リターン・トゥ・きむらや
「……という訳で」
「「「「改めまして、この度はご迷惑をお掛けしました……」」」」
「
イナワシロ特防隊の面々を前に、シーヴァンとカウナとラヴィー、そして猪苗代では新顔である侍女のリースンとコーコが頭を下げる。勿論、ティセリアもお辞儀した。
ティセリアがヴィールツァンドで暴走した一連の事件についての、誠実な謝罪であった。
しかし、今の
「やぁ、もう過ぎたことだし」
「うんうん、もう解決したし」
「お姫ちゃんも元気だし」
「めでたしめでたしってことで!」
真理子と時緒の椎名親子を筆頭に、イナワシロ特防隊の面々は間抜けな笑顔でルーリア人達に手を振った。
その通り、全て解決した。それで良い。
「はぁ……」
シーヴァン達は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で佇み、ティセリアの腹がぐうと鳴った。
基本、ルーリア人は大らかな性格である。しかし、真理子達イナワシロ特防隊の面々は更に上を行っているものだった。
ーー本当の所、ティセリアよりも台風の被害の方が最終的に大きかった。
これが真理子達の心情である。事実、猪苗代町長の麻生は台風からこの方、公共施設の補修作業や点検作業の指揮陣取りでてんやわんやだった。
「ときめくなぁ…!」
そんな中、時緒はそっと、リースンとコーコの侍女装束に目を遣って、感嘆の溜め息を吐く。
「良いなあ…メイド服。ヒラヒラのフリフリ…。ゴシック調なデザインがまた素晴らしいのなんの……!」
芽依子と真琴が着たら、どんなに可愛いだろう。律や佳奈美は似合いそうにない。時緒はそう思った。
「…………」
芽依子は時緒の尻肉を思い切り抓り上げた。
「痛い痛い痛い痛い!?尻が!?尻の肉が取れるゥゥ!!!!」
「…………」
芽依子は頬を膨らませ、時緒の尻を抓り続けた。時緒本人はルーリアの侍女服の可憐さにときめいていただけなのに、芽依子には時緒がリースンとコーコに鼻を伸ばしているように見えたのだ。
「アーーーーーーッ!!」
激痛に耐えきれず、汚い裏声の叫びを上げて、時緒は床へと突っ伏した。
リースンとコーコは、床の上で転がる時緒を奇妙な目で見遣った後、シーヴァンにそっと尋ねる。
「本当にこの方が……エクスレイガの操者なんです?」
「そうだ。このトキオが…ティセリア様をこの地へと導いた
「はぁ……」
シーヴァンはそう力強く頷いて見せた、リースンの時緒に対する疑念の眼差しは消えない。
「なんか……頼りないひと……」
溜め息混じりのコーコの一言に、シーヴァンはただ、苦笑するしかなかった。
「やれば出来る奴なんだ。本当なんだ……」
****
「それで?君達のお城はどうなってるん?」
「それはですね……」
ままどおるを頬張りながら尋ねる真理子に、ラヴィーは通信機上に幾つもの映像を投影させた。側ではリースンが、持参した鞄からティセリアの着替えを出したりしまったりしている。
「ニアル・ヴィールは……全体的な損傷は少ないのですが、運悪く重力制御装置が
「じゃあそれまで君達は……」
ラヴィーと、会議室の隅でコーラを飲んでいたシーヴァンが、揃ってバツの悪い顔をした。
「ティセリア様と我等ティセリア騎士団は一心同体…… 」
「とどのつまり……ティセリア様の敗戦は我々の敗戦……という訳で……」
周りくどい二人の言い方に、真理子は笑いをこらえながら、パチリと指を鳴らした。
「つまり君達も捕虜生活な?」
「「良いですか…!?」」
「良いも何も…、君達たった六人だろ?余裕余裕!城が修復するまでゆっくりしていけや!」
真理子が言って間髪いれずに、シーヴァンとラヴィーは歓喜のハイタッチをする。その横で、リースンは安堵の溜息を一つ吐いた。
「さて、となると……」
真理子は腕を組み、うむむと唸り思考する。
「シーヴァン君達の仮の住処だよなぁ……!」
シーヴァン達を今度はどのように生活させるか、真理子は考える。至極真面目に考える。
「姉さん!何怒ってるのさ!?」
「怒ってません!!」
「いーや怒ってるね!!」
「怒ってま・せ・ん!!時緒くんがルーリア人のメイドさんをやけにキラキラした目で見てたことになんか怒ってません!!」
「そっ…!?それは!!」
「スケベな時緒くんは近付かないで!耳ですっ!」
「ぎゃっ!!」
「目っ!鼻っ!!」
「ぐへぇぇっ!?!?」
廊下から聞こえる時緒と芽依子の声が響いてうるさい。あまりにもうるさいので、真理子は半ば扉を乱暴に開けて、戯れ合う二人を睨んだ。
「うるせぇな!騒ぐんなら外でやれこのぉ!!」
