ⅩⅣ 伝説の再現(3)

「――ぐあっ!」


 車同士がぶつかったかのようなけたたましい金属音が深夜の静寂の中に木霊する……。


 再び戻ってこちらでは、一瞬、戦意を殺がれたトリスタン卿とパロミデス卿が体勢を立て直そうとするも、刃神はその時間を与えず、素早く距離を詰めると二人まとめてヴロンラヴィンの一閃で薙ぎ倒していた。


「さてと、これでようやく俺のエクスカリバーを……ん? ここにあったお宝の箱はどこいった⁉」


 邪魔者を排し、再び宝の物色を始めようとする刃神だったが、先程まで木箱の置いてあった壁の上を振り返って見ると、どうしたことか何一つ見当たらない。


 そこで、慌てて辺りを見回した刃神の視界の隅に、傍観者を決め込み、まるで他人事のように兜のバイザーも上げたまま突っ立っているアルフレッドの姿がふと映った。


「おい、てめえ! 俺のエクスカリバーはどこいった⁉」


 刃神はそちらへ近付くや、いきなり彼の襟元を引っ摑んで乱暴に尋ねる。


「え⁉ あ、ちょ、ちょっと、落ち着いてくださいよ。お宝ならそこに……あれ、ない?」


 しかし、どうやらアルフレッドも今気付いたらしく、刃神の剣幕に少々ビビリながらも、驚いて周囲に消えた宝の行方を探す。


「……あっ! あそこです! ベドウィルが持ってったんだ!」


 すると、四つの木箱をなんとか抱きかかえ、左手の多少、広くなった場所まで逃れているベディヴィエール卿の姿が彼の目に映った。


 戦闘の隙をついて、いつの間にか回収していたのである。


「あっ! あんの野郎、俺様のエクスカリバーを……」


「大丈夫か! ケイ卿っ!」


 だが、幸か不幸か、アルフレッドのその姿は本当に敵に捕まって脅されている哀れな仲間のように見えたらしく、ベディヴィエール卿へ狙いを定めた刃神に対し、体勢を立て直したガラハッド卿ら聖杯の騎士三人が再び斬りかかった。


「…チッ! クソガキどもが、また邪魔しやがって……」


 和音を醸す三つの金属音……刃神は苦々しそうに舌打ちしつつ、またも若者達の剣をヴロンラヴィンで受け止める。


「フフ、あなたはそこでゆっくりそいつらの遊び相手でもしてなさい。ムシュー・イソノカミ」


 と、その間に、抜け目のないことにもガウェイン卿らの手を逃れたマリアンヌが、ベディヴィエール卿のすぐ近くまで迫っている。


「代わりにお宝はあたしがちゃんといただいてあげるわ!」


 が、宝を守りながらも全体の把握に努めていたベディヴィエール卿は、こちらも目聡くそれを見付け、刃神に受けた攻撃から起き上ろうとしているトリスタン卿とパロミデス卿へ指示を飛ばす。


「こっちだ! 我らが王の宝を守れっ!」


 その声に気付いた二人の騎士は慌てて銃を構えると、今にも宝の木箱を奪おうとしていたマリアンヌ目がけ発砲する。


「きゃっ! ……もう、淑女レディの楽しみを邪魔するなんて最低よ!」


 寸でのところでバック転しながら飛び退き、なんとか蜂の巣にはならずにすんだものの、そのために彼女もお宝から引き離されてしまった。


「妖妃モルガン! アーサー王の宝には指一本触れさせんぞ!」


 目標を外したパロミデス卿は、邪魔されて御機嫌斜めなマリアンヌに続けて銃を乱射する。


「へへへ、そんなら、お宝は俺がお預かりしとくということで……ベディヴィエール卿! 宝は俺が守ります!」


 そのどさくさに紛れ、今度はアルフレッドがベディヴィエール卿に近付き、宝を守る振りをして木箱を受け取ろうとするのだったが。


「よく言ったケイ卿! お前も一緒に王の宝を死守するんだ!」


 同じく駆け寄って来たトリスタン卿に肩を摑まれ、彼もベディヴィエール卿の携えるアーサー王の宝の御前に近衛兵の如く立たされた。


淑女レディにプレゼントくれない最低男どもはこれでも食らいなさい!」


「え? あ、ちょ、ちょっと待っ…うわああぁ!」

 

 逃げる間もなく哀れアルフレッドは、二人の同志とともに御機嫌斜めなマリアンヌの銃撃に晒された――。


 また、その頃、ランスロット卿とジェニファーはというと、混乱に乗じてこの戦いの場から逃れようとしていた。


「さあ、早く逃げるんだ、ジェニファー!」


 復元された城壁のアーチ戸を潜り抜け、ランスロット卿はジェニファーの手を引いて、先程上って来た階段を駆け下りて行く。


「待て! ランスロット卿っ!」


「逃げるなんて、やっぱり卑怯者ですわ!」


 それを見付けたモルドレッド卿とガヘリス卿の二人も、慌てて彼らの後を追いかける。


「あ! 待て! 貴殿らだけでは危険だ! ……くぅ、止むを得ん。我らも反逆者を追いつつ退却だ!」


 さらに彼女達の動きに気付いたベディヴィエール卿は騎士達に号令を発する。


「トリスタン卿、パロミデス卿、それにユーウェイン卿は、宝の箱を持って私とともに先へ参れ! その他の者は敵の足止めだ! 急げ!」


「ラジャー!」


「はい!」


 その素早い判断と指示に敵と交戦中だった騎士達もすぐに行動を起こした。

 

「勝負はお預けだ! モルガン・ル・フェイ!」


「きゃっ…!」


 ガウェイン卿の放った牽制の銃弾でマリアンヌが怯むと、ベディヴィエール卿を先頭に、それぞれ王冠、王笏、宝珠の木箱を持つトリスタン卿、パロミデス卿、ユーウェイン卿は階段へ向かって一斉に走り出す。


「あ、ちょっと! 逃げてもいいからそれ置いてきなさ…はぅっ!」


 追いかけようとしたマリアンヌだが、そこへまたもガウェイン卿、ラモラック卿がサブ・マシンガンを発砲し、咄嗟に飛び退けるも再び道を阻まれる。


「おい! 何をボケっと突っ立ってんだ!」


「とっとと逃げるぜ! ケイ卿!」


 そして、銃弾の跡痛々しい鎧姿で立ち尽くすアルフレッドに声をかけ、彼らも階段の方へと駆けて行く。


「え? あ、は、はい!」


 突然のことにアルフレッドも、なんとなく彼らについて逃げることにした――。




「おいコラッ! 待ちやがれ! どこ行くつもりだ!」


「ベイリン卿! あなたの相手は私達です!」


 同じく騎士達の後を追おうとした刃神だったが、彼の前にはガラハッド卿、パーシヴァル卿、ボールス卿の若手三騎士がなおも立ちはだかる。


「そこをどきやがれっ! 用があるのはてめーらじゃねえっ!」


「いいえ、こちらには用があります! いい加減、私のダヴィデの剣を返しなさい!」


 問答無用とばかりに、足を止めた刃神にガラハッド卿が正面から斬りかかる。


「ベイリン卿! 俺は負けないっす!」


「申し訳ないですが、あなたにエクスカリバーは渡しませんよ!」

 

 なんなく受け止める刃神だが、続けてパーシヴァル卿とボールス卿も、側面二方向から槍と剣で交互に斬りつける。


「うるせえ! ダヴィデの剣もエクスカリバーも俺のもんだ! 誰がてめーらなんかにくれてやるかよ!」


 虻蚊の如く纏わりついてくる三騎士の刃を、その剣と呼ぶにはあまりにも巨大で重いヴロンラヴィンを器用に振り回して払い退けながら、刃神も階段の方へと急いだ――。

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