第五話「出発」

「ドラゴンってまさか普通のドラゴンのこと言ってるんじゃないわよね?もしかして邪龍のこと?」


「うん、かの龍の住むところには財宝が眠ると聞く。今まで挑んだ者たちの装備品とか持ち込んだもろもろがね。だからそれをぶんどっちゃおうってことさ」


 ぶんどるとか、勇者が言っちゃっていいのか?勇者のパーティーから魔王のパーティーにジョブチェンジしそうだ。魔王がいるから間違っちゃいないけど。


「邪龍ってのは?」


「100年ほど前に突然現れてね。それ以来近づくもの達を襲っているのさ。昔は挑みに行く人も多かったんだけど、ここ数年は全く見なくなった。触らぬ神に祟りなしってね」


 へ~。


 そっけない質問にあっさりと返す回答、二人のやり取りもだいぶ板についてきた。ユウキにこの世界の常識がないとわかっているからだろう。質問から回答までのレスポンスが上がってきている気がする。


「で、どこにいるんだ?そいつは」


「こっちに来て」


 ?


 リリィーは立ち上がると、シオンの後ろ側にある扉を開けて、テラスへと出た。冷たい風が一気に扉をぬけて入ってくる。リリィーの吐く息が白い。外の気温は随分と低いようだ。


 寒いのは嫌だが、仕方ない。呼ばれたからには、行かなければならないだろう。俺もリリーィの後を追って外へ出た。

 後ろから、カチャカチャと聞こえる。シオンのやつは食器の片づけを始めたようだ。




 外へ出ると、リリィーがある方向を指さしながら言った。


「あそこよ」


「は?」


「あそこに邪龍が住み着いているの」


 指指した方向にあったのは、ただの山であった。どうやら邪龍は、魔王城の裏山に住んでいるらしい。

 いや、いくらなんでも近すぎじゃね?ほんと都合がよすぎる話だな。


 

 シオンが後ろからやって来る。どうやら、食器は片づけ終わったようだ。俺たちの分まで片づけてくれたらしい。


「それじゃあ明日の朝にでも出発しようか。リリィーお弁当を頼むよ」


「わかったわ、任せておきなさい!」


「お前らはピクニックにでも行く気か...」


 ユウキの、力のないツッコミは、夜の冷たい風に流された。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 人の家のベットってなかなか寝られないな。


 あいてる部屋は好きに使っていいわよ、と言うリリィーのお言葉に甘えて、今日は魔王城に泊めてもらうことになった。


 ここはいい部屋だ。揺れるランタンの、優しいオレンジ色の光に映し出された、手入れされた部屋。ティーカップやポットも置いてあり俺が欲しかった物も揃っている。何よりこのふっかふかのベット。


「邪龍...か」


 声に出して呟いてみるが、やはり実感がわかない。どんなやつなんだろう。トカゲみたいなタイプなのか、はたまたシェンロ◯か。くだらない想像ばかりが頭の中で流れては消える。


 それから、あの二人。シオンとリリィーとの付き合い方も考えていかないとな。

 俺たちは互いのことを知らなすぎる。知らなくていいことも、あるのかもしれない。だが本当に仲間ってやつになるのであれば、いずれ俺の過去も話さなくちゃならないかもな...




 あーそうだ、確認しておきたいことがあったんだ。身を起こしてベットの端に腰掛ける。


「〈ステータスオープン〉」


 名 前:ヒイラギ ユウキ

 年 齢: 17

 称 号:《転生者》

 スキル:《神性なる身体》《火炎耐性》etc



《神性なる身体》

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「うーん、やっぱりダメか」


 ステータスはいわゆる世界の法則だと俺は仮定した。そのステータスが文字化けしている。つまり、世界の法則を捻じ曲げるほどの力が、干渉しているってことだ。


 やはり神。あの爺さんの仕業なんだろうか。このスキル説明欄には何が入る?

 このスキルのおかげで、身体能力が格段に跳ね上がっているのはわかる。他にあるとすれば、単純に神に創って貰ったという意味じゃないのか?

 だが、何故それを隠す必要がある?


