ⅩⅣ 伝説の再現(2)
「え? 誰が妖艶な女のお色気ムンムンのモルガン・ル・フェイですって? まあ、確かにあたしはそんな大人のレディかもしれないけど、あたしは魔女じゃなくて、フランスが誇る華麗なる怪盗マリアンヌよ。憶えておきなさい」
マリアンヌはなぜだかちょっと嬉しそうにそう答えると、壁の上で自慢げに腰に手を当て、それほどにはない胸を強調するように突き出して威張る。
「いや、誰もお色気ムンムンなんて一言も言ってないと思うっすけど……」
騎士達と一緒にそんなマリアンヌの姿を見上げ、本人には聞こえないようにアルフレッドはツッコミを入れる。
「怪盗マリアンヌ……」
また、マクシミリアンから彼女のことを聞いていたジェニファーも、少々驚いた様子でその名を呟いた。
「今夜は予想外のことばかり起こるな……ええい、こうなれば同志達よ! 我らの邪魔をするベイリン卿と妖妃モルガンもともに成敗するのだ!」
他方、立て続けの奇襲からようやく気を取り直したベディヴィエール卿は、そう指示を飛ばすと、外して背に掛けていた兜を被り、戦闘態勢を整える。
「オーッ!」
その号令を聞いた騎士達も各々の兜を被り、改めて鬨の声を上げる。こうして、静寂に包まれていた真夜中のティンタジェル城は、一気に乱戦の場へとその表情を変えた。
「ベイリン卿! 我がダヴィデの剣、返していただきます!」
刃神へ最初に斬りかかって行ったのはガラハッド卿だった。それを見て、パーシヴァル卿、ボールス卿の聖杯騎士仲間も続く。
剣を握るガラハッド卿、ボールス卿に対し、パーシヴァル卿は伝説に即して、今夜は得意とされる
「ハン! 遅えぜ!」
だが、刃神は余裕灼々の様子で、三人の剣と槍を一度に巨大なブロンラヴィンで受け止める。
「やっぱ、てめーらをブチのめすのが先か……にしても、まだガキじゃねえか。もう真夜中だ。ガキはこんなとこで夜遊びしてねえで、とっとと家帰ってお寝んねしてなっ!」
若々しい声からそう判断して小馬鹿にすると、刃神は腕の筋肉に力を込めて一気呵成に三人を押し返す。
「うわっ!」
その〝
「ヒュ~なかなかロックだな、ベイリン卿。だが、これが本物のロックな騎士道だぜっ!」
すると今度は、その後方に控えていたトリスタン卿と、さらにパロミディス卿もサブ・マシンガンを構え、容赦なく刃神目がけ発砲する。
「おっと! 危ねえ……」
しかし、ギン! ギン…! と甲高い音と火花を立てて、夜の闇に弾き飛ばされる弾丸……。
その高速連射される弾を、刃神はヴロンラヴィンを地に突き立てて、その分厚く幅広い鉄板の刀身を盾代わりにして防いでいた。
「そうか。こいつにはこんな使い道もあったか。傷付いちまうのが少々難点だが、なかなか重宝するいい武器だぜ。ああ、そうだ。武器といやあ、こんな
口元に凶悪な笑みを浮かべてそう告げると、刃神は懐から数本の短剣を素早く取り出し、それを敵二人に向かって高速で投げつける。
それは先日、ニール・ストリートの占いグッズ屋で幾つか購入した、あの西洋魔術の
「うがっ…!」
やはり〝
他方、ガウェン卿、ユーウェイン卿、ラモラック卿の三人は、マリアンヌに狙いを定め、彼女との銃撃戦を繰り広げていた。
「くそう! またちょこまかと動きやがって!」
三人がかりでサブ・マシンガン〝MP5〟やショットガン〝ウィンチェスターM1300〟をぶっ放してくる敵に対し、マリアンヌは得意のアクロバティクな動きで彼らを翻弄しながら、周辺に聳え立つ壁の残骸に身を隠して応戦する。
「ほっ…!」
そして時折、壁の影から出てマシン・ピストルを放つと、瞬時にまた別の壁の後へ飛び込むという神出鬼没な攻撃を騎士達に向けて仕掛ける。
「あれ? あの姉ちゃん、どこ行った?」
「なんか、本当に魔女みたいですね」
夜の闇も彼女に味方し、マリアンヌを見失ったラモラック卿とユーウェイン卿はキョロキョロと辺りを兜のスリットから見回して呟く。
「おい! 固まると格好の的になるぞ! 散開して戦え!」
ふと気が付くと、壁に左右を挟まれた場所で固まっている自分達に、ガウェイン卿がそう注意を促すが。
「
次の瞬間、マリアンヌは壁の頂からもう一方の壁の頂へと飛び移るついでに、空中から下方に見える三人に向けて銃弾を雨霰の如く降り注いだ。
「うわあっ!」
拳銃ながらフルバーストで放たれた銃弾の幾つかは咄嗟に身構えた三人の鎧や盾に着弾し、なんとか貫通は免れたものの、その衝撃に彼らは吹き飛ばされる。
「フゥ…派手に撃てるのはいいけど、命中率低いのと弾の消耗の激しいのは困りものね」
そして、まるで軽業師のように宙返りをして壁の背後へと着地すると、マリアンヌはそう嘯きながら、二丁の拳銃の空になったマガジンを抜き落とした――。
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