第72話 切り札 1
ベルの用意した手段、それは何も彼女が一人で用意したのではない。
砂の国の紛争を重く見た、国家間共同体大国連合が、ようやく重い腰を上げたのだった。
「これは、ロボット?……」
一目で、戦うためだけに造られた兵器であると分かる姿に、アシュルは息を飲んだ。
金属のレールに固定され立てられている、それは、両手を広げた人間にも、巨大な口を開いて咆哮を上げる怪物にも見えたが、所々部品が足りていないような隙間がある為だった。
「マジカルバスターアーマー。ロイヤルイグリスと超大国アメルフォドアが共同で開発していた、対魔法戦闘用機動兵器よ。……これには、ジャハンナの技術も利用されているわ」
ベルは唇をきつく閉じた。その言葉と共に込み上げてくる何かを吐き出さないために。
ジャハンナとは。ロイヤルイグリスや大国の集まる、文明と経済の中心からは、遠く離れた、この世界の反対側、未発展の小国が集まる地域に位置する国でありながら、独自の高度な技術を持ち、大国の一つに数えられている。
そのまたの名は、日本……。
砂の国の魔法少女が口にした言葉だった。
「試作型だけど、一般兵士でも魔法戦闘に耐えれるように設計された兵器よ。これに私たちが乗れば……」
ベルの話を研究者らしい格好の男のわざとらしい小さな咳払いが遮った。
「コホンッ……。試作型と言っても量産型に転用できない独自の設計で作られた部分があり、特化した性能は、それらを上回るものですよ。ただし、使いこなせればですが」
「随分失礼ね。私たちなら、このポンコツを完璧に使いこなして見せるわ」
「ふふっ……、期待しています。マジカルバスターアーマーは、搭乗者の神経伝達や魔力の流れを肩代わりし、戦闘中のダメージや肉体の負荷を軽減することが出来、骨格や筋肉の限界を超えた力が発揮できます」
「それだけ? これだけ大げさな機械で腕力が上がるだけ?」
「僅かな衝撃で、壊れてしまう骨格や筋肉では、話になりません。生物の限界を超えたパワーにスピードがあってこそ、そして、あなた方の魔法の力の流れによる体組織の崩壊も、こちらで引き受け、搭乗者は、まさに、思考するだけで、究極の戦闘を行えます」
「ふーん、……それで、強いの?」
「MB-001 TYPE S は、高速機動に特化し、遠距離から中距離の戦闘で、威力を発揮します。MB-002 TYPE F は、関節部の駆動を最適化しているため、近接での戦闘において、その動きに対応できる生物はいないでしょう」
「タイプSは、私向きね」
「アンチマジックコーティングされた外装と、補助シールドで、通常の攻撃は防げますが、リフレクションシールドを展開する事も出来ます。半径3メートルの球体状で外部からのエネルギーを全て散らしてしまうため、その状態で、お互いに接触しないように注意してください」
「ぶつかる訳ないじゃない、何言ってるのよ」
「直線系、波形系、全てのエネルギーを遮断するため、外部からは、視覚、聴覚、何をもってしても認識できなくなるのです」
少し不機嫌な様子で付け加えた。
「攻撃時は、どちらも、通常戦闘モードと、蓄積された魔法力を開放するリバースシステムモードがありますが、これは10分程度の戦闘が限界ですので、その時間で倒しきれる場合のみ使用してください。活動限界を超えると機能が停止しますので」
「何よ、中途半端な機能ね、だから試作品なのよ」
「限界を迎えるかどうかは、搭乗者の能力次第ですよ……」
男は小刻みに肩を震わせていた。笑っているのだろうか?
彼女の位置からは、背を向けている男の顔は見えない。しかし、この兵器がどれほど強力か説明されても、男の不気味な態度にも、アシュルの興味は引かれなかった。
本当に、これで戦えるのか? という疑問しかわいてこない。それほどに、砂の国の魔法少女の力は、異質だったのだ。
ニンツもキシャルも、いつ、どうやって、攻撃されたのか、そして、その効果がいつ現れたのかも、分からなかった。
それは、……彼女が、自分にはどんな攻撃をされたのかという、大きな不安だけを残していた。
長々しい説明に気もそぞろな魔法少女たちを他所に、男は悦に入って説明を続けていた。
「そして、MB-003 グングニル! これこそ、最高傑作と呼ぶにふさわしい!」
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