06-02-05:驚きの情報
その日の夜、お互いに聞き込みを終えたシオンとステラは宿に戻ってきた。なお賑わいのない宿屋の部屋は別々に取れるほど余裕があったが、ステラが押しに押した一念で一緒の部屋にしてもらった。
彼女は今生の勝利を確信したが、今までも何時も一緒の部屋だったので別に勝っても負けても居ない。
というわけでお互い向かい合ってベッドを椅子代わりに座り、
「で、どうだった? なにか掴めたかい?」
「掴めたと言うかなんといいましょうか……」
苦い顔をするシオンにステラが言葉を続ける。
「もしや『街が滅ぶ』……とかなんとか言ってなかったか?」
「ええ、まぁ……」
「詳細は聞いたか?」
「はい、ヴルカンはヴォルカニア火山の麓にあります。この火山が近々噴火するとか……。俄には信じがたいのですが事実のようです」
「ドワーフ王直々のお触れだそうだな。なんでもヴォーパル・ファレノプシ直々の見立てだとか」
「さらに星読みも動いたようですね。見立てはまず間違いなく事はなると。ならば街から人がいなくなるのは理解できます……が、その割に逃げない人があまりに多くみえるのですが」
「そこね、そこなんだよ」
ステラがむむむと眉間にシワを寄せて、1本指を立てる。
「今までの経験則……というか厳然たる事実として、ヴォーパルとジャバウォックには密接な関係がある。ならばヴォーパルが介在する今回も魔獣が絡むことは確実だろう」
「僕も同意見です。そしてもう1つ重要な要素がありますよね」
「さすがシオンくん、良い所に気づくなあ! ヴォーパルとジャバウォックは対比関係にあるが、対比関係にするための機構が存在する。それは
「十中八九、ヴォルカニア火山でしょう。街自体は普通の要塞都市ですから」
「だろうね。で、それが噴火するとなると?」
「ジャバウォックの復活、ですか」
シオンが頭を抱えた。とりあえず行くところ行くところジャバウォックが復活しており、伝説が陳腐になりすぎて困る。いや、イフェイオンと出会ったときから分かっていたことでは在るものの、流石に復活し過ぎではないだろうか。
世界のピンチが茶飯事すぎてお茶請け感覚である。解決する身にもなって欲しいものだ。
ここでステラが2本めの指を立てた。
「重要なのはそこなんだよね。脅威であるジャバウォックが存在するのは確実だ。だが覚醒してかう騎士すら持つファレノプシは、ジャバウォックの覚醒を重要視していない。これってどういう事だろう? ヴォーパルはジャバウォックを討滅……或いは封印を管理するものだ。なのになぜ『観光』などと悠長なことを言っているのだろう。
それ以前にヴォルカニア火山が
「たしかにファレノプシの要求は『観光』……ことが起こらんとしている時に、まるで日和見です。……もしかして、噴火しても問題ない秘策があるんでしょうか?」
「シオンくん、火山噴火を……星の怒りを舐めないほうがいい。私の前世は火山の多い国だったのだが、一度噴火すれば街1つなど簡単に消し飛ぶぞ。また、火山弾という巨岩が無数に擦り注ぎ、高熱のガスが吹き荒れ、ありとあらゆるものを焼き尽くし殺す。
いくらファレノプシが『風』の神剣だとして、これらすべてを防げるとは思わん。また火山のデカさが不味い……言わばあの質量の爆弾だとても守りきれるものではないよ」
「……そんなにですか。僕も文献で少し見た程度なのですが」
「無人での記録が可能な世界だったからな。まあ大自然がまる一ヶ月昼夜問わずに襲い来るスタンピード、と考えてくれればわかるかな」
これにシオンもひくりと口角を痙攣させた。
「ま、十中八九噴火がキーになってつながっていると思うけど……調べてみないことにはわからんなぁ」
ステラが窓から暗くなった外を見る。暗闇の先、月明かりに薄ぼんやりと巨大な山裾野がみえた。泰然と佇む大火山はこれから噴火するなど信じられることではないが……予言どおり遠からずあの山は大爆発を引き起こすのだろう。
さらに指を重ね、ステラは3つ指を立てる。
「さてさて。ヴォルカニア火山の噴火、封じられたジャバウォック、日和見なヴォーパル、活気立ちしかし死んでいるヴルカンの街並み。これらは関連していない……と考えるほうが難しい。基本的に全てつながっているとみていいんじゃないかな」
「だとしてもキーとなる情報が抜け落ちていますね。一体何がこれらを繋げているのでしょうか」
「ただ調べるべき方針は決まったと思うぞ?」
立てた3つの指を握り込み、ステラがふぅと息をついた。呼応してシオンがコクリとうなずく。
「ええ、ヴルカンの街を調べましょう。そしてファレノプシの真意を確かめねばなりません」
「そのとおり! 奇しくもファっさんの言うとおりになったが、それも含めて進めていこう!」
ステラはぱちんと柏手を打ち、嬉しそうに微笑んだ。
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