****
数時間後ーー。
「此処さ」
「へぇ…此処ですか……!」
「テンチョー達に上手く頼んでコーコも働けるよう頼んでみる?」
「宜しくお願いします!実は前々から興味津々で……!」
地球人に擬態したラヴィーは、同じく地球人に擬態したコーコを連れて、猪苗代駅前、伊織の生家である【 れすとらん きむらや 】へと到着していた。
折角送別会を開いてくれたのに、また戻ることになるとは……。ラヴィーは少し気恥ずかしさを感じた。
ラヴィーとコーコがきむらやの扉を開けようとした時。
低いエンジン音が近づいて来たので、二人は音の方向を見る。
「あやし〜いひ〜め〜い〜♪だれだ〜♪だれだ〜♪」
伊織だった。
怪奇な大作戦の歌を口ずさみながら、デリバリー用スクーター【 雷電号 】に跨った伊織が、ガレージへと入っていく。
「およ?ラヴィーさんじゃないっすか!」
伊織はラヴィーを視認すると、きむらや のロゴと電話番号が印されたヘルメットを外しながら、満面の笑みを浮かべてラヴィーへと駆け寄った。
「イオリ!ごめんよ!」
顔の前でぱちりと手を合わせ、ラヴィーは伊織に頭を下げる。伊織ははてなと首を傾げた。
「ある程度の顛末はトキオから聞いてると思うけど……」
「大変でしたね……」
「お願い!僕を…僕達をまたここで働かせてくれないかな!?図々しいことだと分かってるけ……」
「いやもう
伊織は笑いながら即答するので、ラヴィーは大分拍子抜けをした。
「親父もお袋も喜びますよ!二人とも、送別会以来ラヴィーさんの話してますから。二時間置きくらいに……」
「そ、そうなんだ……? 」
「ラヴィーさんに【終身名誉バイトリーダー】の称号を授けたいって言ってましたから 」
「 ソ……ソレハ……イラナイカモ…… 」
取り敢えず一安心、ラヴィーは溜め息と共に肩の力を抜く。
また此処で働ける。働きながら、経営の勉強が出来る!ラヴィーの心は高揚した。
「所で……?」
伊織はふと、ラヴィーの背後で顔を覆い、気配を消している少女に目が止まる。
「あれ?そっちの人……もしかしてラヴィーさんの……?」
「ああ、実は……」
「彼女っすか?」
途端にラヴィーは眉を吊り上げる。
「
ラヴィーはきっぱりと断言すると、何故かもじもじと隠れようとするコーコを半ば強引に伊織の前へと引き出した。
「彼女はコーコ・コ・カトリス。ティセリア様の世話をしているルーリアの侍女さ」
「おお!ルーリアの人!!」
新たな
「木村 伊織です!ヨロシクッ!!」
「ひゃっ!?キ、キムッ!?」
突き出されたコーコは暫くあたふたと慌てた動作を繰り返していたが、やがて……笑顔の伊織の手をおずおずと握り締めた。
「コッ…コココココココーコでしゅ!よろっ!よろしゅけおねぎゃいします!イオリしゃま!!」
呂律の回っていない挨拶をしながらコーコは、伊織を見つめる。
「宜しくお願いします……!イオリ様……!」
その瞳は、恋する乙女のみが持ち得る独特の熱気をはらんでいた。
ルーリア人という種族は、得てして、一目惚れをし易い種族なのである……。
****
「もぉ!時緒くんてば!そうならそうと最初から言ってください!はっきり言ってくれれば……私は巫女服だろうがメイド服だろうが喜んで……」
「だ……だから僕は……。いや、僕が悪いのか?何だろう……この遣る瀬ない気持ち……」
嬉しそうな芽依子の声、疲弊した時緒の声が外から聞こえて来る。
イナワシロ特防隊基地の、午後二時。
昼食が終わり、会議室のソファーではティセリアがリースンの膝を枕にして寝息を立て、シーヴァンとカウナはテレビに映し出された高校野球の中継に釘付けになっていた。
「ーーよし 」
シーヴァン達の新たな住処が決まった真理子が、意気揚々と立ち上がる。長い間同じ体勢だった為、背骨が動く度ぼきぼきと鳴った。
ーーすると、真理子の携帯端末が震える。
ディスプレイには【 牧センパイ:ビデオ映像 】と記されていた。
「もしもし、センパイ?」
真理子が端末を起動させるとーー
『やあ真理子!たった今須賀川に帰って来た!!』
「おつかれさん!どうだった?」
立体モニターの向こうで、牧は満面の笑みを浮かべていた。
そして、牧の背後、薄暗い倉庫めいた空間にはーー。
『ーー量産型エクスレイガ……〈エムレイガ〉!先行生産分……無事受領して来たぞ!!』
全身を灰色の装甲、頭部を半円型のバイザーで包んだ三騎の巨人が、静かに起立していた……。
続く
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