第104話 死を運ぶ怪物 2
人の目を気にしないで済むように、離れた建物に彼女たちの部屋を用意した事が裏目に出た反省から、アリードの寝起きしている建物の中に二人の部屋を用意すると、廊下に挟まっているドラゴンの救出に取り掛かった。
巨体を無理に押し込んだため、表に出すには壁を壊さねばならず、建物が倒壊してしまわないように作業を進めると、クアトリムが自由の身になれたのは昼過ぎだった。
最終的には、しびれを切らして自力で這い出してきたので、アリードの予定より多く壁が崩れ、補修して使えるようにできるのか疑問なほど無残な姿になっていたが、夜通し動き続けてきた彼にはそこまで考える余裕も無かった。
「俺も寝るかな……」
寝床へと戻って行くクアトリムの後ろ姿を眺めながらアリードはつぶやいたが、そういう訳にもいかず、軽く伸びをするとワフシヤたちの部屋へと向かった。
「アリードだ、起きているか?」
軽くドアを叩くと、直ぐに中から返事が返って来る。
彼女たちもあまり睡眠がとれていなかったはずだが、昨夜の戦闘の緊張からかクアトリムの救出作業をずっと窓の内側から眺めていたのは、アリードにも目についていた。
アリードが部屋に入ると、二人とも深々とフードを下ろして並んで座っていた。二人の向かいに座ると、単刀直入に話を切り出した。
「昨夜の骨の怪物の事をもう一度聞きたい、バロシャムの、君らの仲間にああいう怪物を操れるものはいないんだな?」
「あたりまえよ! 私たちの力は聖なるジンの力、あなたたちのように自然の摂理に背く怪物を使役したりはしないわ!」
「怪物?……クアトリムの事か。あれは……、普段は子供と遊んだりしてるだけだし、見た目はでかいが怪物と呼ぶほど狂暴な生き物では無いんだが……」
「まさか、ありえないわ! あれが、ただの動物だとでも言うの?」
「動物というか……、ラーイカが連れて来たものだし……」
興奮して立ち上がらんばかりのワフシヤが急に押し黙った。布に隠された彼女たちの表情は読み取れず、そこに隠された感情は、恐怖か、怒りか、果たしてどのような物であっただろうか。
だが代わりに、今まで静かに座っていたアスラマが口を開いた。
「……マラーイカ……。まさか、そんな……そんな筈が無い! お前がジャハンナから連れ帰ったのだ!」
「本当だって、大体あの遺跡の階段じゃ狭すぎてクアトリムは通れないし」
「悪しき目を開くのに、どれだけの人間を生贄に捧げて来たのだ!」
「クアトリムは人間を食ったりしないぞ。硬いものなら石でも鉄でも食うが、骨は、どうだろうな? 俺はエサをやった事が無いから、わからないけど」
「……黙れ。……人を惑わすイブリースの眷属め……」
アスラマには、反論も聞き入れてもらえなかった。もっとも、彼女たちの話は、伝承にある精霊や悪魔といった、アリードには抽象的な意味合いでしかない言葉が使われており、それをどう解釈すべきなのか判断しかねていた。
(これも、魔法と言うものなのか? ラーイカなら、彼女たちの話も分かるのだろうか?)
(だが、ラーイカの話も……)
アリードは来夏がシャムについて話してくれたことを思い出していたが、その話は、彼女たちの物よりはるかに複雑で、理解できる部分など少しも無かった気がした。
(まぁいい。バロシャムの刺客でないならば、出来るだけ早く彼女たちを国へ送り返した方がよさそうだな。しかし、なぜ彼女たちが狙われたのか……)
考えるよりも行動だとアリードは頭の中で渦巻く疑念を追い払った。
襲撃者よりこちらが先手を取れれば、そこにどんな思惑があろうとも乗り越えられる。
「数日のうちに、バロシャムに君らを送り届けるため出発する。その心積もりだけしておいてくれ」
少し落ち着けば違った話も聞けるだろうと、バロシャムに帰れるとだけ伝えるとアリードは席を立った。
しかし、その後も姿の見えない襲撃者の捜索や警備の手はずを整えねばならず、彼が休息を取れたのは普段通り夜遅くになってからだった。
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