第47話

 勝連かつら達三人は窓に近付く。

 見れば、施設の門を大型トラックが突破したところだった。駐車している車両や警備員達を薙ぎ倒しながら、暴走している。建物の入り口付近で停車したところで、荷台の中から銃器で武装した男達が出てくる。

 囲むように集まってきた警備員達が、次々と撃たれた。

「襲撃か!」

 勝連はショルダーホルスターに手を伸ばし、愛用の拳銃――スプリングフィールドM1911を抜く。

「相手の目的は、奴ですかね?」

 英賀あがが懐から拳銃を抜きながら尋ねる。こちらは、世界中の特殊部隊で使われているSIG社のP226拳銃だ。

 勝連は、英賀の口調から、質問ではなく確認であることを察し、「そうだろうな」と応え、

雲早くもはやは残って奴を守れ。味方が来るまで、英賀と私で保ち堪える」

 と、指示を飛ばす。

 ここでいう「奴」とは、先程まで尋問していた査察官のことだ。

「了解です」

 雲早は携帯を取り出すと、近くの支部へ増援を求める。

 雲早を残し、勝連と英賀は迎撃に向かった。わざわざ敵が来るのを待ってやる必要はない。

 下の階へ降りると、職員達と四人の敵が撃ち合っていた。だが、敵が短機関銃やライフルで武装しているのに対し、ここの職員の武器は五発装弾のリボルバーだ。その差は明らかで、まるで勝負にならない。逃げまとう兎を狩るライオンのように、次々と討ち取っていく。

 勝連がM1911を先頭の男目掛け発砲した。放たれた四五口径弾が、吸い込まれるようにこめかみに命中する。

 即座に二人目に照準を合わせ、二連射。二発とも胸に当たったが、男は怯んだだけで倒れない。防弾ベストを身に着けていたのだ。頭に狙いを切り替えて再度二発。男が鮮血を噴き出しながらひっくり返る。

 ここで、勝連達に気付いた敵が反撃してきた。勝連は飛び退き、英賀が敵の足下目掛けてP226を連射する。残った二人が足を撃たれて倒れ、そこを勝連と英賀が止めを刺す。

「野郎!」

 敵の増援が現れた。そのうち一人が、ベルギーのFN社製ライフル、FALの機関銃モデル、FALOを構えた。

 勝連はまずい、と思い、この場を急いで離れようとする。英賀は勝連と別方向に動き、扉を破って部屋の中へ待避した。

 機関銃の射撃が開始された。7.62mm弾が薄い壁を貫通し、勝連の近くにあったゴミ箱やベンチを穴だらけにし、観葉植物の鉢を粉々にする。

 勝連はM1911から空弾倉を捨て、新しい弾倉を挿しながら、一度相手から距離を取ろうと駆けた。

 だが、次の曲がり角に差し掛かったところで、タイミング悪く別働隊とかち合ってしまった。

 勝連は咄嗟に左手を伸ばした。互いに距離が近く、拳銃を向けるより、殴り合った方が早い。そのことに気付いた相手がライフルで殴ろうとするが、それより早く、勝連の手が男の腰に差してあるナイフを掴んだ。抜くと同時にナイフを一閃し、男の太股を斬り裂く。次に腕にナイフを走らせ、腱を切断。男がライフルを落とした。止めに首筋へナイフを突き刺し、頸動脈を絶つ。

 ナイフで仕留めているうちに、もう一人の男が慌てて距離を取りながら、銃口を勝連に向ける。

 勝連は抜いたナイフを半回転させ、切っ先を指で挟むように持つ。

 投擲されたナイフが、回転しながら男の首に突き立つ。

 勝連は男の身が崩れ落ちるのを最後まで見ることなく、振り向いて、M1911を発砲した。

 追ってきた男は持っていたアサルトライフルを撃つ間もなく頭を撃ち抜かれる。

 勝連は今まで来た道を駆け戻りながら、さらにM1911を連射した。こちらに気付いた男の肩や胸に次々と命中し、最後の一発が頭を吹き飛ばす。

 脳を破壊された男が倒れる背後で、G3ライフルを構えた男が、こちらを狙っているのが見えた。

 勝連は咄嗟に前転しながら、側にあった自販機まで待避する。そのとき、右手の親指がマガジンキャッチを押して空弾倉を落とし、左手で予備の弾倉を抜く。

 G3を撃ちながら、男が自販機に接近してきた。

 勝連が弾倉を詰め、スライドストップを押し下げたと同時に、男の身体が勝連の前に現れた。G3が再度火を噴く前に、M1911を二連射。二発とも胸に着弾した。防弾ベストに止められたが、至近距離からの着弾の衝撃に、相手が一瞬怯む。

 照準を少し上に上げ、さらに三連射。一発目が首を貫いて血の帯を引き、二発目が頬を突き破る。三発目が、眉間に穴を穿ち、男は完全に絶命した。



 部屋の中へ逃げた英賀を追って、機関銃を持った敵が弾をばらまいた。

 机を仕切るパーテーションに穴が空き、パソコンの液晶が割れ、書類が着弾と共に宙を舞う。

 英賀は匍匐状態で机の陰に姿を隠しつつ、移動して反撃の機会を伺った。

 相手も移動を開始した。機関銃を装備した男が、パーテーションで区切られた空間を歩き出す。

 英賀は男が歩く方向から大体の進路を予想し、先回りした。机の陰に隠れ、近づくのを待つ。

 十分に引きつけたところで、英賀はキャスター付の椅子を蹴り飛ばした。動いたものを目に留めた瞬間、男が機関銃を撃ち始める。

 その隙を突いて、英賀が男に接近した。

 気付いた男がFALOを英賀に向けようとした。しかし、慌て過ぎて銃身をパーテーションに当ててしまい、動きがもたつく。

 英賀はP226を男の顔面に向け、至近距離から二連射。

「こんな狭い空間で扱う武器じゃないですよ、これ」

 死体と化した男からFALOと予備弾倉を奪った。残弾が中途半端な弾倉は捨て、新しい弾倉を叩き込む。

「おい、ジェームス?」

 そこへ、別の部屋の捜索から男が戻ってきた。

 英賀は声のした方向を頼りにFALOを撃った。ライフル弾に対し、薄いパーテーションは遮蔽物の役割を果たせるはずもなく、男が蜂の巣になる。

「うわあああ!」

 別の男が声を上げた。どうやら、もう一人いたようだ。絶叫とともに、持っていた銃を撃ってくる。

 だが、弾丸がこちらに届くことはなかった。銃声からして、男が持っていたのは短機関銃だった。不幸なことに、貫通力も弾速もない拳銃弾では、パーテーションを貫いた拍子に弾道が狂ってしまう。

 慌てず、英賀は再度FALOを連射。こちらの弾は貫通してもある程度の威力と速度を保ったまま、男を撃ち倒した。

 ホッと一息吐き、周りを警戒しながら入口に近付く。廊下から銃声が聞こえ、銃口を持ち上げた。

「英賀、無事か?」

「勝連さん!」

 銃口を下げながら、呼び掛ける。やがて、敵から奪ったであろうG3ライフルを構えた勝連が入ってきた。

「これで全員……ではなさそうですよね」

「私だったら、最低でも二班に分ける。一つは揺動する班。もう一つは……」

「本命を襲撃する班、ですね。シュウさんは大丈夫でしょうか?」

 英賀は一人ターゲットの近くに残った雲早くもはやしゅうを案ずる。

 その時、上の階から銃声が響く。

「悪い予感が当たったな。行くぞ!」

 二人は急いで元来た通路を戻った。

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