06-01-04:ナイト&フィメールズ
一方ステラは商隊の女子に混じって夕食の準備を手伝っていた。今回の護衛の旅において、見敵の役割以上に指揮運営を担った彼女であるが……それ以上に持ちうる心象魔法に基づく『お役立ち何でも屋』気質がとても役立っていた。
夜になれば竈が生まれ、朝が来れば砂と崩れて何も無くなるとなれば洗い物の心配がいらない。鍋さえ自作してみせるので、これには飯当番が大変喜んだ。また火も薪を用意するまでもなくステラが人力コンロとなって鍋を温める。
故に水さえあれば簡素で味気ない保存食が肉のスープに早変わりだ。加えて商品の一部を切り崩して野菜などを混ぜれば、何とも味わいぶかい腹持ちの良い夕餉になるのである。
さらに器もサクッと石の器と匙を作って渡すという気遣いである。これで熱い飯をやけどせず食えると皆に大変喜ばれ、ステラは商隊の、特に女性陣に囲まれて大変持ち上げられていた。
人これを女子会という。
年齢層はおばちゃん達が殆どであるが敢えて言おう。これは女子会である。異論は許されるが、結果どうなるかは保証されないので注意が必要だ。
「いやー、わるいねえ! いつも手伝って貰っちゃって」
「かまわないさ。人生楽ありゃ苦もあるし、旅は道連れ世は情けなんていうしね」
「それでもこれだけ至れりつくせりなんてそうないよ! ところで……魔力は大丈夫なのかい?」
「むっふっふー小生魔力量に関してはバカみたいに有るからね~♪ 気にしないで大丈夫だよ。何ならもう1戦交えても余裕があるくらいだ」
「やめとくれ! ありゃ肝が冷えたんだ……」
「おっと、こりゃ失言だね。でもまぁ被害はなかったから良かったろう?」
「ほんとうにね。生き残れるなんてビックリだわ」
うんうんと頷くのは同じく支度に参加しているドワーフの
「所でステラちゃん、相方のシオンくんはアレかい? 恋人なのかい?」
「おおん?!!」
急に話題を振られて魔法組成が崩れ、コンロの火がバボンと火柱になる。慌ててすぐに戻したのでスープが焦げることはなかった。
「だ、大丈夫かい?」
「こっここここここいびとですか?!」
「え……違うのかい?」
「うっ……そー、のー……あー、うー……ちがい、ます……です…………」
「「「あー……」」」
言葉を言うごとに縮こまりしょんぼりする彼女に周りの女性は察し……同時に首をかしげる。彼女はドワーフから見ても美形であり、そんな彼女が踏み出しあぐねているという事実に理解が出来ないのだ。ちょっとしなだれかかれば落ちそうなものだが……。何某か問題があるのだろう。
たとえばシオンに恋人が居るとか。
許嫁が居るとか。
許されぬ恋だとか。
実はシオンは妻子持ちだとか。
あるいはクソ鈍感野郎であるとか。
女性たちの妄想はおひれはひれが着いて加速する。
「なんていうか……苦労してんだねえ」
「う、うんっ……もうどうしたらいいのか私わからなくて……」
「夜這いは試したのかい?」
「よよよよよばっ?! よばっ!」
因みにだが夜這いとは本来、2つの家が合意のもと行われる通い夫行為である。この場合ステラの親は居ないためステラ次第……またシオンについても、もし彼女の母が生きていれば嬉しそうに微笑み受け入れただろう。
つまり理論上はオールオッケーである。
「なら試してご覧よ! ステラちゃんは器量よしだからきっと行けるさ!」
「でででででもきらわれたらどどどどうしよう……」
泣き出しそうに震えながら動揺する彼女に、女性たちはとてもほっこりした。確かに今言葉にした女性が言う通り、ステラは
最早憎たらしいを通り越して
「ったくあの子、シオンとか言ったかい。可愛い顔して朴念仁だねえ! こんな可愛い子を泣かすなんて!」
「ほんと男ってやつはわかっちゃいないよ!」
「酒のんでりゃ愉快になれるんだから世話ないや」
「ありゃタコスだよ!」
おばちゃんたちのシオンの心象だだ下がるが、今彼はまさに背中に紅葉を作っている最中なので許して欲しいところだ。もちろんそんな事情、彼女たちの知る由もないし知ったこっちゃない。カアチャンこそ世界最強なのは知っての通りだろう。カアチャンという存在は世界が異なっても……最強なのだ!
「ううー、しかし女らしさってなんなんだ……」
ステラがポツリとこぼすと、キョトンとした女たちがううむと首をひねる。
「そりゃ……料理の腕じゃないかね?」
「いやいや裁縫もできなきゃ美人じゃないよ」
「やりくり上手はもてるね、財布は握っとかなきゃ酒に使われちまうよ」
「ああ、洗濯も上手だといいねぇ。布がどうしても痛むから」
「
口々にひねる女らしさにステラの顔がどんどん青くなっていく。
「ぜ、ぜんぶだめだぁ……おしまいだぁ……」
そしてついにぽろぽろと泣き出した。竈の火も呼応するようにぽぽぽと青く燃える。
「だ、大丈夫だって! あたしがとびっきりのやつを教えたげるよ」
「あたしもさ! 裁縫なんて慣れさ、慣れ!」
「計算はできるんだろう? やりくりはすぐできるよ!」
「洗濯なんてちょっとしたコツさ! 大丈夫、アンタあんだけ器用なんだ、出来る出来る!」
「手練手管、おしえたげようか?」
口々に励まされたステラは少し震えながらちいちゃく口にする。
「そ、そうかなぁ……ふりむいて、くれる、かな……」
「それよりメソメソしてるほうがもてないよ!」
「ふむん?!」
ぐしぐしと涙を拭って、キッと前を向いた。
「おばちゃん、わたし、がんばる!」
「その意気さね!」
背中を叩かれたステラは、和やかに見守られながらスープの面倒を見るのであった。
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