07-01-05:立案

 ハイエルフという面倒ごとの気配にステラが肩を落とす。まるで夏休みの宿題を前にする小学生のような心境だ。


「あぁ~もう、本当に 億劫だな。世界樹の麓へ向かう、その障害は何になるんだ?」

「まず中央区へ入る手段が必要となります。次にその使い手へのアポイントがいるんですが……」

「そりゃピンポイント過ぎて難しいな」

「ええ、コネクションもありませんし……ステラさんなら中央区に入れても伝手がないので接触できないでしょう」

「むぅ……となるとどういう案があるだろうか」

「パッと思いつく限り、3案ありますね」

「さすがシオンくん、3つもあるのか! なら聞こうじゃないか」


 ステラが前に乗り出し、合わせてシオンが指を1つ立てる。


「1つは先程の案です。ステラさんがメインとなり、僕が従者として乗り込む案です」

「その場合アポイントが取れないと言っていたよな」

「アポイントは取れなくとも、誰がヴォーパルを持っているかは調べればわかります。なら直接接触すればよいという強攻策ですね。利点は事前の準備がそんなにいらないということです」

「あー、ルドベキアの時と同じように闇夜に乗じて乗り込むようなパターンか。でも今回に限っては良案とは言えなさそうだ」

「ええ、今回は相手がハイエルフ。隠蔽を図っても発見される率が非常に高い。さらにハイドランジアに騎士がいる場合、常に携帯されていることとなります。その場合僕という存在が問題になるでしょう。いくら僕がヴォーパルの準騎士エスクワイアだとしても、ハーフエルフである時点で取り合ってくれないとみたほうが良いです」

「すこぶる気に食わんが、こればっかりは相手の出方だからなぁ……」

「ヴォーパルの騎士が僕達と話す価値を見出してくれる賢者とは限りませんからね。あと注意すべき点として、ハイドランジアが命題タスクを課してくる可能性があります」

「これまでもそうだったし、これからもそうなるのは確実だろう。命題タスクは有るものとして考えたほうが良いね」


 次にシオンは指を2本立てる。

 

「1つは御館様の紹介状を使うことです」

「ってーとシオンくんの親父さん……つまりアルヴィク公王の紹介状か。いつの間に貰ったんだい?」

「旅立つ前に頂戴しました。役立つときが来るだろうということで」

「ふむ、国家指定の紹介状なら受け入れてくれそうだな」

「ですがどうでしょうね? ハイエルフは自己こそ至高と捉えていますから、こうした紹介状とて受け入れない可能性があります」

「流石に国家間の約定ぐらいは認めるんじゃあないかい?」

「その点もかなり身勝手なので、周辺の国からはあまり良く思われていないのですよねぇ」

「えぇぇ……それでよく平和を保っていられるな」

「ひとえにハイエルフ単体の戦力が高いゆえですね。戦争となれば必ず魔法戦となり、戦うだけ不利となる……つまり存在そのものが抑止力なのですよ」

「うっわずるチートだなぁ……バックヤードが気になるところ」

「たしかに……ステラさん並とは言いませんが、個々人が一騎当千の魔法力を持つ理由は何かありそうです」

「そのへん、頭の隅に置いといたほうが良いかもだね」


 そしてシオンは3つ目の指を立てた。


「1つはこの街で名を挙げること。これが最も率が高そうな案です」

「あー、凄い探索者ハンターがここに居ると知れば、声がかかるやもしれないね。所謂貴族にまで轟く知名度を得る的なやつだ」

「しかし、実際問題として声がかからない可能性も当然あります」

「つまり……需要がなければ供給があっても無意味ということか?」

「生半可な探索者ハンターの戦力では役に立たないと考えるでしょう。ただ今回幸運が有るとすれば、ハイエルフの探索者ハンターが居る事です。ここからコネクションを得られるかもしれません」

「でもわたしと違って生きる必要に駆られたわけじゃないだろ? 何の考えでやってんのか判らんから、ちいとリスクが高くないかい?」

「ええ。彼らは本来独善的であり、自ら労働に赴くなどありえません」

「本気で不気味だな……」

「なので何が起きているか調べたほうが良いでしょうね」


 指を下げたシオンは息をついてエールをあおる。ステラはそれを見ておかわりを頼むか迷ったが、しかし自分のお財布を慮って止めることにした。食事はパーティー資金だが嗜好品は自分のお小遣い管理だ。如何に安くても塵も積もれば山となる。もしいい感じのお菓子が屋台で売っている時、お小遣いがないなど絶望も良いところだ。


「うーむぅ。どれも一長一短だが、第3案が現実的と言えば現実的かな?」

「はい。ですからまずは、出来ることから始めるのが肝要かとおもいます」

「そうだな。なら手始めに……シオンくんのおばあちゃん家とハシントさんのところに行ってみようか。距離としてはどっちが近いんだい?」

「ハシントの実家、ファルティシモ家ですね」

「なら行こうか!」


 カップをおいたシオンが立ち上がるのと同時に、ステラも立ち上がり店をあとにした。


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