第16話 本人来ないってどうよ…

「桜雪クン…参ったよ、F部長に言われたコレ…夏休み前に終わらないよ…」

「N主査…俺も手伝いますから、これ以上F部長を怒らせないでください」

「彼はさ~あんな短気だったかな~、入社の頃から知ってるけど、あんな短気じゃなかったんだけどな~」

「N主査、あなたがF部長を変えたんですよ…」

「あ~、確かに僕が育てたとも言えるよね」

「そういう意味じゃ…ポジティブですね、N主査…」

「取り柄だよね、ソコは」


「桜雪係長…ちょっと…」

「なんでしょうか?F部長」

「アレ大丈夫なの?、不得手分野でしょうから…私がフォローします。休日出勤の許可だけお願いします」

「それはいいけど…N主査が自分でやんないとさ~示しってあるからさ~」

「今さら、どうでもいいと判断してるよ…僕は…」

「まぁ、頼むわ…悪ぃけど…」

 F部長は砕けた性格で、割と、こんな関係性だった。


 そんなわけで、連日の深夜残業を経て…夏休み3日間の休日出勤初日…。

 僕は、通常通り出勤した。

 F部長は自分の仕事もあったので、10時過ぎに出勤…。

 N主査…14時回っても来ない…。


「アイツ…どうしたの桜雪…」

「いや…知らん…」

「電話した?」

「いや…怖いのでしてない…」


「お疲れで~す」

 僕の後輩が顔を出した。

 魚釣りの帰り、上機嫌で寄ったのだ。

「オマエ…手ぶらかよ…」

「余ったジュースくらいしか…」

「魚臭ぇジュースなんていらねぇ…」

「N主査は?今日、ソレで来てんでしょ?」

「来てねェよ…アイツ…」

「あ~帰ったのかな?実家に」

「はぁ?」

「いや…昨日ね、深夜バスの予約してたから…」

「はいっ?」


 僕は電話した…。

「N主査?今ドコ?…浅草?」

「貸せ!! Fだけど、なにしてんの?桜雪に全部やらせる気なの?」


「僕、思ったんだけどさ~僕とやるより、彼一人のほうが遥かに早いよ、絶対に、で、一番いい方法を考えるとさ、僕がやらない事って思うんだ、だから…昨日深夜バス、うん、予約取れたんだよ、ラッキーだったね~」


 3人で絶句した…夏の夕暮れ…。

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