エピローグその3
スパイクにとって必殺になる筈だったドリスの1撃は、突然横から伸びて来たスパイクとは別の
半ば転がるようにして距離を取るスパイクに更に追い縋りたいドリスであったが、マックスの鉤爪がそれを阻むように振るわれたので、彼女も下がって体勢を立て直した。
「もしも~し、スパイクく~ん? 選手交代ならいつでもどうぞ~?」
「うるっせーな、お前はよー。ちょっとメスゴリラちゃんの思い出作りを手伝ってやってんだよっ! いいから黙って見てろ」
「えぇ? もしかしてこんな事で切れてんのお前。あれっ? ちょっと待ってスパイク君……顔真っ赤だよ? 熱でもあるの? 大丈夫? 僕の
「あぁ? 先にお前の
「地獄に落とすぜフォーメーション?」
「素敵な来世にインビテーション?」
「「ウエェェェ~~イッ!!」」
ついさっき死にかけて、殺されかけた相手を前にしてハイタッチまでしながら喜びを表現する2人に、ドリスの方こそがそろそろ苛立ちの限界に達しようとしていた。
(いちいち人を煽るような言動をする2人組ねっ)
激しく疲労を覚えたのは。肉体かそれとも感情の方か。ドリスはそのどちらをも整えるように大きく息を吐いた。両手で持つ大剣を何度か握り直し、再び間合いを詰めるタイミングを見計らいながらジリジリと近づいていく。
「このタレンズィーガ―の一発ネタだったのによ。まぁバレちまったのはしゃーねぇーから、次は俺の方からイカせて貰うぜっ」
先に動いたのはスパイクの方だった。再びタレンズィーガ―を
ドリスの大剣型装具、ギガントオウガは攻勢に回るとほぼ同じモーションから重い1撃と軽い1撃を使い分けて、相手の反撃に選択を迫る使い勝手のいい装具だ。相手が大剣を受け止めようとするならば重い1撃で潰し、相手が大剣を受け流そうとするならば軽い1撃で透かす。そうして戦いの中で、有利を取り続けていくのである。
その特性を理解したスパイクは、まともに相対するに厄介だと判断して、先んじて攻勢に回る事によって有利を取ろうとしたのだ。守勢に回らせれば、重くても軽くても変わるまいと答えを出した彼の判断は確かに1つの正解を得ており、次々と繰り出される鉤爪に対して、ドリスは暫くの間、防戦一方であった。
だが、ドリスの大剣に今までこういった対処をしてきた相手が、スパイクだけな筈がない。彼女は涼しい顔でスパイクの猛攻を受け流して一瞬のスキを見出し、間合いを離しながら大剣を片手に持ち替え、スパイクの太ももを切りつける。
大剣のリーチと片手剣のような鋭さを宿した反撃に、スパイクは間合いを詰める手段を持たず2人の攻防は再びドリスの間合いへと変化する。
(くそったれっ!!)
スパイクは内心で吐き捨てながら、自らも少し後退して大剣の間合いから離れると再び理力解放。残りの鉤爪の全てをドリスの下半身に向けて射出させた。間合いを離した理由は1つ。ドリスの大剣の間合いで爪を放てば、ドリスが大剣を使わずに回避した場合に、爪という防御手段がない状態で反撃をうけるリスクが伴うが、間合い外からならば、ドリスが反撃に転身する間に爪の補充が出来るからである。
しかし、それだけ間合いを離すという行為は、スパイクの攻撃手段を鉤爪の射出1つに限定させた。攻撃が限定された上で、その軌道も丸見え。そんな状態でドリスの防御を崩せる訳もなく、あえなく全ての鉤爪が大剣によって打ち落とされる。
だが、今のスパイクにとっては大剣が一時的に下がるという一点だけが重要だった。理力解放と同時に走り出していたスパイクは、真っすぐドリスへとは向かわず、三角飛びの要領で横の壁を蹴って飛び上がりながら靴型装具ハイフリューゲルを理力解放させて、そのまま飛び膝蹴りとしてドリスに上から強襲を掛ける。
ドリスが大剣を本来通りに上段、もしくは中段に構えていればいくら意表を突かれたとはいえスパイクを切り落とせていただろうが、今は発射された爪から身を守る為に下段に構えた状態だった。
切り上げるのに間に合わないと判断したドリスはやむなくスパイクをくぐるようにして攻撃を回避する。それと同時に大剣を両手に持ちながら踵を返してスパイクへと追い
振り返った時、当然ながらスパイクは着地で隙だらけの背中を晒していた。スパイクが振り返る前に、自身の1撃が彼を捉えると確信して更にぐんと前傾になりながら深く1歩踏み込むドリスだったが……その
痛みの箇所に視線を落とすと、鉄の芯のようなものが何本も突き刺さっている。タレンズィーガ―の爪だ。視線を後ろに運ぶまでもなく答えは明白。マックスがドリスを狙って鉤爪を放ったのである。そして彼女は、戦闘中に一瞬でも、スパイクから目を離すべきではなかった。
「は~い、お疲れちゃ~んっ」
よろめいて勢いを失ったドリスが視線を前に戻した瞬間に、スパイクの右腕によるラリアットが
「ぐぅっ……ひ、卑怯っ……カハッ!」
この状態で意識が残っているだけでも奇跡。ドリスは大剣を落とした両手で地面をつきながらも気丈に振る舞い、なんとか起き上がろうとしたが、スパイクが無慈悲にその顔をサッカーボールのように蹴り抜いて、1撃で意識を完全に刈り取った。
「スパイク。今なんか言いかけてなかったか? そいつ」
「卑怯とかなんとかっ……おいっ! こらっ! なにが卑怯だってっ? あぁっ!?」
既に意識を失ったドリスを何度も何度も繰り返し蹴り抜くスパイク。当然、スパイクの質問に彼女が答えられる訳もなく、蹴られる度に
「スパイク。それ以上はやめとけ。怪我をする前にねっ……キリッ」
「ハハッ、お前それ気に入ったのかよっ。まぁいいか、スッキリしたし。コイツ連れて帰ろうぜ」
「多少怪我させたけど、生け捕りの方が楽しいかんなぁ。やっぱ俺達いい仕事するぜっ」
「お前がなんの仕事したってんだよ。でもまぁ、これなら親父も文句ねーだろ。
スパイクはドリスを米俵のように肩へ担ぐと、ハイフリューゲルの理力解放。建物の屋根の上まで飛び上がる。マックスもその後に続いて飛び上がり、その後ろに着地した。
「はぁ~、切れそっ。俺が助けてなかったらお前負けてたかんね? 今頃、フンコロガシとして第2の人生歩んでたからね?」
「誇大妄想も大概にしとけよ、マックス。役に立たない上に口を開けば嘘、大げさ、紛らわしいとか、お前の方こそ第2の人生が必要だろ」
「堂々と女のケツ触りながら喋ってる犯罪者の方が死ぬべきなんだよなぁ」
「いや、これが意外にジャストフィットなんだわ。その柔らかさが手に馴染んで俺を離そうとしない」
「マジで? 後で俺も揉みしだくから残しといて……おいっ、やめろっ! 激しいスパンキングでお前の手形を付けようとするなっ!」
2人は終始そんな調子ながらも、建物の上へと路地裏へと人目を避けながら目的の地に向けて進んでいく。結局彼らは誰にも見咎められずに逃げ
翌日の早朝、両手を後ろに縛られて、体中に無数の刺し傷を残した裸のドリスの死体が通りに打ち捨てられているのが、一般市民によって発見された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます