第49話囚われた芸人編⑩

オッサンが僕をそれで逃がしてくれるわけがなかった。


着信拒否にしても、何度もかけてくるし、ブロックしたFacebook以外にも、TwitterやInstagramのメッセージから送ってくる。


「おさむちゃん!一体何があったの?商店会のみんな心配してるし、連絡して。」


何が商店会のみんな、だ!たくさんの組織のフリをするな!

そしてさらに放置しておくと、とうとう本性を見せた。


「原田様、あなたにかかった諸経費等、損害賠償請求するしか連絡とれる方法がありません。どのようにして裁判を起こすか、商店会のみんなで相談中です。」


脅し。とうとうオッサンの本性がメールになって現れる。なんの経費だ?

ほとんど僕のおごりで⚫県に行ったし?

頭おかしいんじゃないか?

それでも放置してると、次は、


「なお、あなたがこちらに無理やり売り付けた本は、全額払い戻しをお願いいたします。」


プツン!

久しぶりに殺意を覚えた。

俺が売り付けた?まるでインチキの金ののべぼうみたいに言いやがって!

1188円の本を定価で買ってもらうのに、どれだけの自腹で交通費や色紙やサインをしたと思ってるんだ!

こいつだけは、こいつだけは許さん!


すぐに着信拒否を解除して、電話した。


「もしもし!おさむちゃーん!心配しててん!」


「損害賠償請求ってなんなんですか?なんの金額ですねん?」


「知らん!俺はなんも言ってないねんけど、カラオケバーの店長がな。連れて行った居酒屋や、ギャラや、ライターの経費どないしてくれんねん!って言うてるねん。」


「はあ?」


最低だ!人のせいかよ!

連れて行ってもらった居酒屋にはあんたも行って飲み食いしただろうが?

ギャラは一晩八時間徹夜で勤務したアルバイト代だ!

ライターはお店が宣伝のために作らせてくれって言ったし、それをほとんど⚫県で自慢気にバラまいたのは、オッサンだろうが!!


「カラオケバーの店長がな、言うてきててわしは、何も言うてないねん。ずっと心配しててん。」


「・・・会いましょうか?会って話をしましょう」


「よかった!おさむちゃん!」


「預けてる本10冊、必ず持って来て下さい!」


損害賠償の話じゃない。

そんなもんは払うつもりない。

このオッサンに預けた、本10冊!

取り返すためだ。

このオッサンに預けてたら、何に使われるかわかったもんじゃない。

自慢気にキャバクラの女に渡して、写真だけ撮らせてる風景が目浮かぶ。


もう会うのは危険だ。

だけど、金はもうこれ以上絶対払わんし。

俺の本はこんな奴に触ってもらいたくない。


それを取り戻すために、唇をかんで、もう一度オッサンに会いにいく!

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