第103話

「シュウさん達が建物内に突入しました」

 無線で勇海ゆうみ達の報告を聴いていた英賀あがが銃座にいる勝連かつらに伝える。

「よし、我々も内部に突入する。英賀、弦間つるま一文字いちもんじ通津つづは自分に続け。残りは、施設周囲を回りながら見つけた敵を一掃!」

 指示を受けた隊員達から「了解」の声が返る。

 勝連はHK416を片手にランドローパーから降りた。グレネードの爆発や重機関銃の弾丸でボロボロになった入り口から堂々と入っていく。その後を、英賀達が追う。

 英賀はミニミ軽機関銃、たくみはM4カービンの接近戦用短銃身ショートバレルモデルCQB-Rを、一文字と通津はH&K MP7短機関銃を装備していた。匠と一文字に至っては、装着したベストのあちこちに自分用のナイフを多数納めている。

「通津、研究室への最短ルートを表示。目的の人物はそこにいるはずだ」

「了解」

 指示を受けた通津が、ウェアラブルコンピュータを操作し、前もってCIAから渡されていた研究施設の見取り図を読み出す。

「おっと、相手はおちおち地図も読ませちゃあくれないみたいだな」

 通津が調べている間、前方を見張っていた一文字が警告する。

 一文字の言葉通り、奥から施設を警護する兵士達が現れた。外の兵士とは違い、AK74の短銃身モデル、AKS-74Uカービン銃を構えている。

 英賀が咄嗟に機関銃で弾幕を張り、その隙に勝連達は自分達に近い位置の柱を遮蔽物にした。

 相手も、ただ突っ込むのではなく、ちゃんと遮蔽物に身を隠しながら攻撃してくる。少なくとも、外を守っていた兵士達とは練度が違う。

「どうやら、ここを守るための精鋭のようですね」

 匠が毒づきながら、カービン銃を撃ち返す。外の兵士達は一般兵だったが、こちらは専門の訓練を受けた部隊のようだ。

「あまり時間は掛けたくないのだがな……」

 勝連は呟きながら、攻撃のために頭を出した敵を撃ち抜く。一人倒れた瞬間、他の数人が勝連に攻撃を集中する。隠れた柱に弾丸が弾け、削れたコンクリートの破片を飛ばした。

 その様子を見ていた一文字が、

「おい、そこの若いのと眼鏡、ちょっと伏せろ」

 と、距離を取りながら匠と通津に言う。

「おい、せめて名前で――」

 匠が文句を言う前に、一文字の持つ短機関銃が火を噴いた。

 4.6mm特殊弾頭が柱に撃ち込まれていく。

「おい、どういうつもりだ!」

 降ってくる破片から身を守っている匠の文句を聞き流しながら、撃ち続ける。銃口を上に向けながら撃ち、一定の間隔を開けながら二、三発ずつ撃ち込んで穴を開けた。

「こんなところか」

 一人満足し、一文字が銃をスリングで背負い直す。代わりに、両手に大きめの刃を持ったククリナイフを二本構えた。

「よし、二人とも肩貸せ!」

 そう言って駆け出す。

 有無も言わせず、匠を踏み台にして跳躍。右手に持っていたククリナイフを振りかぶると、先程弾丸で削った穴に突き立てる。今度は左手のククリナイフを振りかぶり、刺した位置より上の穴に引っかけた。動かないことを確認し、右手のナイフを穴から抜くと、左手より上にある穴に刺す。さらに、左手のナイフを抜いて、上の穴へーーこの行程を繰り返し、柱を昇っていく。

「……うっそだろ、おい」

 普段の丁寧な言葉使いも吹き飛んだ匠が見上げる。

 その様子に気付いた勝連と英賀も思わず一文字を見てしまう。

「あれ、何やってるんですか?」

「……あいつの奇行は昔からだ」

 英賀の質問に、勝連が答える。

 あっという間に柱の上部に達した一文字は、身体を揺らして勢いを付け、天井を這う通気用ダクトに跳ぶ。ダクトを伝って相手の上を取ると、片方のククリナイフを投擲した。高速回転しながら飛んでいくナイフが、身を隠していた敵兵の胸に突き立つ。

