第134話

 母屋の廊下を、六人の特殊部隊隊員が進んでいた。

 先頭を歩く男は常に短機関銃の銃口を前に向けている。右手は銃把グリップを握り、左手は銃側面に付いたライトのスイッチに添えていた。不審な人間が現れた瞬間、ライトを照射して目潰しするためだ。

 そのすぐ後ろを、二番手が続く。先頭の男の肩越しにM4カービンを構えている。ライトが照射された瞬間、敵であれば即座に撃つつもりで銃口を向けている。

 二歩程離れ、二人の男が続く。前を歩く二人が前方に集中し、その二人は左右にカービン銃を向けて警戒していた。

 最後尾の二人が背後を警戒するために後ろ歩きで続く。

 音を立てぬように移動する訓練を受けていたが、一歩足を進めるだけでも木製の床が、鳥の鳴き声のような音を鳴らした。どうも構造上鳴る仕組みになっているようで、どんなに気を使っても音がなくならない。おかげで一層の警戒を強いられる。

 ここで、通信が入った。

『ベータに通達』

「こちらベータ1」

 真ん中を歩いていた男が、入った通信に応える。

『チャーリー、ロスト。警戒せよ』

「――了解」

 男は驚きを噛み殺し、返答する。

『エコーを増援に向かわせる。対象以外は、武器の有無関係なく排除せよ』

 さらに入った非情な命令にも「了解」と返し、周りの面々に注意を促す。

 その時だった。

 最後尾を歩いていた男が、突如糸の切れた操り人形のようにその場に崩れた。

 左右と後ろを警戒していた三人が、倒れた隊員に駆け寄りつつ、銃口を向けて敵の存在を探る。

 だが、どこにも敵影を確認できない。

 先程通信に応えていたリーダー格が、倒れた隊員の様態を見た。

 首を、小口径の弾丸で撃ち抜かれている。倒れている隊員が最後に見ていた方向、弾着の角度から、撃たれた方向を特定する。

 警告する前に、今度は前方を歩く隊員に異変が起きた。

 肩越しにカービンを構えていた男が、先頭の男の背中にかぶさるように倒れかかる。

 先頭の男が、突然の現象に絶叫しながら男を振り払う。

「落ち着け!」

 リーダーが怒鳴る。そして、先程特定した方向を指定する。

「壁だ! 壁を撃て!」

 その命令と共に、四丁の銃器が一斉に火を噴く。

 倒れた隊員は、後ろを見ている最中に首を横から撃ち抜かれていた。

 つまり、横――壁の中に通路があり、そこに敵が潜んでいると判断した。

 壁に弾痕が走り、火花が跳ぶ。

 そのことに、リーダーは違和感を持った。木造建築なら、弾を撃ち込まれて火花は起きない。

 やがて撃ち終わり、先頭にいた男は弾倉を交換して壁に近付いた。壁ごと蜂の巣になっている敵を引きずり出そうと考えたのだろう。

「やめろ!」

 リーダーが慌てて静止した。

 しかし、遅い。

 突如、壁の一部が外れ、近付く男に板が倒れ込んだのだ。

 慌てて短機関銃を手放し、板を支えようとするが、間に合わず下敷きになる。

 そして、板が抜けて出来た空間から、一人の男が飛び出た。

 咄嗟に残った隊員達が、銃口を向ける。

 だが、引き金を引く前に、男――太刀掛たちかけひとしは持っていたタクティカルライトの電源を入れた。

 強烈な光が、暗視装置を被っている男達を襲う。

 安全装置が働くため、幸い男達の目が潰れることはなかった。

 しかし、暗視装置が動かず、視界が効かなくなったことに変わりはない。

 太刀掛はM1910を発砲。リーダーを含めた男二人が両足を撃たれて倒れる。

 最後尾にいた三人目は、戦うことを諦め、逃走を図った。

 太刀掛は、逃げ出した三人目をあえて撃たない。

 男は少しでも太刀掛から離れようと全力で駆ける。

 次の瞬間、男の足下――床が抜けた。男が床下に消え、一秒も立たない内に断末魔が響く。

 太刀掛はその様子に目もくれず、足を撃った男達に近付いた。

「さて、貴様等が何者で何をしに来たか――は推察が付く。問題は、その規模だ」

 太刀掛が近付くと、撃たれて悶絶していたはずの一人が拳銃を抜いた。銃口が太刀掛に向くが、次の瞬間にM1910で頭を抜かれる。

「あまり、手間を取らせないでもらおうか」

 太刀掛はさらにリーダーに近付く。

 リーダーは身動きを取らない。

 そのことに、太刀掛は不信感を持った。太刀掛は背後に向けて拳銃を撃つ。

 弾除け用の金属板を仕込んだ板の下敷きになっていた男が、拳銃を抜いていた。リーダーの男はそれに気付いて、太刀掛を引き寄せようとしていたのだ。

 しかし、その行動を見ていたのは迂闊だ。太刀掛は寸前で気付き、撃ち倒した。

 リーダーが、上体を起こしながらナイフを突き出す。

 肉が断たれた。

 太刀掛が刃を避け、カウンターで突き出された左手が、リーダーの首を貫いた。

 太刀掛が首から指を抜くと、喉から空気が抜ける音がし、一拍遅れて血が噴き出した。

「手間を取らせないでくれ、と言ったはずなんだがな」

 太刀掛は一呼吸置いて、壁裏の通路から美妃みきと合流しに向かった。

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