんどが精神に異常をきたしていて、それを治療する医療費に大きな負担がかかっている。

 症状としての研究はまだ進んでいないが、患者の話によると、ナイトメアが切れた状態で眠りにつくと恐ろしい悪夢を見てしまうらしい。


「ほんとにとんでもない物を広めてくれたな」


 桃井雅晴も話を聞きながら頷いている。

 皆一様に防弾チョッキを着てヘルメットを被って小型の機関銃を携えている。


「後、どのくらいかかる?」


 前田が明星の艦長に尋ねた。


「10分ほどで到着します」


「PAR(パワーアシストロボット)の準備を全艦に通達してくれ」


「了解です」


 PARとは全高3mほどの装着型ロボットだ。強化人間やサイボーグなどのトランサーたちに対抗するために造られた物で、今では飛行タイプまで製造されている。最近は全高15mの大型のPARG(パワーアシストロボットジャイアント)が製造されるようになっている。まだ試作機の段階だが既に何機も世に出回っていると言う。

 モニターにはようやくテラフォームマシンが小さく映し出されて来た。



 *****



 ギリギリギリ……。


 マルリースの刀とメグミのナイフで鍔迫り合いになっていて、何故か2人とも口元に笑みを浮かべて楽しんでいるように見える。


「何だ、楽しそうだな」


「へへ……あんただって、ニヤついてるじゃねぇか」


 言い終わるや否やメグミは左手のフライパンで顔を狙って叩きつける。

 マルリースはそれを後ろに飛んで避けると、刀をだらんと下げて背筋を伸ばす。

 夜中だが辺りは真っ暗ではない。金星の周りをリング状に取り巻く遮光板が、夜には裏側で太陽光を反射して地上を僅かに照らしているのだ。一応は低反射の素材が使われているが、完全に反射を抑える事は出来ない、したがって夜の空に金色の橋が架かっている状態に見えるのだ。


「お前の肩にもナンバーはあるのか?」


「……あるさ……108だ」


 メグミはナイフとフライパンを構えたまま言った。

 マルリースは数字を聞いて少し目を見開く。


「なるほど、やはりお前は幕帘教授が連れ去った試験体で間違いないな」


「なっ、何で爺さんの事を知ってるんだ?……それに試験体ってなんだよ……」


 メグミは驚いて問い返すが、マルリースはクスッと笑ってメグミの目を見つめる。


「私は14年前マーレー研究所から逃げ出した1人さ……幕帘教授の事はよく知っている……反乱の時は私もいたからな」


「マーレー研究所?……反乱ってなんだ?」


 幕帘圭紀まくれんけいき教授は強化人間の研究者だった人物だ。

 今から14年前、アメリカにあるマーレー研究所と言う強化人間の研究機関があったのだが、そこで研究をしていた幕帘教授は強化人間の研究に疑問を抱き、他の研究員も巻き込んで、ついには強化人間を逃がしてしまい、研究所を爆破してしまうと言う暴挙に出たのだ。

 そして、それまで国家機密だった強化人間の研究をマスコミに公表し、日本に亡命してしまった。


「幕帘教授は人間の愚かさを憂いていた……これ以上研究が進むと人間の尊厳が失われてしまうとも言っていた……ついには強化人間を解放するために反乱を起こすのだが、お前は幼かったので幕帘教授が引き取って育てていたのだ」


「バ、バカな……じゃあ、あたしは強化人間って事なのか?……」


 メグミはマルリースの話した内容に絶句する。


「フッ、幕帘教授はお前に何も話してはいないのだな……良かれと思って解放した54人の強化人間だが、14年経って結局は34人が軍に所属し、3人が警察に入っている、その1人がお前だな……私のようなアウトローは17人いるが、そのうちの5人は人間社会を葬るためにテロ組織を組んでいると聞く……おそらく、もうじき大きなテロを起こすだろうよ」


「それで、あんたもテロ組織に加わるのか?」


「いや、私は個人的にテロ組織に恨みがあるからな、奴らを追っている……私は忠告してやっているんだぞ……私のような小物を相手にせず、もっと大きい獲物を狙えと」


「そんな事は言われなくても解っているよ……爺さんは死ぬ時に言っていた、お前の正義を貫けってな……それで合点がいったよ……爺さんが何で警察官になれって言っていたのが……爺さんは強化人間の開放に後悔はしていないと思う、そのまま研究が進んでいればもっと大きな災厄が訪れると思って正義を貫いたんだ、それをしていなかったら今頃は世界中に強化人間が溢れていたかもしれない」


 トランサーにはサイボーグ、ドーピングキディ、獣人、強化人間と4種類の改造人間がいる。その中でも強化人間は少数派だが、能力が高いせいか組織の上位に位置している事が多い。海賊の頭領にも強化人間が立っている事が多く、テロ組織のヘプタゴン海賊団も5人の強化人間が混じっているのだ。

 メグミは喋りながらも構えは崩さない。しかし、対峙しているだけで汗がだらだらと滴り落ちる。

 一方のマルリースは平然として立っていた。

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