第19話

「ちょっと、いいから。こっち、来て。はやく」


朝の教室で、カバンを下ろしたひかるをベランダに呼んだ。


「何、朝から」

ひかるはゆっくりと出てきた


「話があんだよ」

「だから、なによ」

「驚くなよ」

「今更おどろくようなことなんてないでしょ」

「あのさ」

「…」

「じつはな」

「…」

「なんか言えよ」

「うっさいなーもったいつけて。なんなのよ」

「いや、すまんあのさ、その」

「はい。なんですか」

「彼女できた」


「ええっ!?」

めんどくさそうな顔をしていたひかるが、ものすご勢いで身を乗り出してきた

「だれっ?」

「マネージャーの」

「ちひろちゃん!?」

うん、と俺は頷いた

ひかるはぱあっと明るい顔で笑った

「へー! あんたあの子に興味ないと思ってたー。でも、やったじゃーん」

「いや、まあ、その、な」

「あー!たか、たかちゃん、ちょっと!」

「おい、バカッ!」

登校してきたばかりの岡部が、呼ばれるままにベランダに出てくる

教室の中の連中がこちらを見て、それぞれの時間に戻った


「ういーす。なに、朝から」

「山本ね、彼女できたんだってよ!」

「え? マジで!?」

「誰だと思うー?」

「えー、そんな話全然なかったじゃん。えー、ダレ?」

「んふ。ち、ひ、ろ、ちゃ、ん、よ」

「あー! なに、結局そうなったの?なに、ひかる、なんかしたの?」

「してないよー。私も今いきなり聞いて驚いたの」

「へー。でもよかったじゃん」


俺は、ああ。と答えながら、一瞬で岡部にまで知れ渡ったことに恐怖を覚え、誰にも言わないでよ、と2人にお願いした。


そして、2週間前に告白されたこと、昨日、電話で返事をしたことを、かいつまんで話をした。

森田さんに叱られたことは内緒にした。



「いや、それでさ、そーゆーの初めてだからさ、なにをどーすりゃいいのか、ひかるに聞きたかったわけよ」


と言ったところでチャイムがなり、教室へと戻った


ホームルームが終わった時、ひかるからメールがきていた

『そんで、今朝はもう会ったの? 彼女にちゃんと挨拶しなきゃダメなのよ』


俺は、そ、そーいうものなのか、しまった! と焦りながら、1年のフロアへ走った。

階段を降りて、いや、でも、何をどー言えばいいんだ? と悩みはじめ、立ち止まった

話すことも決まってないし、あとでまたゆっくり来ればいいや、と思って振り返ると、そこに、森田さんと、峯岸さんがいた。


「あ。おはようございます! 先輩、昨日は大変申し訳ありませんでした! では、失礼ます!」

と、森田さんはいきなりいなくなってしまった。


「あ、あの、おはよ」

「おお、おはようございます」

「あの、昨日は、その、ごめん。急に電話して」

「いえ、あの、こちらこそ、すみませんでした」

「俺、電話、したよね、ゆうべ」

「はい、あの、きました」

「夢じゃない、よね」

「はい、多分…」

「そか、うん。あの、それだけなんだ。また、来ますね」

「あ、はい。ありがとうございました」


峯岸さんは深々頭を下げた。

俺は、背中を向けてひらひら、と手を振って、教室へと戻った


ものすごい勢いで心臓が鼓動を続けていた。教室に戻った時

「何、お前、気持ち悪い」

と言われた

「え、なにが?」

と慌てると

「なににやにやしてんの。きしょ」

と言われた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る