07-07:レジスタンス
07-07-01:反逆へのいざない
アイリーシャ夫妻がにこやかに語る『レジスタンス』という言葉に、シオンとハシントは目を剥いた。彼等はその意味をしかと理解した上で言ったのか、それが2人には如何様にも判別がつかない。
「その、伯父様。レジスタンスとは……反社会敵勢力の意味でのレジスタンスで合っていますか? それも……対ハイエルフ組織としての」
「シオンは鋭いなぁ、全くもってそのとおりだよ。イルシオにはハイエルフに反逆するためのレジスタンスがあるんだ」
からりと笑うナリダウラに、ハシントが冷や汗を流す。この場で語られている事は表沙汰になれば十中十で縄に掛けられる類の話だ。彼女にはナリダウラがとても正気だとは思えなかった。
しかし彼らの目は淀むでもなく、また狂気に駆られているわけでもない。ただ力強い意思を訴えている……つまり正気以外の何物でもない。
「私も存在自体はは存じておりましたが、もしや叔父様がそうだとは……」
「ファルティシモ家はハイエルフとのつながりが強いからね、当然露見しないように注意していたとも。これはカスミも知らないことだからねぇ、ハシントが知らないなら願ったり叶ったりだよ」
「そう、ですか……」
ハシントにしてみれば中々に、いやかなりショックであった。なにせ幼馴染の両親が最も危険な立ち位置に居たのだから。しかも彼らの様子を察するに相応に長い期間潜伏していたことになる。少なくともハシントが子供の時から……つまり200年は携わっていた事は間違いあるまい。その事実にシオンがふぅとため息を付いた。
このレジスタンスはもはや
「なんというか、よく表沙汰になりませんでしたね。ハイエルフは反逆者に容赦しないものですが」
「その事実は基本的に隠蔽されているからね。噂がまことしやかに囁かれる程度が関の山だろう」
「つまり……もみ消す事のできる内通者が居るのですね」
「……シオン、君は察しが良すぎて時折怖くなるよ?」
ハイエルフ側としても表立って活動していることが知れ渡れば、レジスタンスに協賛する者が数多く現れる。レジスタンスとしても活動が露見すれば潰されるため、つながりは極力断ち切るのが筋だ。
だが内通者がいるなら事実の隠蔽は難しくないだろう。事実ハシントを始めとしたエルフも噂しか知らなかった。シオンが思う以上にレジスタンスの根は深いのかもしれない。
「それで、ね。我々レジスタンスは近く、ハイエルフ元老院に対して攻勢を仕掛けることになっている。その際にステラちゃんの奪還も見込めると思うんだ」
「攻勢……可能なのですか?」
「可能だし、そのための準備は整いつつ有る。もし君が来てくれるならより盤石になるだろうけれどね」
ナリダウラはシオンを戦力として期待しているのだろう。この世界でも単騎で竜を殺せる者の数は少ない。ましてや
レジスタンスの目的は国家中枢たる元老院、つまり国家転覆を狙うのだから武力は多ければ多いほどよいだろう。ここでシオンを取り込むことができればレジスタンスの活動はより堅牢なものとなるだろう。
「勿論詳細をここで話すことはできない。だからこの話を蹴るならばまさに今だよ。気が乗らないなら断っても良い」
「伯父様は僕達が断って、かつ話を漏らすと考えないのですか?」
「考えるまでもない。ふたりとも相応に信用しているからこそ話をしているんだからね」
「……」
「…………」
顔を見合わせるシオンとハシントはお互いの困惑を目に取り、それぞれが思案する。
ここで応じるメリットは強力なバックアップの下、ステラ救出への道筋をたどることが出来ることだろう。レジスタンスの主目的とニアイコールではないが、結果的に救う近道となる。
対するデメリットは『レジスタンス』に所属することそのものだ。露見すれば即捕縛されることになるし、失敗すればまず間違いなく命を失う。また露見すれば
成功すればすべてうまく行き、失敗すれば何もかも失う。ハイリスク・ハイリターンな提案であるが――。
(……天秤にかけるまでもない、ですね)
お互いにため息をついて、シオンとハシントは頷きあった。
「僕は行きますよ。ステラさんが今いる状態はかなり不味い。なりふり構っている間もなさそうですから」
「私もお手伝いいたしますわ。戦闘面はシオン様に劣りますが、それ以外にも出来ることは多く御座いましょう」
「2人ならそう言ってくれると思っていたよ。じゃあ早速アジトに案内しよう……ただ、ハシントはメイド服を着替えてからね。すごく目立つから」
「そうですわね……街に溶け込むような物に替えましょうか」
そう言ってハシントの着替えを待って、ナリダウラを先頭に2人はアイリーシャ邸を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます