第109話 手記(2)
レンツォは振り返って通路に目を凝らした。
足音を聞いたような気がしたのだが、誰もいない。ジャンニの徒弟らしい若者はまだ同じところに倒れている。
「ミケーレ?」
大声で呼んだが、どこからも返事はなかった。農夫は一体どこに行ったのか。人を呼んでくると言っていたのではなかったか。それにしては時間がかかりすぎている。
立てかけておいた銃に手が伸びた。
もう誰も信じるな。
いつでも相手に向けられるように構えた。火器を扱ったことはないが、その銃身の重さが今は頼りだ。
「銃を持ってる。隠れてるなら出てこい」
小さな明かりしかない闇の中で、自分の声はやけに大きく響いた。
誰があの手記を書いたのか。ラーポ――ジャンニの推測が正しければ本当の名前はレオナルドだが、彼と関連の深い人間なのは確かだ。
「ミケーレ、お前か? これは全部お前がやったことか? レオナルドを知ってるのか? 彼に手を貸して復讐を遂げさせてやったのか?」
もしそうなら殺す。
ジャンニとの約束は頭から消し飛んでいた。
殺してやる。
大聖堂から逃げたあの男がこの場所にいるなら、今決着をつけてやる。ここで何があったのか、何をやったのか、腕ずくで喋らせてから殺す。
通路に足を踏み入れた時、曲がり角から男が現れた。作男のブルーノだった。レンツォは冷や汗をかいた。危うく引き金を引く体勢になるところだった。
「ミケーレはどこに行った?」
農夫は両手を前に上げ、恐怖のまなこで銃口を見つめている。
「お、お、おれは何も……」
「どうして降りてきた。見張ってろと言っただろ! お前の雇い主はどこだ?」
「あの、う、上です。旦那を呼んでます。話したいことがあるって言ってます」
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