第5話

雪美は携帯をポケットにしまい、再びレンガの家に戻ってきた。


「どう?晴子。何か他に情報掴んだ?」


窓の隙間から会話を盗み聞き中の晴子に聞いてみた。


「ううん、別に大したことは話してないわ。でもあの二人、かなり仲良しみたいね。恋人っていうよりは、なんだか幼なじみみたい」


「ひょっとして、幼なじみなのかもね。でもだからって恋人同士じゃないとは言いきれないよ。幼なじみ同士でも恋が芽生えることだってあるからね」


得々と語る雪美。というのも、雪美は幼なじみの男子と交際経験があるからだ。ちなみに晴子もそれを知っている。


「でも」と晴子が何の気なしに口を開いた。


「あんた達、付き合って一週間で別れたんでしょ」


「・・・・・」


雪美は無言でうなだれた。


追い討ちをかけるように晴子は言った。


「あんたって、ほんと続かない女ね〜。だいたい、男を平気でコロコロ変えすぎなのよ。それに、男を見る目もないわね。いい?男は顔や地位なんかで選んじゃダメ。大事なのはハートよ」


彼氏いない歴=年齢の晴子にだけは言われたくないセリフであった。


「ねぇ、それより」


話題を変えようと、雪美は先ほど葵と電話で話した内容を彼女に話して聞かせた。


「ええ?今何て?」


晴子は少々面食らっているようである。


「だから、さんちゃんをぶん殴りに行くって約束したの」


雪美はもう一度繰り返した。


「ダメよ、そんなの!傷害罪で訴えられるわよ」


晴子は大反対し、必死で雪美を止めようとした。


「それに、まださんちゃんが浮気してるとは限らないじゃない。ねぇ、お願いだから考え直して」


「やだ!四万円欲しいもん!」


金に目の眩んだ雪美には何を言っても無駄のようだ。


「よ…四万円ですって?!なによ、それ!ずっる〜い!!」


晴子はハンカチを噛んで悔しがった。


「あっ、何か聞こえるよ」


雪美は窓の方を顎でしゃくった。

今度は話声だけではなく、なにやら喘ぎ声のようなものも混じっている。


「あぁ〜!いいわぁ、そこそこ…。あん!ダメダメ、そこはダメよ…」


雪美は我慢できずに窓から顔を覗かせようとした。が、すぐに晴子に止められてしまった。


「バカ、見つかるわよ!」


「だって、何してるのか気になるんだもん」


「あんたも鈍いわね〜!二人は今、してるのよ!」


そう言ったとたんに、今度はさんちゃんの荒い息遣いが聞こえてきた。


「やっぱりさんちゃん、サイテーの浮気者だ!」


雪美は正気を失い、ついに家の中へと押し入った。


「この、浮気者ー!!」


が、家に入って目の前の光景を見た雪美はハッとして立ちすくんだ。

女の人はロッキングチェアに座ったまま、呆然と雪美を見つめている。

さんちゃんは彼女の後ろに立ち、懸命にその肩をもみほぐしていた。勿論、二人共衣服はしっかりと身につけている。


「なんなの、あんた?」


女の人に睨みつけられ、雪美はもじもじしながら言い訳した。


「あ…あのう、私―――さんちゃんの浮気調査してて…」


「はぁ?」


女の人はさんちゃんと顔を見合わせ、それから雪美に向き直って、


「あたし達、姉弟なんだけど?」


と不機嫌そうに眉を寄せた。


「ええ?!」


ちょうどその時、雪美を心配した晴子が家に入って来た。


「すみません、勝手に入ってきちゃって。すぐ出ていきますんで〜」


雪美達は苦笑いを浮かべながら慌ただしく家を出て行った。


―――END―――


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ストーカー大作戦! オブリガート @maplekasutera

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