06-04-05:滅びの対抗手段

 宴も終わり深夜、宿に戻った2人はお互いのベッドに向かい合って座っていた。


「……さてシオンくん、これで我々の目的は果たされた。その上で問おう、?」

探索者ハンターとしては次の街に向かうべきでしょう。成すべきことを終えた街に、何時までもいる意味はありません」

「だが人として、彼等の結論はあまりに後味が悪すぎる。このまま去るのはあんまりだよ」

「そうですね……」


 シオンのつぶやきに、ステラが真剣な顔で指をピッと立てる。


「だからわたしはアルマドゥラさんに反逆しようとおもう。つまり街を救うのだ」

「策はあるんですか?」

「一応な」


 そう言ってステラが指を振るうと、【光源】ライトの光が形を変えて簡単な周辺マップを作り出した。またこの人はと不味いことをする……シオンは何度めか分からぬため息を付く。


「まず今の状況を整理しよう。

 1つ、ヴォルカニア火山が大噴火を起こす。それもとてつもない衝撃でだ。

 2つ、これにより封じられたジャバウォックが消滅する。

 3つ、同時に火宮都市ヴルカンは消滅する」

「この前提を元に、若いドワーフは街から姿を消しました。またステラさんが気にされていた、『猫が居ない』というのもこれが理由ではないでしょうか」

「たしかにそうだろうな。眷属を守るのが王の責務だ、ならば若いドワーフを逃がす馬車に紛れ込ませるぐらいはするだろうよ」

「さらに封じるべき大将を失ったヴォーパル・ファレノプシは既に己をと断じて日和見になっています。彼女もまた街と運命をともにするつもりです」

「だろうな。ヴォーパルの剣ってのは使いようによって強力な軍事兵器たり得るし、威厳もたっぷり旗頭には余りに都合のいい剣だ。だからこそ不要であるならば己すら封じてみせる、というのがスタンスなのだろう。まったくバカの極みだよ。もっと自分を大事にしろってんだ」


 ステラが眉をひそめ、2本目の指を立てる。


「さて。今回のポイントはやはり『火山の噴火』だ。全ての歯車の帰着点はまさにここと言える。噴火さえどうにかすればというわけだ」

「噴火の衝撃力はファレノプシ曰く『山が1つ吹き飛ぶ』程ですが、どうにかできちゃうのですか……?」

「いんや、無理だな」


 早速の否定にシオンがズルリと肩を落とした。いや、むしろ安心したと言うべきか。さしもの荒唐無稽ステラも自然現象には対抗できないのだという安堵である。


「ジャバウォックを消滅させる爆破だ。普通の手段ではどうしようもないだろうね」

「じゃあどうするつもりですか?」

「話をシンプルにしよう。火山の噴火とは溜まったエネルギーの露出だ。ならのではないだろうか?」

「活用、ですか?」

「うむ。そもそも噴火とはマントルを押し留めた末の出来事だからな。それが指向性を持たぬが故に四方八方へベクトルが剥いて大爆発を引き起こす。ならばこの膨大なエネルギーを制御し、指向性を持たせることができれば少なくとも。つまり……巨大な山を丸ごと砲身にした巨大兵器で空を穿ち、ガス抜きをしてやるのだ」


 ステラの主張に、やはりステラは天真爛漫ステラだったとシオンはため息を付いた。


「まぁ理解はできますが……山が吹き飛ぶ噴火ですよ? どうにかできるものなのですか」

「フフン、シオンくんシオンくん。ここに居るのは誰だ? そのために使える手札カードは何だ?」


 ふふんと胸を張るステラがニヤニヤと笑う。また突拍子もない事を言い出したな、とシオンは顎に手を当て唸った。然しながらこれまでを考えれば可能性を感ずる案でも有る。


「ステラさんは魔法について活殺自在の心象魔法イデアルを持ちます。また魔法力も底なしと言っていい……時間さえあれば儀式魔法と同じ原理でいけないこともないのですか」

「そそそ。具体的にはわたしは制御、シオンくんとアルマドゥラさんがサポートに回ればやれないことはない。だろう?」

「はぁ、出来ちゃうんですねぇ……」


 此れにステラがキョトンと首を傾げてシオンを見る。本当に理解できないとばかりの表情だ。


「そんな呆れた顔して……君だって同じ立場なら同じ結論に至るだろうに」

「どういう事ですか?」

「君さ、大男が真正面からクレイモアーで大上段から斬りかかられたらどうする?」

「足元がお留守ですね、まず膝をナイフで割ります。その後体勢を崩したならあとは随意に。腹を割いてよし、腕を刈って良し、鉄板どころは喉元から突き入れての刺殺ですかね」


 鮮やかな殺傷解答にステラが頭を抱える。


「せやった、シオンくんは超速隠密剣士やった。そんなところもかっこいいけど……そうじゃない、そうじゃないんだ」

「なにか問題が?」

「うーん……君があえて一刀を受けざるを得ない、でどうだ? どう動く?」


 今度こそシオンがと顎に手を当て思案する。


「振り下ろしに合わせて剣の腹を叩き、剣筋を逸らし――ああ、そう言うことですか」

「そう! 制御と言っても全てではない。火山の莫大なエネルギーを『受け流す』のだ。これならできない事もない」

「補足的に聞いておきますが、制御できるなら火山の力を横合いから奪って利用することは出来ないんですか?」

「できるには出来るだろう。しかしジャバウォックを吹き飛ばすエネルギーだぞ? 使い切る前に『』だろうよ」

「なるほど……」

「と言う訳で、制御しつつ受け流すというのが方針だよ」

「それなら何とかなる……のでしょうか」

「やってみないことにはわからんな」


 肩をすくめるステラであるが、しかし其処に不安や懸念と言った表情はない。むしろ成功を確信しているようにおもえる。実際に彼女は成し遂げてしまうのだろう。


(まあいつものことですかね)


 嬉々として詳細を話し始めたステラに、シオンは耳を傾けた。

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