第31話 『魔法』の持つ力
勝利に酔っていたアリードたちは、神妙な顔つきで、テーブルを囲んでいた。
偵察に出ていた兵士のもたらした、ラドラキアがクルクッカの手によって陥落したという情報の為だった。
彼らが敗北した大都市の攻略をいとも簡単にやってのけた、それは、幾つ小さな都市を落としたところで釣り合うはずもなかった。
「どうやって、あの大都市を落としたんだ……」
「あれだけの都市だぞ……奴ら一体どれだけの勢力になっているんだ?」
「アルシャザードの手から街が解放されたんだ、俺たちにとってもいい事じゃないのか?」
「いや……、奴らが、俺たちの味方であるのか分からんぞ」
「そうだ、もしかすると、奴等とも戦わねばならないのだ」
「もうすぐ次の偵察が返ってくるはずだ、それで、奴らが今後どう出るか分かるはずだ」
疑心暗鬼、まさにそうだった。相手の出方が分からず、不安だけが彼らの中で育っていく。それだけ、彼らの手に入れた物は大きかったのだった。
だが、次の偵察隊がもたらした情報は、彼等の予想をはるかに超えた内容だった。
「大変です……ラドラキアの街が、無くなりました!」
「どういう事だそれはっ! 正確に報告しろ!」
「ですから、言葉通り……、ラドラキアの街が消えてなくなったのです。建物も人も全て跡形もなく……」
「何だと……、何が起こったんだ……」
街が消えてなくなるなど有り得ない、そこに居る誰もがそう思っていたが、彼らは何度も有り得ない物を見て来ていた。この国に突如現れた『魔法』という存在を……。
そんなことが出来るのは、他に考えようもなく、重苦しい沈黙の後、彼らは同じ結論に至っていた。
「街を消し去るなど、あの少女以外に出来る者などいない……」
「まって、ベルがどうして、そんな事をすると思うの?」
黙っていた来夏が、割って入った。彼女はベルが街を消し去ったなど、信じられなかった。そこに住む人たちごと、街を消し去ったなど、信じたくはなかった。
「だが、他に誰がそんな真似をできるというのだ? 彼女なら……、『魔法』を使えば、それぐらいは容易いのだろう……」
それは誰に向けられた言葉だったのか、来夏には答えられなかった。この国の技術水準で、それだけの威力がある物が作れるのかという事より、彼らも結局は『魔法』をそう言う物だと思っていたという事に、言葉を詰まらせていた。
「アルシャザードが、陥落した街を消滅させようとしているのなら、その手段を奪わなければならない。それは、あの少女を倒す事だ」
テーブルを囲んだ全員が、アリードと黙ったままの来夏を見比べていた。
アルシャザードと戦うに当たって、最大の障害となっている金髪の少女を倒す事には頷けても、たった一人で他を圧倒する圧倒的力を持つ少女だ、それを倒すためには来夏の力が必要だった。
彼女が同意するかだけに、皆の関心が集まっていた。
どんな事でも出来る奇跡を起こす『魔法』、人知を超えた力は、彼らの敵を撃ち滅ぼすものでしかない。
この国の人々を守るために、来夏は襲い掛かる敵を撃ち滅ぼす『魔法』を使うだろうが、決してその為の『魔法』だと、考えてほしくはなかった。
使い方を間違っていたのだろうかと、思い悩んでいた。
しかし、これまで一度だって、無意味に使っていたわけではなく、見逃す事が出来ないからこそ、『魔法』を使っていたのだ。使わなければ、さらに後悔しただろう。もっと使うべきだったと、何度も後悔しているのだ……。
だが、その結果、この国に何を残しているのだろうか。
この国の人々の喜びも悲しみも、受け入れることが出来るのだろうかと、心を痛めていた。
その間にも、アリードたちによる話し合いは続いていた。
ベルとどうやって戦うか、遠距離からの砲撃や、地形を生かしての消耗戦、様々な対策を出したが、そのどれもが決定力を欠いていた。
『魔法』による障壁は『魔法』でしか越えられない。
だが、彼らが望んでいる答えを、来夏は答えることが出来なかった。話し合いが終わり皆がその場を離れても、黙ったままそこに座っていた……。
「ラーイカ、遊ぶのです」
「ノルノルの新しい動物を見るのです」
「ラーイカ、元気ないのです」
「ラーイカとくっつくのです」
「ありがとう、イルイル、ノルノル。みんながどうしたらこうやってくっ付けるかなって、考えてたの」
「ぎゅーっとするのです。でも、アリードはくっつかないのです」
「アリードは、よせやい、なのです」
「うん、どうしたら、アリードもくっついてくれるのかしら……」
「アリードも、ほんとは喜んでいるのです」
「ぎゅーっとひっぱると、あとでほめられるのです」
(二人の様に、皆の手をつなぎ合わせられたら、どんなにいいだろう……)
果たしてそんな事が可能なのだろうか?
彼女たちの様に皆の手を一つに合わせるにはどうすべきなのか。
例え目の前に引き合わせたとしても、彼らに理解しえないベルの『魔法』は、恐怖しか生まないだろう。無防備な彼らに彼女が危害を加えないだろうか。
(まず、私が彼女と手を繋がなきゃ……)
ベルと分かり合うために、そのためには、お互いに邪魔が入らないように、二人きりで会わなければならない。どうすれば二人になれるのか、その方法を見つけられなかった。
彼女は呼びかけにも応じてくれない、だが、来夏が彼女の元へ行けば、後ろの居る者を守るため、戦う事を避けられないだろう。
来夏自身がそうであるように、彼女も同じなのだと考えていた。
彼女たちは抱えて飛べるほど軽いのに、守ろうと背負った重みは、押しつぶされてしまいそうな命の重さだった。
(私に背負いきれるのだろうか?)
来夏の想いを遮って、基地から敵襲を告げる警報が鳴り響く。彼女を戦いへと呼び戻す、甲高い音だった。
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