06-04-04:答え合わせ
宴も時が過ぎ、流石に潰れたドワーフも出始めている。しかして『演説させたら一日いけます』のシオンと、『わたしの胃は
というかステラは大円卓の食事を1人で黙々とモックモクと食べ続けてはレシピを聞いていた。やはり出来るオンナは手料理が上手いとオバチャンのひと押しもあり、逐一メモっているのである。
(そうだ、そうだよ。つまり胃袋を掴んで向こうから好きになってもらおう。それに煮物は料理の基本じゃないか。おお、おお。なんてカンペキな作戦なのか……ああ、最高の頭脳にカンパイ)
ステラはその灰色の脳細胞を称賛した。そして出来るオンナは気遣いも実際スゴイのである。
「シオンくんだいじょうぶかい?」
「なにがです?」
「いや、しこたま演説打っただろ。喉乾いてないかい?」
さり気なく水を差し出すステラにクスリとシオンが笑う。
「あぁ、あれはコツがありましてね。喉を傷めない発声法が有るんですよ。それに都度ポーション飲んでましたから喉は渇いてませんよ」
ステラはぴしりと固まった。
「…………シオンくん」
「なんですか?」
「喉……かわいてないかい?」
「……い、いただきます」
無言の圧力でシオンが冷えたカップを手にとった。氷の浮かぶ水を一口飲めば、ステラは満面の笑みでうなずいた。出来るオンナは
「逆にステラさんは……まぁ大丈夫ですよね」
「うん、樽イッキしたら拍手されたよね」
「相変わらず無茶をする……でもないのか?」
「まぁね。あんなのはひやーってなる水と変わらんよ」
モックモクと食事をするステラは途中、気のいいオバチャンが出してきた大樽を『そういうものだ』と思って一気飲みした。繰り返すが樽を一気飲みである。
ラベルは『火竜のまどろみ』、竜さえ眠ると逸話のある度数のキツイ火酒だ。飲ん兵衛のドワーフでも10杯も飲んだら足が立たなくなる酒、それを両手でがっしと掴んでからの一気飲みである。あの一瞬だけ周囲のざわめきは止み、ドワーフ達は正気を疑うようにステラの様子をうかがった。
勿論毒無効のステラは『ッカー! 効くわー! 五臓六腑に効くわーー!』と叫んで1人はしゃいでいた。この有様には指物ドワーフたちも拍手喝采である。というか称賛せざるを得なかった。
酒はのめのめ飲むならば、ドワーフイチのこの樽を、呑みとるほどに飲むならば、粉砕☆玉砕☆大喝采である。実際このパフォーマンスには大喝采であった。ドワーフは酒の友に優しいのである。
「さて、シオンくん。一連の件について確認したい事ができた。そこでシオンくんは気付いた事があるか?」
「ええ勿論、例えば『祝賀会のメンバー』とかは分かりやすいですね」
「然り然り。ドワーフは酒と聞けば東へ西へ、宴と聞けば北へ南へ駆け回る。だというのにこの宴会には若者が居ない。いや、この宴会ではないな、この街には老人ばかりが居るのだ。例外はチャルタちゃんとグルトン君ぐらいだな」
「その例外もドワーフに限ると一貫します。1人や2人見かけてもおかしくないのに、です」
「と、なると見えてくる事実があるよな」
「あまり信じたくありませんが、おそらくは……」
「うむ、同意見か。ではアルマドゥラさんに話を聞きに行こう。答え合わせだよ」
ステラがサムズアップしてシオンに応えた。
◇◇◇
壇上ではまだ杯を揺さぶり、ガハハと笑うアルマドゥラが楽しそうに酒を飲んでいた。酒の種類は多種多様、そのチャンポンっぷりには台座に置かれたファレノプシも呆れたようにチカリと光る。
とはいえこちらの姿を見据えた彼は酔った素振りもなく、陽気に手を振りこちらを招いてくれた。
「おう、シオンにステラではないか! 飲んでおるか、いや聞くまい。先程の飲みっぷりは儂とて目を見開いたわ!!」
「そいつは恐悦至極だね。で、少し聞きたいことが有るんだ。ファレノプシにもね」
『うん? 妾かえ?』
ステラの声の調子に何かを察したのか、白髭面のアルマドゥラがまるで孫を愛でるかのように微笑んだ。
「よいよい、儂は今機嫌が良いでな。言うてみよ」
「ではまず僕から。聞きたいことは『街の現状』についてです」
「ふむ、我が誇り有るヴルカンについてか! どうであった、良い街であろう」
