第5話 女海賊マルリース参上。②

「奴は口を割ったのか?」


 メグミは自分の机に座って拳銃をばらして手入れをしながら、向かい側に座っている秀一に聞いた。

 メグミが愛用している銃は銀色のベレッタM92FSと言う銃だが、何と200年以上前の銃だ。

 今でも拳銃は火薬で鉛弾を発射するスタイルが取られている。大型のレーザーガンなどはあるが、ガン部分がロケットランチャーほど大きい上にバッテリーを体に装備しないといけないので面倒臭いのだ。

 ベレッタは今でも製造されていて、200年前からは少々デザインは変わっているが基本構造は変わっていない。拳銃のメカニズムの頂点は200年前に到達しているのだ。


「割ったらすぐに連絡が入るだろ」


 秀一はフルーツジュースをストローで飲みながら素っ気なく言う。


「それより、年代物の銃を使っているんだな」


「ああ、これは爺さんに貰った銃だ……爺さんと言っても血は繋がっていないがな」


「その爺さんも刑事だったのか?」


「いや、爺さんは科学者だ」


「か、科学者?……そこからこんなガサツが生まれたのか?」


 秀一はフルーツジュースを吹き出しそうになる。


「誰がガサツだ!……あたしは孤児だったんだよ……爺さんの知り合いの科学者が死んでその子を引き取ったって聞いている」


「そ、そうか……変な事を聞いてすまんな……」


「謝る事はない、あたしのような境遇は特別さ……引き取ってくれた爺さんが金持ちだったから、あたしも中流以上で生活できたが、そのまま孤児院に行ってればこんな立場にいなかっただろうな……爺さんは科学者と言ったが、あたしと生活している時は既に引退していた……何を研究していたか聞いても教えてもくれなかった……」


 メグミは喋っている間も銃を手入れする手は止めない。

 メグミの親は幕帘圭紀という科学者だ。マーレー研究所と言う強化人間の研究機関で働いていたが、ある事件を起こして日本に逃げて来たのだ。その時に研究材料として生まれたメグミを引き取っていた。その事はメグミには一切語っていない。


