05-02-04:今後の相談
デルフィの秘密を聞いた後、再度リビングに戻ってきた。そして話し合いの結果2人は店の3階を使わせてもらうことになった。とはいえそれで黙っていないのがステラである。ルサルカにおける拠点として使うなら相応に対価が必要だと強く訴えたのだ。
具体的には店の手伝いの提案である。だがステラの所業をしっているデルフィは問題ないと断ったのだが、ステラが『働かずに食うメシは死ぬほど不味いんだ……』と泣きそうな顔をして懇願したので結局折れてしまった。
彼女の食に対する並々ならぬ熱意はデルフィも知るところである。それに労働の後に食べる食事は確かに美味い……ということで急遽発生した臨時従業員の扱いに頭を悩ませるデルフィであった。
ステラは放って置くと何をするかわからず、シオンは嘗ての主の子……今も『若様』と敬う相手である。それを部下として使う必要があるのだから悩まぬ訳がないし、かといって受けてしまった以上仕事を振らねばならない。とりあえず庭の世話は任せられないので、その他の雑事をふることにした。
具体的には配達だ。
「大丈夫、街の全体像はもう把握しているから問題なくできるぞ」
「本当に問題ないのですか……?」
「デルフィ、彼女の言うことは本当です。『誰がどこに住んでいる』かはわかりませんが、特徴さえ言ってくれれば一直線で向かっていけるでしょう」
事実ステラは既に街の全体図を把握している。さらに言えば洗濯紐の通る場所……つまり猫の道も把握しており、緊急速達も可能な域にあるのだ。シオンが礼儀を補助すれば、宅配について完璧にこなすことが出来るであろう。またデルフィとしても御しきれいない相手の面倒を、
デルフィにはステラの面倒をみるなど到底出来そうにないことだった。
「ではその方向でお願いいたします」
「合点承知だ、任せ給え!」
「抑えは此方でするので安心してくださいね」
しかし今日は日も沈みつつあり仕事は明日からとなるだろう。そして話し合うべきはもう1つ在る。
「さて、デルフィさんにも聞いてほしい事として……ルサルカにおける我々の方針がある」
「ヴォーパルの剣を巡る旅をしているのは存じておりますよ」
「そのとおり、なので今わかっていることを整理しましょう。まずこの街では『ウタウタイ』と呼ばれる歌唱力を競うお祭りに湧き上がっています」
「優勝者にはヴォーパルの剣、『
「そのため街は港から出る船は減少傾向にあり、ある意味で封鎖状態にあります。ギルドの様子からも伺いしれますね」
うなずくデルフィが補足するように続ける。
「ちなみに強大な怪物が出るとはいえ毎年の事ですから、皆気楽なものですよ。『ウタウタイ』様が鎮めてくだされば被害も最小限ですみますし。とはいえ漁ができないことに嘆く人も少なからず居ますけれど」
「わかりました、此処までが今わかっていることですね」
シオンの締めにステラが腕を組みうなずいた。
「……で、だ。肝心の
小首をかしげるステラに呼応して、シオンが胸元から六花の結晶を取り出す。チカリと光るイフェイオンが煌めき、聞き慣れた女性の声が『
『――現在疎通確認を行っていますが、すべて拒否されています』
「拒否? ということはイェニスターのように眠ってたり、あるいは壊れているわけじゃないのだな?」
『肯定。
「なにか不都合があるのですか? 例えば『ソツー』というものについて不具合が発生しているとか……」
『
いまいち分かっていない様子のシオンとデルフィに、ステラがぴっと指を立てて補足をする。
「ここに早馬があるとしよう。でも届け先の街の入口で入場を止められて届けられない。それが身なりに拠るものか、場所故か、あるいは何か事故が起きているのか定かではないが、とにかく入場できない……っていうのが現状だ」
「理解しました……ですがなぜそのような事になっているのでしょうか。以前イェニスターとやり取りしたときは目覚めた後は特に何の障害もありませんでしたよね?」
『肯定。よって
これにシオンが顔を上げ、ステラと目を見合わた後デルフィを見た。
「なぁデルフィ君よ。ルドベキアってこの街の守り神とかなんとか聞いたんだが……つまり目立つところに置かれているんじゃないか?」
「今は領主館に保管されていますよ」
「であれば守りは非常に固いでしょうねぇ。仮に侵入するにしてもちょっと計画を練らないと難しい……一般公開されるのは何時ですか?」
「『鎮めの歌』、つまり『ウタウタイ』のクライマックスですね」
「だがそれを待っては遅いんじゃないか? そもそも一般公開されたからといって、10メートル以内に近づけるとは到底思えん」
「僕も同意しますが……なら侵入しますか? 僕とステラさんであれば如何様にも出来るとは思いますが、最低限警備状態など確認が必要です。曲がりなりにもヴォーパルは至宝、厳重な警備が敷かれていることはまず間違いがありません」
「若様、それは問題ありません。既にルドベキアに関する警備情報等は入手しています」
「なんだって?」
声を上げた笑顔のデルフィにステラが目を丸くして驚く。だが動揺しているのは彼女唯1人だけだ。
「何れ若様がいらっしゃると思い、調べておいたのです」
「上出来です……流石母様に仕えた庭師なだけはありますね」
「過分なお言葉です」
「ま、まった。世界的に知られた至宝の警備だよな、そんなぺろんと調べられるほどザルなのか?」
「いや、相応に苦労しましたが出来ないわけではありませんよ? 実際に侵入することに比べれば幾分容易ですし、お2人が来るまで欠伸が出るほど時間をいただけたのですから当然です」
ここでステラは『アルマリアの使用人』達は全て何某かのプロフェッショナルであり、彼もまた屋敷の庭師だったことを思い出した。庭師は表に出ぬ影であり、存在を感じさせぬこともまた技能の1つなのだ。
(え。いや、そうなのか?)
ステラの中で庭師概念が混乱したが、少なくともデルフィの持ちうる技能はシオンがもつ隠密技能と同じ質のものだ。ならば実物を得るでないのなら可能なのだろうか……。ただ1つ分かるのは、デルフィは嘘をつく人ではないということであろう。
「急ぎでしたら今日にでも向かうことは可能でしょう。如何されますか?」
ならば信じてみるしか無いなとステラはうむりとうなずいた。
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