(スキル《集中》《観察眼》を獲得しました)


 あ?なんかスキルが手に入った。思わぬところで収穫があったな。

 けど、


「あー、もうわからん!」


 ウインドウを閉じてベットに身を投げ出す。結局よくわからずじまいだ。頭を使ったおかげか、だんだんと睡魔が襲ってきた。ふわ〜と大きな欠伸がでる。いい加減寝よう


 ベットに入ると、ランタンの火を消した。こだまとかはないので、部屋にあるのは、窓から差し込んでくる月明かりだけだ。こちらの月は、日本から見えていた月と違って少々青が強いようだ。


 空を見上げる余裕なんてなかったので、気づかなかった。本当にファンタジーな世界に来ちまったんだな。


 徐々に重くなってきた瞼に、逆らわずそのままゆっくりと閉じていく。緊張の糸が切れ、ユウキはいつもより、深い眠りへとついた。








 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 目を開けると、見慣れない風景が飛び込んできた。


「......知らない天じょ——」


 ......やめておこう。状態を起こして、大きく伸びをする。起き上がって窓を開けると、朝日がちょうど昇ってくるところだった。吹き抜けて入ってくる冷気が肌に刺さり、頭のほうもだんだんと冷めてきた。ははっ、サムイなーというユウキのつぶやきが聞こえる。何がとは言わない。


 昨夜は随分と良く眠れたようだ。身体に疲れもなく調子がいい。《神性なる身体》のおかげ、とかありそうで怖いけどな。得体の知れないもので身体が好調というのは気味が悪いし。昨夜はグッスリだった、そういうことにしておこう。


 俺は、昨日のうちに受け取っていた服に着替えると廊下へ出た。これもこの城にあったもので、黒を基調にしたコート見たいな感じだ。なかなかデザインが好みなので気に入っている。


 廊下を少し進むと、昨日食事をした部屋が見えてきた。まだ朝も早いので、もし二人がまだ起きていないようなら、外で身体を動かしてみよう。そう思っていたのだが、


「あ、ユウキおはよう」


「もうちょっとでできるから、そこに座ってて」


 お茶を片手に挨拶してくるやつと、厨房から顔だけ出した主婦によって出迎えられ、着席を促された。


「お、おう。お前ら随分早起きだな」


「いやいや、ユウキも十分早いよ?」


 昨日は寝る時間も早かったしな。ネットがないと現代の若者は、何をすればいいかわからないのだ。


 リリィーがお茶を持ってきてくれた。んまい。


「うん、意外と似合ってるね、その格好。性能もなかなか良いみたいだし。」


 シオンが俺の服を指しながら言ってくる。


「意外とは余計だ。性能もわかるのか?」


「ああ、スキルに《勘定》ってのがあってね。人は無理だけど、物のステータスが見えるのさ」


「へぇ、便利だな。俺もとっておきたいな」


「取得のコツとしては、いろんな物を注意深く見ていくことかな。何度も反復していれば覚えられるよ」


「なるほどなー。よし!」


(スキル《集中》《観察眼》を発動しました)


 一気に精神が、研ぎ澄まされていくのが自分でもわかる。

 自分の服、シオンの服、お茶のカップ、テーブル、椅子、掛け軸、部屋にあるものを順々に見ていく。


 よく見ろ。観察しろ。


 使われている繊維、編み込まれ方、その物の形状、何でできているか、その素材は硬いのか、柔らかいのか、使われている茶葉はなんだ、使われている木材はどんな物だ。

 得られる情報を極限まで高めていく。


(スキル《勘定》を獲得しました)


「あ」


「あ?」


「とれた」


「......僕も結構、覚えるの苦労したんだけどなー」


 勇者は苦笑する。一度取得してしまえば、あとは誰でも簡単に使えてしまう点から、この世界の人はみなスキルをとろうとする。

 だが、そうやすやすと取れるわけではない。なんども反復練習を重ねてやっと取れるものなのだ。

 だからそれをあっさりひっくり返されれば、呆れてしまうのも無理はない。転生者の力の発端を見たかもしれないそう思ったのだ。



 上手くいったな。どれどれ?


(スキル《鑑定》を発動しました)


 名 前:ミッドナイトコート

 効 果:自動修復(小)

 装備者の自動回復(小)

 隠密行動への補正

 暗視



 真夜中のコート、ね...

 やだ、何この恥ずかしい名前...


 自動修復とかある。ありがたいなこれ。




 暗視被ってんじゃねーか!!


「できたわよー、って何一人で百面相してるのよ」


 その質問に、彼と一緒に座るシオンは軽く肩をすくめるだけだった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「忘れ物はないかい?みんな」


「忘れ物つっても、持ち物なんてなくないか?」


「お弁当は持ったわよ」


「なら、準備万端だね」


 ・・・そのうち俺、スルースキル手に入れるんだ。



「しゅっぱーつ」


 リリィーの元気な声が響き渡る。


 こうして俺たちはピクニッ——、違った。

 邪龍討伐へと出発した。

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