第31話砂漠の水編⑤
それからしばらく経って、女の子の指導をしていた班長がお休みの日。
僕はその女の子と休憩が一緒になった。
やっとである。やっと入社して初めてその女の子と会話したのである。
「どう?最近、仕事慣れてきた。」
「・・・・」
「どうしたん?しんどいの?」
「・・・・・もう、辞めたいです。」
「・・・・えっ?」
すると目の前で女の子が、ポロポロと涙を流して泣き始めるではないか!!
「ちょっと、ちょっと、どないしたん?」
「私もう、私もう、辞めたいんです!」
「ちょっと、終わってから話しよう!仕事終わってから!」
あわてて涙を拭かせる。
その日の仕事終了後、その女の子と喫茶店でコーヒーを飲みながら話を聞く事にする。
「どないしたんや?班長にしつこくされてるのか?」
そんな事だろうと思い、話し掛けてみた。
しかし、僕の予想は遥かに超えていた。
「あの日、私の歓迎会のあと、班長の部屋にまで行ったんです。飲みなおそうって・・・」
「え、それで?」
「私も酔ってて、そのまま班長に・・・」
「えっ?えっ?もう、その日に??」
僕は絶句した。
入社してその日の歓迎会終了後、その日のうちに班長に本当に手を出されていたのだ。
「私もどうかしてたんです。田舎から出てきたばかりで、酔ってて・・・」
「いや、まあ、それは・・・・」
「それで、隣の店の班長の部屋に助けを求めたんです。」
「はあ?なんで?」
「だって、困った事があったら、何でも俺に言ってこいって・・・」
「・・・それで?」
「・・・それで、隣の店の班長の部屋で飲みなおして、話を聞いてもらってるうちに、その・・・・」
「・・・えっ?」
「隣の班長にも、・・・・お前が好きや!みたいになって、・・・・そのまま・・・」
「・・・・そのままって?」
「・・・押し倒されて・・・」
「もういいよ!それ以上聞きたくない。聞かなくてもわかるよ。」
女の子の話は僕の想像と予想を遥かに越えていた。
入社したその日のうちに、その日の歓迎会のあと、早くも二人の班長に手を出されていたのである。
自店の班長は自分の部屋に連れ込んで手を出し、
それに衝撃を受けて、助けをもとめた隣の店の班長にまで、弱みにつけ込まれ、手を出され、
1日にして二人の鬼畜の班長の手に落ちていたのである!
「最悪やな・・・」
さらに女の子が続ける。
「しかも!知ってます?あの班長二人とも、ちゃんと彼女いてるんですよ!」
「はあ????」
「しかも、その班長の彼女が二人とも、元従業員だってこと!!」
「えーーーっ!!!???」
「今まで散々女の従業員に手を出して、彼女がいるにも関わらず、私に言い寄ってきたんですよ!」
そりゃ、うちの店から女性スタッフがいなくなるわけだ。
片っ端から手を出されていたのだ。
「もう、あの二人の班長の顔も見たくないんです。あれからずっと顔も見たくないのに、常に毎日一緒の職場で、寮も一緒だし、避けることもできないんです。」
そう言って彼女は自分の携帯を見せてきた。
その着信履歴!
うちの店の班長と、隣の店の班長で埋め尽くされていた。
「毎日、電話あるんです!今日暇か?とか、今、出てこれる?とか。」
見ると班長が勤務時間中であるにも関わらず、その時間帯に班長から着信がある。
班長はたまにホールから姿を消す時があった。
その時間中に、彼女に電話をかけていたのだ。
「私はもう、会いたくもない!距離を置きたいし!見たくもないんです。なのに、一度あんな事があったからって、軽い女だと思われてるんです!」
「そりゃ、まあ」
いくら酒に酔ってたとはいえ、1日で自分たちになびいた女だからと、班長達がしつこく言い寄っているのだ。
これは、彼女にも隙があったとしか言いようがない。
一度餌を与えた獣が、また次なる餌を狙っているのだ。
「本当に、最低です!こんなとこ、1日も早く辞めたいです!」
「そうやな・・・」
「でも田舎から出てきたばかりで、お金なくて、住むところもなくて。それで今のパチンコ店に・・・」
そうだろう。寮付きのパチンコ店に入社してきたのだから、そういう事情があるのだろう。
さてさて。困ったものだ。
困った話を聞いてしまった。
「どうすればいいんですか?原田さん!」
初めてその女の子と会話して、鬼畜の班長達の愚行を聞かされた。
・・・・聞くんじゃなかった。
そう思った。
でも、何とかしてやらねば。そう思ってもいたのだ・・・・
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