07-08:それぞれの動き
07-08-01:エレノアからの手紙
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拝啓 シオン・アルマリア様
シオンさんにおかれましては……なんて始めるのはやめます。現状のあらましを思えば気が気でないでしょうし、貴族流の前書きはざっくり略してしまいましょう。もちろん書けないなどということはありませんが、どうでもいいおべんちゃらなど興味はないでしょう? っていうか貴族の文はめんどくさいんですよねぇ……素直に書かなねば伝わるものも伝わらないと思うんです私。何がル・レイアの欠けたるときですか、訳がわかりませんつらいです。
おおっと閑話休題、さくさく本題を切り出すことに致します。
まずステラさんの所在について。
やはり彼女の身柄は公爵家にあるようで、また病気ということもなく元気そうにしています。意外ですか? 意外ですよねぇほんと……何故分かったかといいますと、ここ最近になってある噂が貴族界でささやかれるようになったためなのですよ。はたしてシオンさんはご存知でしょうか。
『深窓の令嬢』というまことしやかな事実を。
あの元気の固まりが光り輝いて星になったかの如きステラさんにしては、ひどく慎ましい二つ名で彼女は呼ばれています。彼女はカストゥロ様の御屋敷……つまり公爵家で、儚げに窓辺に立つご令嬢となっているんですよ。事情を知らぬ誰しもが名前を知ろうとし、しかし誰1人として真相にたどり着けず、故にただ『深窓の令嬢』とだけ名付けられました。
いわゆる都市伝説(嘘とは言ってない)というやつですね。
私も一度見かけましたが……本当に黙っていれば麗しの姫君なのだなぁと痛感する次第です。ちょっと、いやかなりずるい。ほんとうにもうカメラがないのが悔やまれますね、すごい絵になるスチルでしたよ。いや問題なのは解るのですが、誰しもが見惚れる姿なのですこれが。貴族界で知らない人は居ない、と言えば噂の度合いも解るでしょう?
しかもあのステラさんはなんというか……ヤバイです。ちょっと『傾国の美女』ってオーラが漂っています。いやぶっちゃけ行けちゃうんじゃないですかね? ステラさんの美貌でウチ国がマッハ。それぐらい今のステラさんはヤバイです。ほんとうに1つの芸術品のようなのですよ。いやー、眼福です。
えー。
あー、その、ここまで書いてなんですが。
ちょっと危機感足りてないお手紙だなーというのは自覚しているんです。でもでも幸薄そうで、線がほそく、儚げで……言ってしまえば触れれば壊れてしまいそうな乙女なんですよ?! マジ乙女オブ乙女なんですもんほんと。乙女ゲーの主人公かよ! って感じです。同じ女性として何かこう、致命的な敗北を喫した気分です……嫉けた上で崇拝に昇華した感じですね。
正直あのぽあんぽあんしたステラさんを知っているだけに、本当に同じ人物なのか私も相当悩みました。具体的には3分ほど。でもあんな美形2つとないでしょうし……なんとか脳内で串焼きを食べるシーンを妄想したところ、やはり本人だと確信に至り、覚悟を決めてお手紙を送った次第なのです。
ほんと面識がなかったら誰アイツですよ。第一印象があんな薄幸の美女だったら、私は『ふまいふまい!』などと串焼きを一度に5本も貪る姿を想像すらできなかったでしょう。
おいしいごはんを山盛りいっぱい頬張ることがとっても似合う、稀有なる彼女に一体何が起こったのでしょうか。私にはまるで見当も付きません……ですが事実としてステラさんはお人形のように窓辺にあり、ぼうっと遠くを見て立ち尽くしているのです。
これがステラさんの今、『深窓の令嬢』としてのあり方です。
おそらく元気ではありますが、彼女は抜け殻のように佇んでいます。なんとかそれ以上の手がかりがほしいのですが……それが出来ない事情が他にあります。
それが2つ目の伝えたいことです。カストゥロ様がここ最近お姿を見せないのです。シオンさんがヴォーパルソードについてお調べになっているとのことでしたので、直接聞ければなぁ等に思っていたのですが……。
どうも話を聞くに病に伏せられているとのこと。
……貴族、病、姿を見せたがらない。
すごく不味いきがしませんか?! 私はします……具体的には死んじゃってるとかワンチャンあるんじゃないかと! でもカストゥロ様に毒杯を頂く程の醜聞が在ったなんて噂でも聞いたこともありません。あ、勿論私にかまけていることを除きます。必要なときだけ居ねぇんですよチームキングダムちくしょうめ。
まぁそういう情報はすぐに握りつぶされている可能性もありますが、スローン王子殿下も本気で首を傾げていましたからにはガチっぽいですよ?
付きまとわれるのは迷惑極まりないですが、袖振り合うも多生の縁と言います。多少なりと心配しないわけがないわけで……。
そうしてカストゥロ様を気にしすぎたのか、チームキングダムが変に嫉妬してきてつらいです……それがまた婚約者様方からの風当たりを強くして敵いませんつらい。エレノアは明後日に飛び立ちたいですマジで。よくいい年こいた四十のオッサンが『鳥になってそらを飛びたいんだフフフ』なんて幻想漏らしたりしますが、今ならすごくその気持ちがわかります。
えれのあはとりになりたいふふふふふ。
だってきつい。ひたすらきついんです……。いやシオンさんに愚痴ってもどうしようもないのはわかりますよ? でもね、ウチはぺーぺーの男爵家なわけですよ! 吹けば飛ぶおうちなんです! そこに突き上げ食らって逆らえるわけがないじゃないですかああああ!!
でも何処にも愚痴れません。チームキングダムのせいでみんなに敬遠されてます。孤独です悲しいです、そしてつらいです。
ここにもしステラさんがいたらウンウンと共感してくれたはずです。あのひとは私の唯一と言っていい理解者ですからね! ほんともう癒やし! 美味しそうにケーキ食べている姿を見るだけでなんだか元気になってくるからあの人はすごい! だから私の精神安定の為にも事件を解決してほしいです。それに彼女とは何時か炊きたて銀シャリ飯でTKGするという魂の盟約を結んでるんです。ご飯の恨みは末代まで祟りますからね、シオンさんも気張ってください。
まぁ祟るは冗談ですけど……もし戻ってきたら私のおごりでお茶でもしましょうよ。懐はステラさんのおかげであったかいんです。
さて私から伝えられるのはこれくらいでしょうか。どうにかシオンさんのお役に立てればいいのですが……。
敬具
PS.なんだか最近物騒な話をよく聞くので、ハシントさんも守ってあげてくださいね!
エレノア・カーチェスより
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