「……って、こんな話はどうでもいいんだよ、奴は吐いたのかって!」


 メグミは銃を組み立て終わると机にドンと置いて秀一に食ってかかる。


「はぁ?……だから俺に聞いたって解るか……連絡を待てばいいだろ」


 メグミに撃たれた男は近くの病院に入院していて、そこで事情聴取を受けているのだ。


「それで?……お前は何でここにいるんだ?」


 メグミは銃を懐に終うと秀一を一瞥する。


「俺は今日は非番だし……もうじき病院での聴取を引き継がないといけない」


「だったら、あたしもついて行かせろよ」


「そりゃいいが、お前は今日赴任したばかりで疲れてるだろ」


「全く問題ない、3日でも起きていられる」


「はぁ?……バカじゃないの?」


「バカとはなんだ!……若いからに決まってるだろ」


 メグミは肩を竦めてニッと笑う。



 *****



 夜24時になると病院での男の聴取が交代なので、秀一とメグミはパトカーで病院に向かった。

 メグミに撃たれたジェフシィと言う男は、捕まってからは何も言わず黙秘を続けている。名前だけはネットで照合して明らかになっていた。

 警官2人が警備する病室の扉を開けてメグミと秀一は入って行く。


「どうなんすか桃井さん、何か吐きましたか?」


 秀一が病室に入ると桃井雅晴がベッドの傍に腕を組んで座っていた。


「いや、吐くどころか一言も喋らない」


 見るとジェフはベッドに横たわり、目の所にタオルを置いて寝ている。室内が明るいのでそうしていると思われる。

 するとメグミが近寄って突然タオルを取り上げた。


「よう、久しぶりだな……元気だったか?」


 メグミがドカッとベッドの脇に座ると、ジェフの体がボヨンと大きく跳ね、足の痛みに顔を歪めている。


「いてっ……な、何だ!……」


「おいおい、喋れるじゃないか……」


 ジェフはメグミの顔と目が合うと、驚いて表情が青ざめている。


「て、てめぇは凶暴女……」


「はぁ?……誰が凶暴だって?……こんな繊細な女を捕まえて凶暴だってのか?」


 メグミはジェフの太腿辺りで頬杖をつく。そこは銃弾が当たった所で包帯が巻かれているのだ。


「い、いてててっ!……解った、解ったからやめてくれ!」


 メグミはニヤつきながら起き上がると、今度はジェフと添い寝する形になって顔の側で頬杖をついた。


「なあ、教えてくれよ……ファムファタルウルフ海賊団のアジト、知ってるんだろ?」


 耳に口を近付けて優しく喋った。


「そ、そんなの言えるわけねぇだろ……もし言ったら俺は殺される」


「やめておけ幕帘、こいつは絶対に喋らんぞ」


 桃井が呆れたように声をかける。


「やっぱり無理か……じゃあ、どうするんだ?……みすみす海賊団の捕縛を諦めるってのか?」


 メグミは諦めてベッドから立ち上がった。


「まさか……今、エマが衛星画像を解析している……幕帘が追いかけたエアバイクは真っ直ぐ北に向かっていたと情報がある……その先にこいつらのアジトがあってもおかしくないからな」


「なるほど、エマってのは優秀なんだな……」


 ドオォォォォン!!!


 メグミがそこまで言うと突然、病院内で激しい爆発音が起こって、病棟が少し揺れた。


「な、何だ!?……」


 秀一はしゃがんだ姿勢で辺りを見回す。


「秀一はここで、こいつを見といて……あんたたちもここを離れるんじゃないよ」


 メグミは秀一と警官2人に向かって言うと、走って病室を出て行く。その後を桃井も追いかけて行った。

 辺りに煙が立ち込めて前が見にくいが、ナースステーションの方で騒然とする声が聞こえる。

 入院病棟の3階で、しかも24時を回っているから廊下に人影はない。


「どうしたんだ!……何があった?」


 煙を払いもってナースステーションに近付くと、ナースたちが惨状を確認すべく薄暗い中をライトで照らしている。隣がロビーになっていてそこで爆発があったようだ。


「爆発です……原因は解りませんが、かなり大きい爆発でした」


「怪我人は……」


「まだ見つかっていません……夜中ですから人はいなかったと思うのですが」


 ナースは言いつつもめちゃくちゃになったロビーをあちこち照らしている。


「おい、おかしいぞ……無人のロビーを爆破したところでどうなる」


 桃井が何かに気付いたのかメグミを呼び止める。

 メグミもそれに気付くと、苦虫を噛んだ様な顔をして元来た廊下を走って戻った。


「くそっ!……誘導か!……」


 メグミは顔を歪めると壁をドンッと叩く。急いで病室に戻ると、室内に警官2人と秀一が倒れていた。脈を確認して生きている事は解ったが銃などを抜く前に倒されているところを見ると、相当な手練れが侵入したと思われる。

 そしてベッドにいた筈のジェフがいなくなっていた。


「窓が割られているぞ!」


 桃井が指差した所の窓が粉々に割られていてカーテンが風に煽られている。

 駆け寄って下を覗くと人が2人乗っているエアバイクが、病院を離れて上空に上昇して行くところだった。

 メグミは銃を抜くと迷わずエアバイクに発砲する。


 バンバンバンバンバンバンバンッ!!!!!!!


 弾は無常にエアバイクを通り過ぎて行く。


「ちきしょうが!……まんまと罠にハマってらぁ!」


 メグミは怒りを抑えきれず近くのベッドを蹴り上げる。

 だがメグミは相手の顔をしっかり見ていた。青いライダースーツに青い髪の毛、振り向いた顔が病院の窓明かりに照らされ、絶世の美貌が笑みを浮かべてこっちを見ていた。


(あの女……あれがファムファタルウルフ海賊団の頭領なのか?……)


 メグミは暗い夜空を見上げてエアバイクが離れて行くのを眺めていた。



 *****

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます