時雨

御崎 龍一郎

第1話

「何もやる気がしないのだが」

 僕はそう呟いた。

「そう」

 彼女は呟いた。


 しばし沈黙が流れた。

「……えーと」

 僕は彼女の方を見て言った。

桜咲詩乃さくらざきしのさん」

「何よ」


 ここは放課後の教室。

 僕はクラスメートの桜咲瑠璃と2人きりだった。

「やる気がしないって……」

 桜咲は僕の方にポイと箒を投げた。

「あなたねぇ……自分の立場というものをわかってる?」

 桜咲は長い黒髪を手で梳いて僕を見て言った。

「あなたが授業中居眠りをしてたからでしょ……桐原きりはら君」

 ……それはそうだが。

「それは桜咲もだろう……」

「……何か?」

 桜咲はややつっけんどんに言った。

 僕は押し黙って教室の床を箒で掃き始めた。

 そして桜咲は雑巾で机を拭きだした。


 ◇ ◇ ◇


 僕の名前は桐原友也きりはらともや、彼女の名前は桜咲詩乃さくらざきしの、共にとある県立高校に通う高校2年生だ。


「桜咲、今日も授業つまらなかったな」

 僕は床を箒で掃きつつ言った。

「……気安く話しかけないでよ桐原君」

 彼女は雑巾で机を拭きつつ言った。

 何となく機嫌が悪そうではある。


「……あなたがつまらないと思ったとして私もそう思ってると思ってるの?」

「いや……別にそういうわけでは……」

 僕はすごすごと言った。

「でも桜咲さんも寝てたし」

「だから……?何よ」

「……えーと」

 桜咲の性格は少々つかみにくい。


「授業が簡単すぎてつまらなかっただけよ。それに昨日は深夜まで起きてたし」

 桜咲は少し大きめのくりくりとした黒い瞳で僕を見て言った。

 彼女の髪は腰くらいまである黒髪。手入れは行き届いているようでサラサラとしている。

 体型はスリムな感じでスタイルがかなりいい。身長は僕と同じくらい。

 まぁ学年でもトップレベルの美少女だろう……モデルとしてもいけそうな。


「何してたのさ」

「……何でもいいじゃない」

 ……気になるのだが。

 そして桜咲は窓を拭きだした。


 放課後の静かな教室に夕日が差し込んできてる。

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時雨 御崎 龍一郎 @ryuichi3567

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