シオンとステラの2人は顔を見合わうなずきあった。
「わたしは最高の街だと思う」
「僕は最悪の街だと思います」
「そしてわたしはシオンくんを肯定する」
「同じく、僕はステラさんの主張を認めます」
微笑みを崩さぬアルマドゥラはことりと樽杯をテーブルへと置いた。
「共に矛盾しておるな、その心はなんぞや?」
「
「ほほぅ、言うではないか……」
アルマドゥラの目がぎらりと光りシオンを見定める。ただ威圧感はなく、どこか試すような雰囲気が感じられた。
「ドワーフは頑固者が多い種族です。今更生き方を変えられらない……それこそ街を捨てるなどもっての外だ。しかし若い者はそうもいかない、彼らには脈々と続く歴史を紡ぐ義務がます。
だからこの街はドワーフの若者を外に逃したのではありませんか? 技術を絶やさぬために、またヴルカンという街が然と存在したことを後世に伝えるために」
シオンの語りにアルマドゥラはため息を付き、寂しそうにクツクツと笑った。
「ガハハハ……まぁ、なんじゃ。皆街が好きでなぁ、今更住処を変えようなどとも思わんのよ。生も死も街と共にある。故に皆、己の職分で好き勝手やっておる。しかしてシオンの言うことは真、若いものは放り出してやったわ」
「成る程、この街の活気は採算度外視で最高の、最後の品を作り上げんとしているのですか……」
「左様、もはや自己満足であるな。しかして儂はそれで良いと思うておる。時の使い方など誰が強制出来よう? もし儂が同じ立場であったとて同じことをしたろうよ。故に儂は最後の一時までこの街を守ることにしたというわけじゃ」
「はいはーい! わたしも聞くべきことがあるぞ!」
続けてステラがピシッと挙手をした。
「ファレノプシ、きみに関する質問だ。アルマドゥラさんの真意も明らかとなった今、君の『諦め』も紐解くべきだとは思わんか?」
『妾の諦め、とな?』
「左様左様。ヴォーパルはジャバウォックと密接に関係する。対になっていると言っても良いな。念の為確認するが、ヴルカンの封印は『ヴォルカニア火山』で合っているな?」
『左様、かの火山こそ封印の要である』
「その上で日和見なヴォーパル、そして通信の必要もないと拒否した事実、
ファレノプシ。君は今、ジャバウォックをまるで危険と認識していない。ならなぜ左様な結論に至るのか」
『良かろう、答えてみやれ』
ステラがぴしりと指を立て、神妙な顔で答えを口にする。
「これは大胆な仮説であるが……火山の噴火を期に、ジャバウォックは消滅するのではないか? つまりはそれほどの爆発力が予見されているのでは」
『カカカ、明快明察。大地の噴火とは星の怒り、如何なるものであろうとひとたまりもないのだ』
「それは確実なのかい? わたしたちは他のジャバウォックを見てきたが、少し信じがたい思いもある」
『無論数億回に及ぶ試算の末に結論に至ったのよ。故に妾はすでにヴォーパルであってヴォーパルにあらず……成すべき責を失うたがらんどうの剣よ。左様ななまくらが、どうして姉上の前に顔を出せよう』
寂しげに明滅する剣は、しかし事実を事実として受け入れんと声をあげている。シオンとステラは、同じく眉を顰めた。
「……アルマドゥラさん、貴方は死ぬためにここにいるのですか?」
「違うぞシオンよ。儂等は最後のいっときまで、生きるためにここにおるのだ」
「フーさんよ、君も最後の手向けとこの場にいるのかい?」
『そんなところじゃなぁ。まぁ、最後ぐらいアホウになってみるのも良いものよ』
そうして笑ってみせる彼に気負いはない。本当の本当に、滅びを受け入れているのだ。
『さて、答えにたどり着いた童には褒美をやらねばの。どれ、童よ。姉上を取り出すが良い』
「……承知しました」
シオンが胸元からイフェイオンを取り出すと、六花結晶は冷淡にチカチカと点灯した。
『疎通確認:
『疎通確認:
『理解不能です』
『まったく、頭が固い姉上よなぁ』
ファレノプシは長嘆息と共に、姉たるイフェイオンに笑いかけるように輝いた。
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