第1387話「もうこの漫画家一人でいいんじゃないかな」

午後十一時の〆切直前の漫画家の精神。

現実改変能力が現れた。

漫画家は最高のネタ(一般人が想定する作品における重要部分を指す言葉。人に笑いを起こさせる事物や行動、要素を指す場合もある)を描ける幸福よりもずっと強い後悔に襲われていた。確かにこのネタを描いてしまえば大抵の読者に驚愕と感動とエモを与えられるのだが、しかし、このネタに必須とも言える伏線部分を読み直してみると張り方が上手くいっていないことに気付いてしまった。これではやたらと考察するのが好きな一部の読者、そして誰より漫画家自身が導線不足を納得できない。漫画家は〆切直前まで悩み続けた。一応、原稿はできている。だが、編集に渡す覚悟が決められない。後悔と葛藤と漫画家としての矜持により彼の精神は覚醒し、現実改変能力が発動、必須の伏線がちゃんと張られている状態に変化した。

そこにいきなり長いレールガンを持った女子高生がやってきて、とにかくすごい攻撃で現実改変能力の危険性を伝え、能力を消失させようとしたが、漫画の展開があまりにエモかったので存在しないはずの心が震えてレールガンの狙いがブレた結果漫画家の肉体に攻撃が直撃し、漫画家の人間らしさが消失した。

睡眠が不要になり、最高の漫画が無限に出力されるようになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る