第43話
外に出た
さて肝心の
「遅かったわね」
「え?」
声のした方を見れば、着物姿の女性に、駿河が組み伏せられていた。背中に回された右腕の関節が極められ、駿河は身動きすらできない。
「
何故こちらに、と続けようとしたところで、
「今日の歓迎会は
と、
「さて……駿河くん、何してるのかしら、貴方は」
「ぐぐぐ……」
「まさか、また『オカマ』って言われて怒ってしまったのですか? それは、自分で認めているようなものですよ? 恥を知りなさい」
「ぐぬぬ……」
(今明らかに禁句言っていたのに、押さえつけられているせいで暴れられないのか……)
それ以前に、暴走していた駿河をどうやって押さえたのか……
ここで、ようやく店内に残っていたMDSIの面々が出てきた。
「あ、美妃さん」
「この騒ぎはなんなのですか? お店に迷惑を掛けてはいけないと伝えたはずですが?」
「も、申し訳ありません!」
意外なことに、たとえ上官でも滅多に口調を変えない
一先ず、この場にいる人間で、先程起きた騒ぎの顛末を話す。
「なるほど、そのようなことが……」
「あの、そろそろ駿河さん放してもいいんじゃないんですかね?」
「あら、そうね」
ようやく駿河が解放された。
そして、美妃は伸びてるヤクザの兄貴分を起こすように命じる。
駿河は兄貴分を起き上がらせると、背中に「フン!」と喝を入れた。
「うーん……」
気絶から回復した兄貴分が唸る。
「はぁい」
駿河が背後から声を掛けると、兄貴分が、
「ひぃぃぃぃぃぃ!」
と逃げ出そうとするが、しっかりと駿河が両肩を掴んでおり、叶わなかった。
「お目覚めで何より」
と、美妃が微笑む――が、その笑顔に恐怖を感じてしまう。
「さて、貴方方が借金を取り立てに来て、この騒ぎになった、と伺いました」
「は、はい、そうですが……」
――さっきまで凄んでいたヤクザの顔はどこにいってしまったのだろうか。完全に、周りの面々に対してビビってしまっている。
「いくらですか?」
「えっ?」
「いくらですか、と聞きました」
「り、利子含めて三百万です……」
「借用書は?」
「こ、ここに」
男が懐から出した紙を見て、美妃は頷くと、小切手を取り出した。さらさらと金額を書き込み、男に渡す。
「これでいいですね?」
「え?」
「ちょっとあんた、金払ったんだから、借用書渡しなさいな」
「は、はいぃっ!」
駿河に凄まれ、男が慌てて借用書と小切手を交換する。
「ちょっと、美妃さん、いいんですか?」
「こうしないと、いつまでも付きまとうのでしょう?」
勇海の問いに答えつつ、
「ただし、もう一度彼女の前に現れた時は……駿河くん、お願いしますね」
「えぇ、その時は存分に」
美妃と駿河が笑い合う。
「ひぃ、わ、分かりました! 二度としません!」
「なら、行ってもいいですよ。あ、お仲間さんも忘れないように」
兄貴分が次々と手下達を起こし、ヤクザ達が蜘蛛の子散らすように逃げていった。
「
「はい」
その後を、
「喜三枝さん、ありがとうございます」
ヤクザ達の姿が見えなくなったところで、明智が美妃に頭を下げる。
「気にする必要はないわ」
「いや、しかし……」
「それより、件の店員さん……
聞きつつ、さっさと店内に入ってしまう。
慌てて明智が店に入ると、
「――というわけなので、さっきの怖い人達が貴女に迷惑かけることはもう無いと思うわ」
「……え?」
すでに事情をヒトミに話し終えたらしい。
ヒトミは一瞬理解出来なかったらしく、キョトンとしている。
明智は何と言葉を掛けようか迷ったところで、
「えぇと、なんだ、よかったな」
と、軽く言って流そうとした。
「えっと、突然のことで何と言えばいいのか……」
「お礼を言えば、いいんじゃないかな」
「あ、ありがとうございます」
明智の言葉を受け、礼を失しているのに気付いたらしい。慌てて礼を言いつつ、
「でも、何故そのような……赤の他人の私のために……」
「ん? まぁ、そこは金持ちの気紛れ、と捉えてもらえればいいわ」
と、ヒトミの疑問にあっさりと美妃は答える。
「でもそこまでしてもらう理由が……」
「今のだけじゃ足りないかしら? なら……敢えて言うなら、彼に花を持たせるため、とでも言っておきましょうか」
そう言い、明智の方を見る。
「え?」
「明智さんの?」
「えぇ。彼は私の秘書兼ガードマンとして、この春に採用したの」
――完全に初耳である。確かに特殊部隊隊員とか言えないけども。
「店主さん、奥の座敷をお借りしてよろしいでしょうか? 渥美さんとお話したいことがありまして」
店長が「いいよ」と言ったので、美妃がヒトミを連れていってしまった。
その間、明智含めた隊員達は「すぐ終わるから飲み直して」との美妃の指示により、元の座敷に戻る。
だが、先程までと違い、馬鹿騒ぎになることはなかった。主賓の明智が、結構な頻度で奥を気にして顔を向けていたからだ。さすがに堂々と奥の座敷を覗く程、肝が据わってはいない。
どれくらいたっただろうか――しばらくして、二人が奥の座敷から戻ってきた。
「明智くん、貴方の携帯を貸してもらえるかしら?」
「え?」
「早くなさい」
「は、はい」
明智が慌てて自分の携帯電話を差し出すと、美妃は勝手に操作し始める。
「これが、明智くんの番号とアドレスよ」
「ちょ、喜三枝さん! 何してるんですか?」
「ん? 貴方の番号を教えているのですが、何か?」
「何かじゃないですよ! 何勝手に教えているんですか!」
「貴方には彼女に選考の連絡を取ってもらうことにしたから、彼女も貴方の知らないとまずいでしょ?」
「……選考?」
「えぇ。聞いたところによると、渥美さんは、もう一か月もしないうちに大学を卒業だけど、仕事が決まってないと聞いたわ。彼女には弊社の就職試験受けてもらうことになったから」
――急過ぎではありませんかね!
明智が絶句している内に、
「これでいいわね。あとは貴女の番号を真(まこと)君の携帯に送ってくれるかしら?」
「は、はい」
「……よし、来たわね。これを登録して、と……じゃ、返しますね」
と、さっさとアドレス交換を済ましてしまってから、明智に携帯を返す。
「ごめんなさいね、忙しい時間帯に」
美妃が店主に詫びを入れると、
「構わないよ。渥美ちゃん、あんなことあったんだ、今日のところは上がりでいいよ」
「いいんですか?」
「あぁ。就職、決まるといいね」
「ありがとうございます!」
と、店長が快く送り出す。
「なら、明智くん、彼女を送ってあげなさい」
「え?」
「さっきの連中がまだ近くにいないとも限らないでしょ? もしいたら、すぐに連絡しなさい。駿河くんを向かわせるから」
「りょ、了解です」
さすがにそれは無いじゃないか、と思いもしたが、もう夜も遅い。女性一人で歩かせるには危ない時間だろう。
ヒトミが帰る準備をし終えた。
「それでは、俺はこれで……すいません、わざわざ歓迎会を開いてもらったのに」
「あぁ、気にすんなって。どうせ別の店で適当に飲み直すだけだ。なんだったら、場所教えるぞ? 来る気があるなら、途中参加でもいい」
「考えておくよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます