ⅩⅠ 円卓のカウンセリング(6)

「――なるほど。んじゃあ、あの二人も旦那達と同じように、アーサー王関連の遺跡を調べて回ってるぽかったっつうことっすか? そうか。それで旦那達も知ってたんすね……いや、彼らがサツだったっていう予想は当たってますよ」


「えっ⁉」


「んだと⁉」


 さらっと口にしてくれたアルフレッドのその核心を突く言葉に、マリアンヌと刃神は同時に声を上げる。


「おい、てめー、あいつらに見憶えでもあんのか?」


「いえ、見憶えがあるって言っても、二言、三言交わしただけなんすけどね。実は旧トゥルブ家邸博物館が襲われたあの日、丘城ヒルフォートの遺跡を見学しに来てたんすよ――」


 驚きの声を上げる刃神に、アルフレッドは彼らがICPOとユネスコの協同プロジェクトで来た担当官と、その世話役らしきスコットランド・ヤードの女刑事であることを掻い摘んで述べた。


「――ああ! それで思い出した! たぶんその時、偶然、あたしもあの発掘現場にいたのよ。そっか。やっぱりあたし、前にもあの男を見てたんだ……」


 すると、今度はマリアンヌの方がポンと手を叩いて、得心がいったという声を上げる。


「なるほどな。それなら納得がいくぜ。どうりで、あの騎士野郎どもとマーリン所縁のストーン・ヘンジを結びつけて考えられた訳だ。頭の固えサツどもにしちゃあ、よく気付いたと思ってたんだよ。だがそうなるとだ。なんで、んなICPOが騎士どもを追ってんだ? その道に通じてるってとこで捜査に引っ張り出されたか?」


「ま、そんなとこじゃない? 前日行った場所であんな事件が起きちゃったってのもあるし、その後も幽霊の狩猟やらアーサー王関連の遺跡やらでもいろいろと……あ、そうよ! ベドウィル・トゥルブの話ですっかり忘れてたけど、あなた達、今朝の朝刊の記事見た?」


 刃神に答えたマリアンヌが、ふと何かを思い出したかのように二人に尋ねる。


「おお! それだ! あれだろ? 昨日の晩辺りにダラムやドーストンにあるアーサー王の遺跡が何者かに荒されたっていう。ウェールズのアングルシーでもやられたらしいな。他にストゥのウェデイル聖マリア教会やペンザンスのセント・マイケルズ・マウントにも賊が入ったらしいが、この二つもアーサー王伝説に関係のある場所だ」


 マリアンヌの言葉に刃神も頷くと、確認するようにその記事の内容を口にした。


「らしいわね。しかも、セント・マイケルズ・マウントには円卓の描かれた旗が残されてたようだし、これもヤツらの仕業と見て間違いないわ」


「ああ、俺もその記事見ましたよ。そうなると今度は五ヶ所で同時多発的ってことっすよね? まったく仕事熱心なことで。でも、その遺跡で奴さん達、何かお宝手に入れられたんですかね? ストゥの教会では由緒ある古い布だかが盗まれたらしいっすけど、他の宝物が埋まってる伝説はどうにも嘘臭いんですが」


 その事件のことはアルフレッドも知っていたらしく、感心してるんだか、呆れてるんだかわからないような態度で他の二人を交互に見やる。


「さあな。ヤツらにとっちゃ、アーサー王絡みならそんなことも関係ねえのかもしれねえ……んにしても、ダラムやドーストン、アングルシーなんかには、その前に俺達も行ってたんだがな。チッ! ニアミスだったぜ。もう数日遅くに行ってりゃあ、奴らを取っ捕まえられたってのによう」


「確かに惜しかったけど、今更言っても仕方ないわ。それより、どうするのよ?あの二人がいるんじゃ、顔を知られてるあたしは中に入れないわよ?」


 ギリギリと歯を噛みしめ、苦々しく舌打ちする刃神だったが、マリアンヌはいつになく大人な態度であっさりそう言うと、話題をまたもとに戻した。


「日を改めて来てもいいけど、向こうが捜査目的で潜入してるんなら、それでもいずれ出くわすわ。暗がりで出逢ったあの騎士さん達と違って、あいつらにはお日様の下でまじまじと顔を見られておしゃべりしてるからね」


「そうだな。これじゃ小娘にこの仕事は無理だ。同じく面の割れてる俺もな。となりゃあ、残るは……」


 刃神も今、目の前にある問題に頭を切り替えると、そう言いながらマリアンヌとともにゆっくりアルフレッドの方へ視線を移動させる。


「……えっ⁉ 俺っすか?」


「ああ。さっきの話じゃ、ツラを憶えられるほどに関わっちゃいねえようだからな。俺達の中じゃ一番危険性は低い。ちいとばかし格好を変えりゃあ、充分いけんだろ」


「そうね。それが最良の策ね」


「うーん……急な話で心の準備ができてませんが、ま、そういうことなら致し方ない。あん時はグラサンかけてたから顔はバレてないでしょうし、嘘と芝居は俺の専門分野っすからね。ここは詐欺師の腕前、披露させていただきますよ」


 有無を言わさぬ二人の視線に、アルフレッドはしぶしぶという口調ながらも満更でもない様子で、その変更案を受け入れた。


「そんじゃ、『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』とでもいきますかあ」


「アーサー王のヤンキー? ……何それ?」


 久々の本職とあって、気合を入れるように首をポキポキ鳴らしながら言うアルフレッドの聞き慣れぬ言葉を拾い、マリアンヌが怪訝そうに尋ねる。 


「ああ、マーク・トゥエインの小説っすよ。アダムスの旦那の仕事受けてから参考のために読んだんすけどね。19世紀のコネチカット州ヤンキーがアーサー王の時代に迷い込んで活躍するお話です。なかなかおもしろいんで、もしよかったら読んでみてください」


「なるほどな。アメリカ人ヤンキーのてめえがヤツらんとこ潜り込むのと同じって訳か」


 その説明には、マリアンヌの代りに刃神が納得した様子で頷く。


「ま、そういうことっす。じゃ、俺の成功を祈っててくださいな。運が良けりゃ、あのサツカップルの思惑も掴んできまさあ」


 その通りとばかりにアルフレッドは答えると、ひょいと帽子を抓み上げて二人に挨拶をし、占いグッズ専門店から表の通りへと出て行った。


「さあて、賽は投げられたわよ」


「細工は流々、後は仕上げを御覧じろだ」


 一度、入口のドアの前で手を上げて合図をしてから意気揚々と診療所の中へ入って行く彼の姿を、刃神とマリアンヌはショーウィンドウ越しに見送る……すると、そんな二人の方へ魔女宗ウィッカの魔女のような服装をした若い女性店員がおもむろに近付いて来た。


「あのう、何かお探しものですか? でしたらお手伝いいたしますが?」


 先程から窓際の商品の前で何かごにょごにょと長話をしている彼らに、彼女は勘違いをしたらしい。


「あ、いえ、別にそういう訳じゃ…」


 慌てて前に出した手を振ってマリアンヌはそう否定しようとしたが、刃神は何を思ったか、落ち着いた様子でその申し出に答える。


「そうだな。んじゃあ、せっかくだし、西洋魔術の短剣ダガー魔女宗ウィッカ黒柄短剣アセイミを10本ばかしいただいてこうか。その内、そいつらの役に立つ時が来そうだからな……」

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