07-01-04:今後の予定について
食事は普通だったがエールは中々良いものを出してくる。火の街ヴルカンで肥えに肥えた舌をして『なかなか良し』と認めるほどだ。
「なんかちぐはぐだが……これなら通ってもいいかな。それはそうと今後の予定どうしようかね?」
「僕としてはまず、御祖母様に顔をお見せしたいところです」
「つまりカスミさんの実家ってこの街にあるのか」
「そうですよ。アイリーシャ家は外縁部中央よりの区画にありますよ」
「古い巫女の家系とは聞いてたが、源流はここにあったのか」
「いえ元々別の地に住んでいたようですが、この地へ流れてきたとかなんとか」
「ふぅん、そうなんンッ?!」
「??」
ステラは緊張の面持ちで姿勢を正した。シオンの御祖母様……生母たるカスミ亡き今、実質シオンの実家に行くということではないだろうか。いやいや、何を緊張することがあろう。今シオンとの関係はとてもふくざつなもの――単なる片思いとも言うが、とりあえず複雑としておけば可能性の芽がありそう――である。
だというのにいきなり実家ご挨拶は『ウチ泊まってかない』以上の
「どうしました?」
「い、いいいやななななんでもななないよ?」
「いや明らかにおかしいですよね? 具体的には『な』が多いです」
「だ、大丈夫。ちょっと動揺しただけ、動揺しただけだから」
「ううん……? ならいいんですが、動揺することありました?」
「ごく個人的なことなのでノータッチでオナシャス!」
「はぁ……」
顔を覆って項垂れるステラにシオンも首を傾げつつ同意した。
「あ……となるとハシントの生家がここにあるのも知らないですか?」
「え、そうなの? たしかエルフの国に行くとか言ってたが……それがここなのか」
「ハシントと母様は幼馴染ですからね、家も近いですよ」
「え、幼馴染だったの?」
「ええ、だからこそメイドに抜擢されたのです。ちなみに外縁部中央よりのファルティシモ家が彼女の実家ですね」
「ファルティシモ家……?」
先程からちょくちょく引っかかる言葉に、ステラがことりとカップを置いた。
「あのさ、1つ聞きたいのだが」
「なんでしょう?」
「君のおばあちゃん家をアイリーシャ家と言ったり、ハシントさんの家をファルティシモ家と言ったりしてるじゃない。君はもとより『君たち』ってば、結構良い所の出だったりする?」
「母様の家は前にも言ったとおり古い巫女の家ですが格はそう高くありません。ですがハシントは生粋の侍女家系ですね。ファルティシモのメイドやバトラーと言えば、それだけで信用される程です。ハシントはたしか次女ですからメイド技能は非常に高いですよ」
「そりゃパーフェクトも納得だわ……」
ステラがかつて貰った刺繍のハンカチを取り出す。もう長いこと使っているので少しくたびれているが、ステラの大切な宝物の1つだ。
「今は何をしてるんだろうかねぇ?」
「別の場所に出向しているか、あるいは教導役になっているかどちらかでしょうね」
「教導ってことは、エルフ子女の教育もやっているのかい?」
「ええ、質の高いメイドを排出するということは、それだけマナーを徹底しているということです。転じて淑女教育の家庭教師という側面も持つんですよ」
「あー、わたしも短い期間だけど教えてもらったっけ。懐かしいなぁ、もう2年近くまえのことなのか……」
懐かしみつつウムウム頷く。あの日々は何より楽しい毎日で……彼女は胸元に仕舞った形見分けの銀の櫛をそっとなでた。
「ならまず目指すのはそこかね。元気にしているといいけど」
「彼女は賢い女性ですから問題ないでしょう」
「あとは本命であるヴォーパル・ハイドランジアの件だけど……」
ステラがシオンの胸元に目をやるが、そこにあるべき六花結晶は沈黙している。だが道行きにあたって彼女から一方的に伝えるべき情報は聞いていた。
「イフェイオンの話ではイルシオに有るとのこと。またハイドランジアは確実に世界樹の中央区に居るでしょう。つまり……担い手は十中八九ハイエルフですね」
溜息を付くステラがげんなり項垂れた。
「なるべくならノータッチで行きたかったんだが、こればっかりは如何ともし難いよなぁ」
「まぁ予定調和として接触は不可避でしょうね」
「……とりあえずキレないようにがんばります」
「あー、それは特に頑張って欲しいところですが……それ以前に1つ問題がありますよ」
「待て待て、これ以上なにが有るっていうんだ?」
肩をすくめるシオンは今度こそため息をつく。
「僕達は中央区に行く権利がありません。なので何がしか策を弄する必要があります」
「権限か……そいつは我々のギルド証でも代替できないのか?」
「コネクションもない状態なら不可能です。彼等はとても排他的……転じて閉鎖的ですからね」
「め、面倒だなぁ……」
「今までが特例過ぎた、という方が正しいですよ」
「そらそうか。いきなり領主と話を通すなんて、それこそ幸運の星の下ってもんだもんなァ」
やれやれと手を振るステラはカップに残ったエールをぐいと飲み干した。
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