第18話

「一体、どーいうつもりですか?」


「いや、え? つもり、って…?」


突然、一年生の森田から呼び出されたうえ、けんか腰で話し出されて、俺は戸惑った


「とぼけないでください。ちひろのこと」


「あ、ああ。峯岸さん、ね、うん」


「はっきり言ってあげてくださいよ。せめて」


「いや、うん? はっきり?」


「ダメならダメでいいんです。ただ、あの子ははっきり、本人の口から聞きたいんですよ。そしたら、また、前を向けるんです。だから」


峯岸さんに突然告白されてから、2週間が経っていた。

確かに好きでいてくれたことはよくわかったけど、それ以上なにも言われなかったので、返事もなにも、どーしていいかわからなかったのだ。


「あ、ああ。ごめん。俺が悪かった」


「私に謝ってもらっても困ります。ちひろ、あの日からずっと落ち込んでて。山本さんからなんの連絡もない、無視されたって」


「いや、無視なんてしてない、よ」


「じゃあなんで、なにも返事してあげないんですか! それを無視っていうんでしょう!?」


女子って、怒らせると怖い。と俺は思った


「あ、ああ。そう、だな。うん」


「とにかく、悪いと思うなら、今日にでもちひろに連絡して、返事してあげてください。あの子がどれだけ先輩のこと好きだったか。山本さんならわかるでしょう?」


いや、すまん。全然わかってなかったよ、と思いながら

「あ。ああわかった」

と答えた。そして

「あの、森田さん。てことはその、つまり、峯岸さんはまだ、俺のこと、その、なんだ、気持ちは変わってないってこと、なんかな…?」

と聞いた


「は? ちひろが忘れるまでほっとくつもりだったんですか? 山本さんてそんなサイテーな人だったんですか? ありえない。ちひろの気持ちは、本人に直接聞いてみたらいんじゃないんですか!? 忘れてくれてるといいですねっ!」


ご、誤解だ、と取り付く島もなく、森田さんは俺の前からいなくなってしまった。

俺は、確かに、峯岸さんからは付き合ってくれとかなんとか言われてなかったとはいえ、なんらかのリアクションは返すべきだったよな、と反省した。

同時に、でも、突然言われて突然いなくなられたら、なんて返していいかわかんねーよなー、と愚痴を言った


その日、何度かアドレス帳から峯岸さんの名前を呼び出したものの、電話をかけることができずに、夜になってしまった

峯岸さんに電話をするのが、怖かった。

森田さんのあの怒り方からすると、峯岸さんも、俺のことをひどい男だと思ってるかもしれない。

好きとは言ったけど、そんなに重い意味で言ったんじゃないです、みたいに言われるかもしれない。

そんなことを考えてしまった


夜9時。コンビニに行ってくると家を出て、近所の公園に行った。

峯岸さんに、電話をかけた。

何回かコールがきこえ、


「… はい」


と、小さな声が聞こえた。

ドキリとした


「あ。あの、山本、です。突然、すみません」


「…お久しぶり、です」


峯岸さんは、元気がない。これは、怒ってるのかもしれない。まずい


「お久しぶり。あの、久しぶりになっちゃってすみませんえと、」


「こないだは!」


「え?」


「こないだは、すみませんでした。突然、変なこと言って。困らせて。私、勝手に。すみません、ご迷惑、で」


「あ。あの。その件、なんだけど、さ」


「あ、はいあの、こうやって、電話してくれただけで、あの、十分です。ありがとうございました」


「いや、峯岸さんあのさ。あの、嬉しかったよ。すごく。それで、俺、びっくりしちゃってなにも言えなくて、そんで、その後もなにも言わなくてごめん」


「…」


「あのさ、それで、あれから、少し時間経っちゃったんだけど、その、峯岸さんの気持ち、変わってない、かな」


「… え?」


「だからさ、変わってないと、嬉しいな、って思うんだよ」


「どう…いう…」


「ごめん。こないだは、峯岸さんが、勇気出したのにね。俺も、出さなきゃね」


「…?」


「コホン。あの、俺も、峯岸さんのこと、好きです。いやあの、だいす、き、なんだ。だから、もしあの、まだ気持ち変わってなかったら、俺と、つ、つ、付き合って、ほしい、んだ」


2週間、言いたかったことを、一息で喋った。心臓が、バクバクした


「…」

しばらく、沈黙した


俺も、つばを飲むだけで、なにも言えなくなった


「わたし…」


「は、はい」


「わたしも。あの、ほんと、ですか?」


「もちろん。ウソとかつかないよ」


「あの、わたしも、好きで、あの、ぜひ、あの、お願いします…」


俺は、ケータイを握りしめたまま、公園に膝をついた

身体の力が抜けた


そのまま、ぎこちなく話を少しして電話を切った

夏を感じる風が吹き抜けて、俺に初めての彼女ができた


家に帰る道で、少しスキップをした

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