プロローグ

 ――もう二度と会えないと思っていた。


 右手に血の滴る脇差しを、左手に硝煙薫る拳銃を握りながら、明智あけちまことは呆然と立ち尽くしていた。

 彼の目の前に、一人の女性が立っている。

 色素が薄く茶色掛かった長い黒髪、端整な中に憂いを帯びた顔立ち、赤みがかった瞳――


「――さやか」


 思わず、真智明・・・はその名を呼んでしまっていた。


 ――その名を持つ人間が、すでにこの世にいないということを、受け入れたはずなのに。

 彼の口は、故人の名を叫んでいた。



 人の運命を司るのは、神か? 偶然か?

 それは、人が生き続ける限り、時の回廊を巡り続ける永遠の謎掛け。

 だが、目の前に現れた女は、確かに明智あけちまこと――否、真智まちあきらの運命を変えたのだ。


 剣となって戦う男を、冥府へと引き摺り落とすための戦慄が、現世に蘇る――

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