第3章 逆浪の百矢

第46話

 MDSIの面々が歓迎会で盛り上がっていた頃――

 新潟に残った勝連かつらたけしはある人物の尋問を行っていた。

「さて、お前が何をしでかしたか……分かるな?」

 相手からは反応がない。

だんまりか?」

 勝連が睨みつけても、相手は口を閉ざしたままだ。

「お前が黙っているのは勝手だが、こっちは黙るつもりは毛頭ないぞ。

お前は、金欲しさ、それだけのために、オケアノス号の持ち込んだ麻薬を見て見ぬ振りして持ち込ませた。これが何をもたらすと思う?

 麻薬が出回ることで苦しむ人間もいる。お前は体験したことないだろう……まぁ、私も体験しようとは思わん。少なくても悲惨、の一言で軽々済まないだろうからな」

「俺も体験したくはないね」

 やっと口を開いたと思ったら、まるで他人事の様なことを言う。

「で? いつから防衛省は麻薬撲滅のためにわざわざ高い税金であんたらみたいなのを作ったのかな?」

 勝連は立ち上がり、ヘラヘラと笑みを浮かべる男へ歩を進める。

「もう一つ、教えてやる。オケアノス号の真の持ち主は、中国福建マフィア、黄鱗会だ。奴らは、世界中を騒がしているヨーロッパ系テロリスト、ナインテラーへの資金援助の疑いもある」

 その男の顔に、勝連が拳をねじ込んだ。

「はっきりと言ってやる。お前のやった行為は、立派なテロ行為だ」

 勝連は吐き捨てる。

 部屋の入口にいた職員が、慌てて勝連を止めに入った。



「お疲れさまです」

 聴取室から出た勝連かつらを二人の男達が出迎えた。

 雲早くもはやしゅうが頭を下げる。一八〇センチを越える長身だが、痩せ気味の体型と日本人としては色白な肌から威圧感はそこまで感じられない。

 雲早の隣の英賀あがあつしもそれに倣った。彼は雲早よりも年下で、勇海新に負けず劣らぬ童顔持ちだ。雲早と違ってそこそこ筋肉質なのだが、その若々しい顔が迫力を減少させてしまっている。

 この二人は、普段は北陸支部を担当している。

「どうでしたか?」

「今日もダメだな。一向に口を割らん」

 雲早の問いに、勝連は首を横に振った。

 勝連が尋問していたのは、新潟港で貨物を調べる査察官の一人だ。彼は買収を受け、麻薬の密輸の手引きをしていた。先日、MDSIの手によって貨物船オケアノス号を制圧した。あとは尋問し、背後関係を掴むことだ。

 オケアノス号の乗員の一人に、他の船員とは明らかに違う人種の人間がいた。あまりにも手強く、太刀掛たちかけひとしと死闘が行われた結果、生け捕りにすることが出来なかった。

 諜報部に照合させたところ、その男は中国マフィア応麟会の幹部だった。

「いっそのこと、本部に連れ帰って本格的尋問に切り替えた方がいいんじゃないでしょうか?」

 英賀が提案する。

「本格的尋問、ね。ちなみにやるのは?」

「そりゃあ、諜報部の勇士の方々ですよ」

「……たまに思うけど、アガって穏健派の皮被った過激派だよな」

「どういう意味ですか!」

 英賀が肩を怒らせ、

「その査察官が買収されたとはいえ黄鱗会の麻薬密輸に関わったことはすでに明白なのでしょう? なら、ここぞって時に踏み込んで聞かねば!」

「……などと供述してますが、どうします、勝連さん?」

「まぁ、犯罪者やテロリスト相手なら心痛まんよ。だがな……」

 勝連はなおも渋った。

「大丈夫でしょう。さすがに諜報部の皆さんの手に掛かれば、生かしたまま聞き出せますよ?」

「だから問題なんだろうが、アガ」

 雲早が頭を抱える。

 再度勝連が口を開こうとした時だった。

 施設内の緊急サイレンが鳴り響いた。

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