第39話砂漠の水編⑬

次の日、店に出勤した。

間違いなく、班長にぶっ飛ばされる覚悟をしていた。

それだけの事をした。

社員寮での大立ち回り。女の子の夜逃げの手伝い。ぶっ飛ばされない訳がなかった。


出勤して、班長と目が合った。

しかし、すぐに班長が目を逸らす。

なんだ?これは?何かがおかしい。


しばらくすると、見たことのない背広を着た人がお店の中に入ってきた。

ズラズラと。そして班長を連れて行った。


訳がわからず、同僚の社員に聞いた。

「班長、何かあったのか?」

「あんな、班長な、社員寮に女連れ込んでたらしいねん。」

「はあ?」

「しかも、その女、昔のうちの従業員で、班長の寮の部屋で半同棲してたらしいねん。」

「えーーっ!!」


班長は、社員寮で女と半同棲していたのか!

だから昨日!すぐに部屋を飛び出して追っかけて来れなかったのか!別の女が部屋にいたのだ。

「なんで班長の半同棲がバレたんや?」

「昨日女子寮の女の子が逃げてな。それで店長が寮全員の部屋の抜き打ちチェックしたんや。そしたら、バレたんや。」

なんと!あの騒ぎが、逆に班長の悪事を暴くきっかけになったのだ!


数日後、責任を問われた班長は社員寮を退出させられた。

その後の抜き打ちチェックで、その他の男性社員の素行の悪さも判明した。

男性社員寮からは全員退出させられた。

そして、男性社員寮は廃止になり、女子社員寮だけが存続される事となった・・・


数ヶ月後、またうちの店に新入の女の子が入社してきた。

「原田、指導頼んだぞ!」

「はい。ほな、行こうか!」

僕はその子の指導を任される事となった。

「私、田舎から出てきたばかりで、パチンコも全然わからないんです。」

「みんなそうやで。みんなそうやったから、なんも心配いらんで!」

前任者の恥をしっかりと身に刻み込んで、女の子の指導にあたった・・・・


それから何年もの月日が流れ、

僕もその事件を忘れかけていた頃。

僕の携帯にメールが届いた。

あの時、女子寮から駆け落ちしかけた女の子からだった。


「原田さん元気ですか?私はあれから田舎に帰り、色んな仕事を転々としました。やはりどんな仕事も大変で、あの時逃げた事も少し後悔しています。今日メールしたのは、昨日原田さんがテレビに出ていたからです。あっ!この人知ってる!ってみんなに自慢しちゃいました。

あの時、私が新幹線に引きずり込んでいたら、原田さんがテレビに出る事はなかったと思います。原田さんはきちんと自分で道を切り開いたのですね。あの時の事、今でも覚えていますよ。今後のご活躍を応援しております。

追伸、私は現在二児の母親になりました。」


そう。たまたま出たテレビ番組を見てくれていたのだ。そして覚えていてくれたのだ。

人はどこかで必ず繋がっている。

長い長い人生で、また出会う時があるかもしれない。

誰に会っても、俺、一生懸命生きてるよ!

そんな風に胸をはれる人間でいたい。


芸人は結果が全てだけれど。

こうして感謝のメールを頂ける事も、結果の一つではないのかな?


今回のエピソードは、最後の最後のこのメールで全て楽しい思い出に変わりました。

今でも、たまに思い出す笑い話の一つです。


でも、やっぱり、あの班長は、クソだな!

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