8/14 サバサンド
この国の人間の悪い点は、『青魚は和食にしか使われない』という固定概念に囚われている所である。
青魚とは鰯、鯵、鯖、秋刀魚のような背が青い魚の総称であり、寿司ネタに使う際は光り物と呼ばれる。
この青魚、実は鮮度が落ちやすい物が多く、刺身で食べるのにあまり向いていないため干物や煮物にされる事が多い。
そのため、大半の人間は青魚を和食として調理された姿しか見たことが無く、和食以外では使われない魚だと思っている場合が多い。
だが、この青魚はほぼ全てが海産物であり、海は世界中にある。
それならば青魚がこの国以外でも漁獲されるのは当然であり、その調理法も勿論確立されている。
有名なのはオイルサーディンだ。
サーディンとは鰯などの鰊の仲間の中で小さい魚の総称の事であり、それの頭と内臓を取り除いてから塩水に浸け、低温のオリーブオイルで煮た物をオイルサーディンと呼ぶ。
これは保存食として考案されたもので、このまま調理せずに食べられるので缶詰として販売されている。
これをパスタの具にしたり、パンに挟んだり、サラダに乗せたりして食べるのだ。塩味が強いので他に調味料を使わなくとも良い。
このように青魚はこの国以外でも食べられているのであり、和食以外で青魚を使うのは何らおかしい事ではない。
だと言うのに、私が『焼いた鯖をフランスパンに挟んで食べると美味い』と言うと、決まってこの国の人間は私を頭のおかしい人間を見るかのような目で見つめる。
実際にサバサンドを食べさせるとパンに挟んだ鯖が美味い事を納得してくれるのだが、今のところ100%で変な顔をされる。
もう少し、青魚を使った料理の可能性を信じてもらいたい。
サバサンドは焼いた鯖をパンに挟むだけで良いのだが、少しの手間を加えると格段に美味くなる。
まず、鯖は焼くと肉汁が逃げ出してしまうので、塩釜焼にするか小麦粉を付けてフライにすると良い。
そして、フランスパンは表面よりも二つに切った断面の部分を軽く炙る。そうしてからバターを塗る事で断面が具の水分を吸わずにいつまでもサクッとした歯ごたえを楽しめる。
具は酢漬けにした玉葱と、輪切りのトマトと、バジルの葉っぱだ。バジルが無ければ大場でも良い。好みで酢漬けのオリーブや輪切りのレモンを挟むと良いだろう。
味付けは塩とレモン汁だけでも良いのだが、チリソースや粒マスタードで刺激を加えると味の広がりが出る。
後はこれ等を挟んでお終いだ。
難しい事はせずに簡素にするのが良い。青魚はそのままで十分美味い。
又、少々変わったサバサンドとして、酢で締めた鯖を使う締め鯖サンドという物もある。
締め鯖をパンで食べる事は違和感を強く持つかもしれないが、そもそも酢漬けも世界的にある調理法であり、締め鯖は要は鯖のピクルスだ。パンに挟んでも何も問題はない。
特に締め鯖はバターと相性が良く、焼いた鯖のサバサンドよりも締め鯖サンドのほうが気に入る者のほうが多いのではないかと思う。
と、折角サバサンドについて説明したのに、まーた私を頭のおかしい人間を見るかのような目で見つめているな?
いいか?鯖は世界的に食べられている魚であり、米よりも小麦粉を主食とする国のほうが多いのだぞ?
ならば、鯖とパンの相性が悪いはずがないだろう?
分かったか?分かったよな?
よし、それならば青魚は和食でしか食べないだろうという固定概念は捨てて、私の説明したサバサンドを食べてみるのだ。
ちゃんと美味いぞ、嘘ではない。
騙されたと思って一度試してみるが良い。その美味さに驚くはずだ。
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