第127話 ヨドスの海賊 2
「任せとけ、全部ふっ飛ばしてやるぜ」
友人に電話をかけてきた気軽さで、まるでゲームを楽しんでいるかのように日向は言った。
「待て! やめるんだ!」
「……何言ってるんだ? 相手は海賊だろ、極悪非道のヨドス海賊と言えば、俺たちでも知っている」
「やめてくれ……」
そうとしか言えなかった。
彼らに助けてもらわなければ海賊たちと銃撃戦になっていたとしても、彼らの圧倒的な力で、狩りにでも興じるようなやり方は、止めずにはいられなかった。
「何でだよ? わざわざ、この船を持ってきたのもだな、海賊を退治するためだってのに」
「やめてくれ、彼らも、この大陸に住む人間なんだ……」
「……分かったよ」
日向との通信が途切れ、甲板に走り出ると海賊船は海に投げ出された仲間を救出して逃げ去り、取り残されたマスウードの船の近くに浮かんでいた数人が甲板の上へ引き上げられていた。
アリードは、まだうら若い彼らの面影に少なからず戸惑っていた。周りを取り囲んだ逞しい船員たちの方が、海賊と呼ぶにふさわし見た目であった。
「彼らが、海賊か?……」
「誰が海賊よ! 悪党はそっちでしょ!」
膝を付いて頭の上に手を組んだまま鋭く睨み付けてきた相手が、若い娘だったことにアリードは思わず後ずさる。
「どうします? この辺りの海に放り込んでおけば、仲間が勝手に助けには来るでしょうが」
「それは……」
こんな海の真ん中に放り出されて、生きて帰れるとは思えなかったが、
「俺たちなら、岸まで泳いで帰れますし、こいつらだって溺れたりはしませんよ」
という事らしいが、アリードにはとてもそんな決断は出来なかった。
それに、海賊家業に身をやつした彼女たちに同情する想いもあった。その原因の一つを思い当たらないでもなかったからだ。
「なぜ、海賊なんて真似を? 君たちの船や人数では、うまく行っても被害が出ないなんてことは無いだろう」
「私たちの海を守るためよ! お前たちがごみを捨てて行くから、魚も捕れなくなっていくのよ……」
「ごみ?……」
「どうもそうらしいな」
話を引き継いで答えたのはマスウードだった。
「バロシャムとラシュティエの巡回ルートから外れるこの辺りに、大国連合から処分に困る廃棄物を捨てに来ているっていう噂だ。確かめようも無ければ、漁船くらいしか無いヨドスでは取り締まる事も出来ないからな」
「だから、私たちの手で、この海を守っているのよ!」
「そういう見方も出来るが、俺達まっとうな商人からすれば、ただの海賊でしかない」
「あんな重武装の護衛艦まで付いている船が、まっとうな貨物船のはずが無いわ」
目的を思い出したかのように、元々あまり興味のなさそうな海賊の少女との言い争いを切り上げると、マスウードはアリードに向き直った。
「アリード、あの船はどうする?」
海に落ちた海賊の救助を始めてから、日向たちの乗った船は、かなりの距離をとって停泊したままであった。海賊を助けたからと言って攻撃して来るとは思わないが、よく分からない攻撃手段を持っている船に見張られているのは嫌な気分がするものだ。
「そうだな……」
水平線に浮かぶ豪華な高速艇に目をやったが、彼らが次にどんな行動に出るのか見当もつかなかった。
味方と呼んでいいのかもしれないが、彼らの大きすぎる力は、近づいた者を踏み潰すのではないかと恐れを抱かせるには十分である。それが、アリードに彼らと連絡を取り合う事をためらわせた。
「……いや、ヨドスに向かってくれ」
「ヨドスだって? 何でまた……」
「ヨドスの西の港からなら、陸路で砂の国に入れる」
「彼らを送り届けようってつもりだろうが、いらぬ世話だと思うぜ、それに……」
マスウードは急に声をひそめた。
「ここいらの海賊たちはヨドス政府とつながりがあるって話だ」
「それも、考えての事だ」
「分かった。……アリードに、幸運を!」
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