 ここで、敵は一文字の存在に気付いた。慌ててカービン銃を上に向け、ダクト上を走る一文字に撃ちまくる。

 一文字はナイフを手放した右手で再度MP7短機関銃を握り、下の敵に向けて撃った。弾丸も重力の影響を受ける以上、上から下へ撃った方が有利だ。

 ここで、英賀が飛び出し、一文字に夢中になっていた集団に向けてミニミの弾丸をばらまく。

 二方向からの攻撃に、敵が混乱に陥った。

 残りの三人も遮蔽物から出ると、慌てふためく敵集団を片っ端から撃ち抜く。前進していき、こまめに遮蔽物を変えながら、奥に向かう。

 ある程度進んだところで、背後から弾丸が飛んできた。何人かが裏に回り、挟み撃ちを企んだようだ。

 英賀が振り向きざまに水平に弾丸をばらまき、先頭にいた二人を撃ち倒す。

「背後は自分と英賀で対処する! 先へ進め!」

 勝連が指示を出しながら、後ろから迫る敵へHK416を連射する。

 匠と通津は「了解」と返し、先へ進んだ。


 たくみが敵を一人撃ち倒したところで、M4カービンが弾切れを起こした。

 匠は舌打ちをしつつ、左手をベストに伸ばす。

 ただし、掴んだのは予備弾倉ではなくナイフの柄だ。抜刀の動作のままにナイフを投擲する。新たに現れた敵の喉元に刃が刺さった。

 M4カービンを捨てて拳銃を抜き、首にナイフの柄を生やした敵を蹴り倒す。倒れた敵のちょうど背後にいた兵士に、三連射。ブローニング・ハイパワーから放たれた9mmパラベラム弾が、兵士の胸と頭部に命中した。

「タッくん!」

 通津つづが警告する。

 匠はその声が耳に届くのとほぼ同時のタイミングで敵に気付き、跳び退いた。

 二人の兵士の持つAKSー74Uカービンが、先程まで匠がいた空間を撃つ。

 突然の奇襲に対し、匠も撃ち返した。空中で撃った二発の拳銃弾が、一人の足と肩を貫く。

 もう一人が匠を追撃しようとするが、通津が短機関銃で撃ち倒した。

 肩を撃たれても拳銃を抜こうとしていた敵に、匠が床に横になったまま止めの一発を撃ち込む。

 まだ敵が残っていたため、牽制のために拳銃を連射しながら立ち上がった。

 匠は、あえて再度身を隠す真似はせず、突撃した。スライドが後退したままの拳銃を口にくわえ、両手でナイフを抜く。細い柄に対し厚くて大きい片刃の刀身を持った包丁のような形状のナイフ。ピチャンガティ――パミール語で「ハンドナイフ」を意味する。

 敵の隠れる柱に接近し、短剣を一閃。ライフルを撃とうとした敵の首を、すれ違いざまに撥ねる。

 もう一本の短剣で下から斬り上げ、刃がハンドガードに当たって敵の手から弾き飛ばした。無防備な鳩尾に、両刃になっている切っ先を突き刺す。振り返りながらフリーになっている方のナイフを投げ、離れた位置の兵士の眉間を貫く。

 空いた両手で、匠は新たな武器を抜いた。ピックのような鋭いくちばし状の刃を持った戦闘用のツルハシ「ザグナル」と、刀身が三日月のように湾曲した片刃の短刀「バンク」だ。

 左手に持ったザグナルを敵の銃に引っかけて銃口を剃らし、首にバンクを引っかける。引っかかった刃を引き、頸動脈を斬り裂いた。

 ナイフで斬りかかってきた兵士の腕にザグナルの突起を叩きつけ、手首の骨を粉砕。ナイフを握っていない方の腕をバンクで引き斬り、止めに胸にザグナルの突起を突き立てる。肺から心臓まで貫き、相手の口から血が溢れた。

 ザグナルを手放し、少し離れた敵に向かおうとしたが、すでに銃口が匠に向けられていた。トリガーが引き絞られようとしている――

 そこへ、天井の通風口の金網が落ちたかと思えば、両手に短刀を持った人物が降りてきた。両手のククリナイフが煌めき、空中で振り下ろされる。二人の兵士が、同時に斬り捨てられた。

 降りてきた人物――一文字が、左手のククリを投擲し、近くの敵の持つカービン銃のハンドガードに刺さる。

 そいつが構え直す前に匠は接近し、バンクを振り下ろした。刃が鎖骨に食い込んで止まる。ハンドガードに刺さったククリを抜き取り、胸を貫いた。肋骨を避けて心臓へ刃が達し、即死する。

 一文字が残った右手のククリナイフで斬りかかり、最後の兵士の首を斬り飛ばした。軽く振り、刃に付いた血を落とす。

「片付いたぞ」

 一文字が得意げに言う。

「そのようで」

 匠は兵士から抜いたククリナイフに付着した血を拭い、一文字に返す。

 そこへ、ようやく後続の三人が合流した。通津が、先程匠が手放したM4カービンを持ってきている。

「こちらは片付いた。そっちは?」

「死体だけです」

「よし、時間がない。目標まで急ぐぞ!」

 五人はさらに奥を目指す。

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